お題:秘密
「昴さ…あ」
リビングに入ると、ソファで眠る昴さんがいた。
反った喉から僅かに覗く首に、生唾を飲みこむ。
静かに足を進め、ソファまで近づく。
片膝をソファに立て、ハイネックに僅かに触れた時だ。
「…悪戯は良くないですよ」
片手で私を組み敷いた昴さんは、立てた人差指を唇に添えた。
お題:もう一回
「ん…」
「…困りましたね、僕も飲んでしまいましたし、タクシーもこの時間では、呼んでも遅くなるでしょう」
「じゃ、ここで寝る…」
目の前でソファに倒れ込む君に溜息を漏らす。
無防備な様を見せつけてくるのは安心しているからだろう。
「全く…」
それでも、酔いが回り、煽る様な目をする君に全くそそられないわけではない。
優作さんの小説に栞を挟んで閉じ、立ち上がる。
今にも寝てしまいそうな彼女の側で手をついた。
「起きて下さい」
「…」
「…いい加減――」
首に手を回されたと気づいた時には、彼女との顔の距離は埋まっていた。
柔らかな感触のそれが音を立てて離れていく。
閉じられていた瞼が開き、潤いを帯びた瞳が俺を捉えた。
「おやすみなさい」
ご満悦な顔でそう返すと、彼女は腕の力を緩めて再びソファに頭を預けた。
「…もう一度、させて下さい」
後頭部を掴み、今度は自分から彼女に口付けた。
…ただし、挨拶通りには1日を終わらせるつもりはない。
お題:心臓
「じゃあ、夕飯ごちそうさまでした…」
「いえ、僕こそお客さんに色々と手伝っていただいて」
工藤邸から帰る時間を何かしら理由づけて延ばしてきたけど、もうネタも尽きてしまった。
玄関まで送ってくれた昴さんに背を向ける。
鍵を開けた扉を引いて少し開け、数秒その場で立ち止まってしまう。
名残惜しい気持ちが勝ってしまい、思わず振り返った。
「それ、じゃあ…お邪魔し」
直後、玄関扉に昴さんが手をついたことでそれは閉ざされた。
背中に感じる自分以外の温度に心音が増えていく。
「なに、を…」
「いやね、帰りたくないとあまりにも君の顔に出ていたもので…
――それで、帰らなくていいと俺が言ったら、この後君はどうしたいのかな?」
昴さんの声が変わっていて、彼が変声機のスイッチを切ったことに気付く。
久しぶりに聞いてしまった本来の声は私を留まらせるのには充分で、無言で扉を施錠する彼の手を止めようとは思えなかった。
「どうって…」
「今日はどちらで相手をしてほしいのか、聞いているんだが…」
「…!」
ああもう、この人に翻弄され続けたら、いつか心臓止まるに違いない。
お題:スマートな誘い方
「君の時間が空いてればでいいんですが、明日の夜食事をしに出かけませんか?」
「明日……」
「店は少し遠くなるので、車はこちらで出しますよ」
今日は何日だったか思い出してみる……ああ、明日はイブだ。
沖矢さんと知り合ったのはつい最近のこと。
あまり図々しいことをしたくはない。
「沖矢さんすみません、車を出してもらうのはちょっと申し訳ないかと……帰りの運転とか辛いでしょう」
「では、ここで隣人と食事を取るのはどうでしょうか。
僕とその隣人の1人で料理を作るんですが、1人増えるくらいなら問題ありませんよ?」
「あ、それなら全然。手料理楽しみにしておきますね」
「……僕こそ、移動する時間が省けて嬉しいですよ」
「……?」
どっちにしろ沖矢さんと24日に食事を取る流れになっていることに気づいたのは随分と先のことだった。
お題:白い吐息
「ただい、まっ」
小さな用事で昴さんと夜に出かけていた。
用事を済ませて工藤邸に戻ろうと外に出ると、冷たい空気に体は一気に晒されてしまい、玄関に入っても手はかじかんでるし、吐いた息は白いまま。
「マフラー解きますよ」
「あ、ありがとうございます……手がまだ上手く動かなくて」
「本当に寒がりなんですねえ」
「きょ、去年より寒いんですよ……雪降ってないくせに……――っん」
緩んだマフラーを掴んだままの手で、昴さんに引っ張られたと思いきや、ほぼ一瞬で昴さんとの距離がなくなった。
状況を飲み込めないこと数秒。
距離がまた生まれると、昴さんはさっきまで唇で触れていたところを親指で触れた。
「まだ、寒いですか?」
「い、いえっ充分過ぎるくらいです!」
この人のせいで白い息は熱っぽいものに変わってしまった。
お題:炬燵(工藤邸シェアやんわり)
「ここには炬燵がありませんね…そんなに寒いですか?」
『少しリビングは冷えるかな…』
「…では、こちらへどうぞ」
『腕広げて何してるんです』
「ブランケットもオプションで付けましょうか?」
『……いる』
「ふふ、結局人肌が適温ですよね」
『服着てるけどね』