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 皇はバスケ部に所属していて、放課後には部活に直行してしまう。
 同じクラス内にいるから授業の間の休み時間や昼休みはたいてい一緒にいてクラスメイト黙認のイチャイチャぶりを発揮しているわけだけれど、放課後になれば皇はまた明日とあっさりした別れの挨拶を置いて教室を出て行くし、俺もひらひらと手を振って見送る姿が定番だ。

 普段が目に毒なくらいのイチャイチャぶりだけにそのあっさりした様子が気になるようで、ちょっと仲の良いクラスメイトなんかは皇に玩ばれてるんじゃないかと心配してくれたりしているらしい。
 それぞれの行動は制限しないことが仲良しカップルの秘訣だというだけなんだけどね。

 まっすぐ家に帰ってもつまらないので、俺は毎日通学路途中にある市立図書館に寄っている。
 明治時代から昭和初期くらいの貴重な書物を収蔵している閉架書架が俺の気に入り場所。
 普通は入れない部屋だけれど、学生証を提示して手続きすれば良いだけのことだ。

 ここに収められている資料はどれも貴重品で、内容も実に興味深い。
 中には当時の性生活事情とかぶっちゃけエロ本的な本とかも混じっていて、俺が好んで手に取るのは所詮その程度の本だ。
 っていうか、何でこんなものが図書館にあるのか実に不思議だけど。

 この普段誰も来ない密室に来て、半分は収められた本を読んでいるのだけれど、半分は人目につかないところで能力の訓練をするという目的がある。
 自宅では自分の部屋は確かにあるけれど家族の誰もがノックもせずに入ってくるから、落ち着いて訓練することができないんだ。

 別になくても困らないこの能力をそれでも苦労して育てているのは、何か不測の事態に直面した時にちゃんと使えるように身体を慣らしておくためだ。
 元々は自分のためだったけれど、今は皇のためだと思ってる。
 彼を悲しませたくないから自分を守るし、彼の身の危険からも守ってあげたい。

 こうして訓練している間に、俺は空間を操る能力の応用でいろいろな大技を開発している。

 一つは結界。
 物語に登場する魔法使いや陰陽師にも匹敵すると自画自賛するその結界は、つまり出口のないゲートで周囲を囲むという発想でできている。
 大したサイズは作れなくて寮の部屋を覆うくらいがせいぜいだけれど、力を抑えずに思いっきり開放してやれば実は半径五キロくらいの半球体も楽勝なんじゃないかとは思う。
 自分自身が中心にいる必要もなくて、球体である必要もない。
 一番多い用途は、もう一つの開発した大技によって周囲に与える被害を食い止める防御壁だったりする。

 そのもう一つの大技というのが、これは本当に大技。
 空間の一点から圧力を抜いたり加えたりすることで周囲の空気を動かす。
 度合いによってはカマイタチすら起こすことのできるその力は、風使いと呼んでも遜色ないはずだ。
 中学のときに天気の勉強をして思いついたこの技は、つまり地球規模で起こる様々な気象現象のミニチュア版といって良かった。
 天気ならば太陽の熱で暖められた空気が上昇することで気圧が下がるところを、俺は空間自体の圧力を抜いてやるわけだ。

 今でこそ簡単に思い通りに風を操る俺だけれど、本来は結構難しい。
 原理が原理であるだけに風それ自体を操っているわけじゃなくてそれに起因する方を操っているわけで、細かい指示を与えられるわけではないからね。
 風というのはそもそも、気圧の低いところに気圧の高いところから空気が引っ張られて起こるものだから、一点の圧力を下げると四方八方から吹き込んでくることになる。
 これを一方のみにするのに、試行錯誤を繰り返した。
 風の強さもそよ風から竜巻並みまで自由自在だけれど、これもまた日々の訓練の成果だ。

 今日も俺は自分なりの訓練に精を出す。
 書架に被害が出ないように閲覧用スペースと区切る結界壁を張り巡らせる。
 そうして貴重な文化遺産を守ってから、前方に手を差し出した。

 手のひらに乗る大きさのそれは、球状の空間。
 作り出している本人だからこそ場所も大きさも把握できるけれど、それ自体は人の目には見えないものだ。

 ほわりと軽く球状空間の圧力を散らしてやると、この閉鎖された無風のはずの室内にそよ風が吹く。
 短くそろえた髪が涼しい風にさらりと揺らされる。

 空間の圧力を減らしてやることで、吸引力はどんどん強くなる。
 理論上、最終的にはブラックホールまで作れる。
 といっても、吸い込む先の出口がないのでベタリと張り付くだけだけれど。

 この張り付く力は、一方方向に限定できれば磁石の代わりになる。
 それも対象物の材質に制限がないからすごく便利なんだ。

 今はこの便利な力の次のステップを練習中。
 切り取って支配下に置いたこの球状の空間を動かすことができたら物体移動もできると思うのだけれど、空間というのは連続した三次元の広大な事象であり俺が操れるのはそのほんの一部で、切り取った空間を隣の空間と入れ替えて動かしていくのは圧力を抜いて風を起こすことなんかよりずっと難しい離れ業なんだ。





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