SS・タンタン(彩雲国物語)

「蘇芳ー、勉強を見て欲しいんだけど」

「はぁ?」

自宅でゴロゴロと、桃色草子を見ていた蘇芳が間抜けな声を出す。
寝転んだまま顔を上げて、自分を見つめる年下の幼なじみを見つめ返す。

「あのねー。俺、今日、仕事休みなの。休みの日にまで、んなめんどーな事はしたくないわけ」

「だって!蘇芳、官吏じゃない。私、国試受けて、官吏になりたいもん!」

ぷくっと頬を膨らます少女だが、蘇芳は気にも止めず、パタパタと手を振った。

「俺に聞くのが、間違ってるっての。官吏なんて、俺ん家がまだ貴族だった時に買った職なんだからさー」

「…でも、ちゃんと官吏としてお仕事してるんでしょ?」

「だからー、仕事はしてても、国試は受けてないの。俺は馬鹿なの。俺に分からないとこ聞いても、なんのプラスにならないの」

少し強めに言うと、少女は目を潤ませ始める。それを見て、蘇芳は軽く溜息を吐き、身体を起こした。

「大体、なんで官吏になりたいわけ?まだ女の官吏は風当たり強いし、仕事はめんどーだし、タケノコ家人に睨まれるし」

最後の言葉に少女は首を傾げたが、小さく口を開く。

「蘇芳の……傍で、働きたいの。少しでも…長く、いたいの」

微かに頬を赤らめている少女を見て、蘇芳は納得した。

「それ、無理だと思うよ。俺が今配属されてるとこは特殊だし」

「一緒の部署じゃなくても、朝廷に居られればいいの!ね、分かる範囲でいいから。私、秀麗さんのように頭良くないから、蘇芳がちょうどいいと思うし…」

「…今のままでいーよ」

蘇芳が言葉を遮って、ポツリと漏らす。

「えっ?」

「俺、頭のいい女、嫌いだからね。親父に『紅秀麗に求婚して来い』って言われた時、悪夢かと思ったし。頭良くないなら、今のままのアンタがいい」

フ、と穏やかに笑う蘇芳の姿に、少女は顔を真っ赤にした。
蘇芳は指で、少女の額を軽く弾く。

「官吏になる必要なんて、ないからさ」

「うん」

弾かれた額に手を当てて、少女は嬉しそうに微笑んだ。

=終=


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