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 そんな話をしながら校舎内を案内してもらって、道場に辿り着いた。

 今日のグループはチーム訓練のグループと単独のグループの二班で、建物内を十字に切る廊下で仕切られた四室のうちの二室を占拠していた。
 他二室は開放されて、能力開発の場に提供されていた。

 しかしまぁ、道場というから狭い空間を想像していたけれど、そもそも千五百人の学生を十グループに切っているのだから一グループ百五十人はいる計算で、そのメンバーがちょっと暴れても余裕があるスペースは、つまり体育館を四つ繋いだようなでっかい建物だった。
 小ぶりの野球場といっても過言ではない。

 開放されている二室は、一方は何もない板張りの部屋で、一方は障害物のいろいろと置かれたリノリウムの床だった。
 建物自体が南北にまっすぐ建っているから、それぞれの部屋は建物の中心から見て斜め四十五度の位置にあるため、それぞれの部屋に『艮』『巽』『坤』『乾』の名前が付けられていた。
 寮にも四神の名前が付いているし校舎は甲乙丙だし、なんとも東洋的なネーミングだ。

 障害物のある方は人気があって混みあっていたけれど、板間の方は十人くらいの人が点々と散らばっているだけだった。

 その板間に四人は俺を促した。

「天野のためにも、俺らとツルんで行動して欲しいんだよね。
 せっかく俺らと同じクラスになるんだし、俺らも天野と離れる気はないし、別行動して焼き餅とか焼かれるととばっちり受けるのは俺らだし」

「だから、俺たちの実力を見てせめて釣り合っておいて欲しいわけだよ。
 どうせ実力の全部を見せる気がないのなら、俺たちのレベルを基準にしておいて欲しい」

「力がありすぎてもなさ過ぎても周囲の目が鬱陶しくなるからな。
 同じ程度なら目立つこともない」

 というのが、鈴木、高橋、植村の三人の言い分だった。
 てか、同じクラスだなんて初耳なんですけど。

 まぁ、周りよりできすぎてもできなさすぎても周りの干渉を受けるものでそれが鬱陶しいというのは気持ちがわかるし、自分が平穏に暮らしたくて友人にそういう注目を浴びやすい人がいるというのは矛盾しているわけで、言いたい事は十分理解できた。
 それでもその友人を切り離したくないのなら、自分が耐えるか友人に協力してもらおうというのは妥当な判断だ。

 四人の能力は、これもまたてんでバラバラだった。

 鈴木は透視が使える人で、昔は超能力といえばこれというくらいに知られていた、カードを裏返して表の図柄を当てる実験は百発百中。
 壁の向こうや扉の向こう、建物の外から中を見ることもできる。
 ただし、彼ができるのは邪魔な障害物を透かして見ることであって遠見ではないから、彼の視力以上のものは見えないのだとか。

 高橋は皇と同じタイプで、筋力が尋常でなく発達している。
 垂直跳び一メートルって何の冗談だってレベルだ。
 踏み台を使えば建物二階分は余裕である高さのこの道場の天井に手が届く。
 走るのも早くて、百メートルを四秒ちょっとで走り抜ける。
 握力計をぶっ壊したほどの握力に、二百キロの鉄アレイを片手で持ち上げる腕力など、オリンピック選手を軽く凌ぐ実力だ。
 見た目は確かに多少鍛えているようではあるけれど、そんなに筋骨隆々というわけではないのだから余計ビックリする。

 植村はテレパシスト。
 身体の一部を相手の身体のどこかに直に触れさせなければならないという制約はあるものの、それこそ手を握るだけで相手の表層意識を全て攫えるし、脳内の思考力の分野に干渉して声を渡したり記憶を叩き壊したり暗示にかけたり、ほとんどなんでもできる。
 今まで同じタイプの能力者でもガードできなかったというから、防御方法はないに等しい。

 皇は一般人が持ついろいろな能力を均等に二〜三倍にした感じの能力者だ。
 筋力とか五感とかは他より多少優れていると言える位で、スポーツ選手に比べれば目を見張るほどではない。
 それよりその能力値が目立つのは、脳の反応スピードの速さだった。
 記憶力計算力はもちろん、発想力やら瞬発力やらという脳の活動スピードに頼る力も軒並みものすごい。
 人間業じゃないと同じ能力者から言われるのだからよっぽどだろう。

 説明を受けながら実際に見せてもらって、俺は改めて自分がどのようにして誰にどれだけ力を示すのかを考える必要性を実感した。
 無防備にオープンにしてしまうのは却下として、俺の能力が空間を操る力なのだという根本が知られてしまえば途端に隠している応用技までバレるという危険性を今更ながらに思い至ったわけだ。

 しかしそもそも、通報されてしまった経緯から瞬間移動らしきものができるという事実はとっくにバレている。
 これは隠さずに他を、上限を隠そうというのはなかなかに難しいのだ。

 空間をショートカットする力の源が正しく理解できてしまえば、俺が持つ他の力だってそれの応用なわけで、発想をちょっと変えるだけでほとんど誰でも思いつく。
 何しろそれを自分なりに応用して透視もどきや遠くの物音を聞く力を覚えたのは、中学校にも入学する前だった。

 やっぱりあれかな。
 下手に隠すより、空間を繋ぐ力そのものはオープンにしちゃって物体移動のみって制約付けるのが無難かも。

 彼ら四人に俺の能力も見せて欲しいといわれて、これだけ見せてもらっておいて秘密にするとか友達甲斐のないことはしたくないし、こくっと頷いた。

 手に取ったのは透視実験用のカード。
 トランプのように束にして軽く切って、上からつまむように目の前に持ち上げる。
 何が起こるのかと注目する四人の目線を確認し、五人で円になって正座している俺の膝の前に落ちるようにバラバラと落とした。
 カードは途中で掻き消えて、正面に座る高橋の膝の前に積み重なっていく。

 見ている四人の表情は、目が点、というやつだった。





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