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「傷付いてやすねェ」
沖田の声に菜々は振り返る。
「沖田さんが地味とか言うから!」
「…アンタ、もしかして山崎が好きなんですかィ?」
「な、な、なんで…っ!」
ムキになる菜々にカマかけてみたら、否定のしようが無いくらい、菜々の顔は真っ赤になる。
「……さーくん、私の事、妹だと思ってるもん。今回だって、私の両親に頼まれたから色々心配してくれてるだけで…」
菜々は顔を逸らして、小さく呟いた。
(めんどくせー)
沖田はこの二人が両思いでありながら、すれ違っている事に直ぐ気付いた。
「山崎、アンタに好意持ってる筈だから、とっとと告白しちまいなァ」
「………えええっ!?」
驚く菜々を置いて、沖田は去ろうとした。が、
「ま、待って、沖田さん!!それ、本当ですか!?でも、どうやって告白したらいいの!?」
物凄い勢いで、服を掴まれて質問をされてしまう。
「俺ァ、そこまで面倒みれやせん。告白ぐれェ、自分で考えなせェ」
「え、そんなぁ…」
「自分で考えなきゃ、意味ねーだろィ。人に聞いたまんま伝えても、ただの伝言だぜィ?」
「そっか…ありがとう、沖田さん」
納得した菜々は沖田から手を離すと、自分が泊まっている自室に戻っていった。
「…以上が、調べた事です」
山崎が土方に報告をした後、盛大な溜め息を吐いた。
「うぜーな、山崎。なんだ?そんなに俺の指令が気に食わねーのか?よーし、切腹だ、コラ」
俺が介錯する、とばかりに土方は刀を抜き出す。山崎は慌てて、首を横に振った。
「ち、ちち違いますよ!あの…ちょっと、ふられた…ような…」
「あ?」
「俺、菜々の事好きなんですけど…お兄ちゃんだって言われて…」
「それを何故俺に相談する」
唐突の山崎の相談に、土方は刀を収めて呆れた顔になる。
「だって副長、モテるじゃないですかァァァ!!」
「知るかよ、そんな事!!関係ェねーだろ!!」
山崎の絶叫を一蹴した後、煙草に火を点けた。
「で、ちゃんと言葉で伝えたのか?」
「へ?」
「だから、ちゃんと好きだって言ったのか?」
なんだかんだで、土方は山崎の話を聞く。
「いや、伝えてないです…」
「だったら、ちゃんと伝えろや。完全にふられるかどうかは、その後だろ」
「…そうですよね!副長、ありがとうございます!」
山崎は明るい笑顔をして、副長室から出て行った。
菜々を探して屯所内を歩き回る山崎。探している内に、色んな考えが頭に浮かぶ。
(てか、どう切り出そう。"話があるから、いいかな?"…それとも、いきなり"好き"って言う?)
一方、菜々の方は…。
(お部屋で、じっくり考えたから大丈夫!絶対、今日中に告白して、さーくんともっともっと仲良くなるんだからっ!)
自室から出て、山崎の部屋へ向かっていた。
山崎も菜々も、頭の中で伝える言葉を繰り返しながら、深呼吸をして歩く。
「あっ」
完全な心構えが出来る前に、二人は廊下でバッタリと会ってしまった。
お互いに、一瞬気まずそうな顔をしてしまう。
「あの…」
「あのね…」
口を開けば、声が重なる。
「さ、さーくんどうぞ」
「いや、菜々の方から言いなよ」
「え、と…」
頭が真っ白になった菜々は、さっきまで繰り返していた言葉が出ない。
「ミ、ミントンしよう!?」
代わりに出たのは、告白とは遠い言葉。
「そ、そうだね!久しぶりにしようか!!」
山崎の方も、考えていた言葉が出なかったので、喜んでその誘いを受けた。
夕暮れの中、屯所の庭で山崎と菜々は仲良くミントンをする。その様子が目に入った土方は、足を止めた。
「告白、ちゃんと成功したのか」
「いや、してやせんぜ」
「うおっ、総悟!?」
庭の茂みから、ひょっこりと沖田が顔を出す。
「菜々がミントンしよう、とか言い出して、まだ兄妹の関係でさァ。両思いのクセに、じれってェ事してやすよねェ」
「あ?両思いなのか?」
沖田の情報に、土方はもう一度ミントンをする二人を見た。
「ま、そーなら、近い内くっつくだろ。総悟も余計な事すんなよ」
踵を返して、土方は歩き出す。
「面白そうなんで、おちょくってきやーす」
「人の話を聞けェェェ!!」
走り出そうとする沖田を慌てて止めた。
その後、山崎と菜々がカップルとして成立したのは1ヶ月後だった。
=終=
→あとがき
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