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冗談じゃない。
私は普通に恋愛して、普通の人と普通に結婚したいだけなのに…。
「なんでお見合いなんかしなくちゃいけないのよー!!」
ダンッとテーブルを叩いてみても、向かいに座る父はちっとも動じていなかった。
「お前も、もういい年だろう。誰かと付き合っている様子は無さそうだからな。真選組の副長殿に、話を持ちかけた」
「……真選組の副長?」
顔は知らないけど、噂で聞いた事がある。鬼の副長と恐れられ、極度のマヨラーだとか。
…うん、やっぱり冗談じゃない。
「絶対嫌だ。そんな怖そうな味覚音痴なんかと」
「そう言うな。会うだけでも会ってくれ。最近、長官がお見合いのセッティングにハマっているからな。私の立場も考えてくれ」
「…………」
私はムスッと、頬を膨らませていたが、父の困った顔を見て、仕方なく会うことにした。
いよいよ、お見合い当日。
「じゃー、あーとーはー若い者同士にまかせるぜェ」
長官だというおっさんが立ち上がると、私の父も立ち上がって、部屋から出て行った。部屋には、私と副長さんだけとなる。
…朝はお見合いなんて、嫌でしょーがなかったのに…。
「菜々、だったな。大方アンタも、無理矢理見合いをさせられた口なんだろ?」
(やめてェェェ!!そんな素敵な顔で、そんな素敵な声で私の名前を呼ばないでェェェ!!)
そう、この土方さん。
もろに私好みの顔と声をしてらっしゃる。
「いや、まあ、父の立場を考えれば仕方ないかなって」
「勝手な上司を持つと、苦労すんのはどこも一緒だな」
そう言って、苦笑する。
ダメだ。素敵過ぎて、直視出来ない。
私は慌てて顔を逸らした。
……って、この沈黙、どうしよう。な、何か…話題を…。
「なァ、ちょっくら空気吸いに行かねーか?」
話題を考えていると、土方さんの方から誘ってくれた。
「はいっ、喜んでェェ!!」
ヤバい、なんか声、裏返ったし。
でも土方さんは、特に気にした風もなく立ち上がる。私も立ち上がって、土方さんの後を追い掛けた。
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