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 この学校の教員は普通の学校教師だ。
 朝から放課後までは通常の学校と同じように、文科省によって定められた履修単位を稼がなくてはならないのだ。
 名目上は小学校から大学まで一貫教育の国防省所管学校法人なのだから。

 担任教諭も一般的な高校教師だった。
 昨日言われていたとおりに皇たち四人とはクラスメイトで、しかもそのクラスを牽引するリーダーグループらしい。
 皇に連れられて顔を出した俺に、担任は初対面のように紹介してくれた。
 皇のことは学内で誰よりも良く知ってる相手なんだけどね。

 担任の名は松田というそうだ。
 学内ではマッチの愛称で知られているのだとか。
 それを愛称を付けられた側が自己紹介するというのはどうなんだろうと思える軽いあだ名だと思うんだけど。

 学業を担当する教員は特殊能力についてはタブーとされているそうで、どんな能力なのかくらいは資料で知ってはいてもそれを話題にすることは禁止されている。
 そのため、教室へ向かう道すがらの話題は前に通っていた学校についてだった。
 出身校の学力レベルについては内申書として伝わっているようで、授業は多分退屈だと思うぞ、と気遣われてしまった。
 せっかく苦労して学力の高い高校に入学したのに現実がこれでは気の毒だ、とはっきり言われて、俺としては苦笑を返すしかない。
 相手が国家権力では逆らうのもままならないからな。

 この学校の学力レベルは低めに設定されている。
 学生の基準がそもそも特殊能力を持っていること一点のみなので、学生たちの学力レベルはてんでバラバラなんだ。
 だったら学力に応じてクラス編成して能力に合わせた教育をすればいいのに、学業のクラス分けは被災日順の生年月日順で並び替えて順番に一から十二クラスに分け、後から見つかった能力者は見つかった順に続けて振り分けられてできている。
 そのまま大学卒業までクラス替えもない。

 とはいえ、大学はさすがに自由選択で、大学に進むか就職するかは自分の意思で決めることができる。
 ただし、就職先は国軍特殊部隊特異能力技術者チーム以外に許されないから、だったら大学に行って就職を引き伸ばそうとみんな悪あがきをするわけだ。

 正直なところ、学問という意味ではもう一つの世界できっちり進学校生活してるからあまり焦りは感じない。
 同じ学校に通っていた頃は一日目で予習して二日目で復習するっていう便利さがあった分、環境は悪くなっているわけだけど。
 それをわかってるのだからその分勉強時間を作ればいいだけだ。
 幸い部活をしていない俺は時間を持て余していることだし。

 教室は三棟並んだ校舎の真ん中、乙棟の三階ど真ん中という思いっきり中心部にあった。
 教室に教師が入ると慌ててそれぞれが席に着くのはどこの学校でもみな同じ。
 今日の日直の号令で朝の挨拶がされた後、松田先生が俺に手招きした。

「みな聞き及んでいるかと思うが、今日からこのクラスに転入生が来ることになった。斎木稲荷くんだ。よろしく頼むぞ」

 皇、鈴木、高橋、植村の四人は教室内のバラバラな席にそれぞれいて、それぞれがにこやかに迎えてくれた。
 他の面々から警戒心がバシバシ伝わってくるだけにありがたい視線だ。

 与えられた席は中央最後尾だった。

 朝会を終えて松田先生が退出すると一時限目が始まるまで十分ほど時間ができて、俺はそれぞれバラバラにやってくる四人に囲まれた。
 皇が世話係なのは知られていて昨日の放課後に一緒にいたのを多くの人々に見られていたから隠す必要もなく。
 おはようと声をかけられて同じ答えを返した。

「な? 同じクラスだったろ?」

「てか、うちの学年なら次の新入りはこのクラスって順番だったからな。
 推理する必要もない簡単な事実さ」

 解き明かして見れば実にわかりきったことで、俺も笑って返すしかなかった。
 そもそも十年も経ってから新たな能力者が見つかるなんて思われていなかっただろうし、次はどこのクラスだとか話題になるのもわかりきっていた。

「でも、稲荷がこのクラスで良かったよな」

 しみじみと頷きながら皇がそう言って、他の三人が苦笑と共に頷く。
 そもそもその根拠が皇の恋人という以外に思い当たらず、それがしみじみと述べられるほどのこととも思えなくて俺は首を傾げたけれど。

「何で?」

「いや、この学年は何の偶然が働いたのか知らないけど、クラス分けがなかなか特徴的でな。
 十二クラスあって一番大人しいのばかり揃ってて学力も高いのがこのクラスなんだよ。
 五クラスは学級崩壊してるし、他の六クラスもサボりが多くて学力レベルも低い。
 ぐみ高出身の稲荷にはあまりのレベルの低さが苦痛なレベルだと思うよ」

 それは皇もまた同じだけの学力を持っているからこそ、しみじみと語られてしまった。

 この学校で学級崩壊が起こってしまうのは、わからなくもない話だと思う。
 ただでさえ逆らうことのできない締め付けの中で学校生活を余儀なくされ、出かけることもままならない環境だ。
 反抗期の男子学生にとって唯一自由の効く学業のサボタージュに走りやすいのも無理はないと思う。
 勉強そのものは一日おきにもう一つの世界でもできるからこそ、気にならないのだろう。

 皇が自然に口にした略称に、植村が首を傾げて問い返している。

「天野。ぐみ高って何?」

「え?
 ……あぁ、都立めぐみが丘高校。で、略称がぐみ高。
 去年の弁論大会優勝校さ」

「あぁ。天野が唯一毎年欠かさず見てるあれな。
 へぇ。すげぇじゃん」

 毎年欠かさずにチェックする高校生の大会が弁論大会っていうのは、なかなか珍しい趣味だ。
 甲子園とかじゃないわけだ。





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