04 2人のルール
「……」

 カーテンの隙間からまだ外の光が漏れてもいない、そんな時間に目が覚めた。夜にベッドに入って寝て、少しして目が覚めて、また寝て。こんなことを繰り返したのが原因か、昨日の疲労感はいまいち抜け切れていない。

 原因は絶対にあの男……沖矢昴に違いない。。かれこれ都内に引っ越して1人暮らしを始めて1年が経ち、1人で生活するのに慣れてきた時だった。なのに、コナン君のお願いに2つ返事したばっかりに、沖矢さんが同じ家で住むことになってしまった。
 久々の他人の存在を気にせず過ごす、なんて簡単には出来ない。そして私への嫌がらせを無意識にしてるつもりなのか、沖矢さんは私の隣の空き部屋を使うことにしたらしい。何でよりによって隣なんだ、もっと私に気を遣う気はないのか。

「……ちょっと早いけど、浴びてこよう」

 ゆったりとした動きでベッドから降り、着替えを持ってドアへ向かった。少しひやりとした空気が漂う廊下に出て、隣の部屋のドアをちらっと見る。……もうそこは空き部屋じゃない、いつ部屋の主が出てきて私とばったり会うことになるか。ああもう、迂闊にタオル1枚でこの建物の中をうろつけやしない。

「まだ、寝てるといいけど……どうせなら一生起きないでほしい」



「あれ?何も入ってない……」

 洗濯機の蓋を開けると、何も入っていなかった。昨日お風呂に入るときに確かに着ていた服や下着は入れたけど、スイッチを入れた覚えはない。ということは、沖矢さんが使ったのかな……起きてから聞いておかないと。なんだか嫌な予感がする。
 沖矢さんが洗濯機を使ったことはもう分かっていたのに、どうして使ったのか。その結論は昨日の夜から出ているはずなのに、それを忘れて浴室に入った。

「……さすがに無計画すぎた」

 本当はもう少しベッドに入っていたかったけど、今日は出かけないといけないからベッドでだらだらするわけにはいかない。

 シャワーを浴びながら、昨日を振り返った。
 昨日の夜に勝手な期待をしたせいでご飯を作り過ぎたけど、3人いれば完食出来ちゃうんだなあ。特に沖矢さん、あの放火事件のせいで1日中食べてなかったからか物凄い量を圧縮してた、細そうなのに。
 ……ということで、普段1人暮らしで必要な量しかストックしていなかったのに、昨日のあれが原因で冷蔵庫の中が予定外にすっきりしてしまった。朝食分はなんとかなるにしても、それ以降はまずい。大荷物になっちゃうけど……仕方ない、今日まとめて買いに行こう。

「そういえば……」

 夜中に近くのドアが閉まる音がしたから、それで目が覚めたんだよね。沖矢さん、随分と遅い時間に部屋に入ったみたいだなあ。なんであんな時間まで起きてたんだろ。
 もしかして昨日食べたやつで食あたりが起きたとか……いや、作る前にちゃんと傷んでないか確認したし、たいていの料理には火を通したから大丈夫なはず。ああでも、常備薬くらいは置いておいた方がいいかな。アパートにいるときは全然お世話にならなかったけど、お世話にならなかったんだよね。でも良かったよ、治らなくて病院行くことになったら、だいぶお金持ってかれちゃうもん。

「よし」

 沖矢さんが起きたら、買い物のこと相談しよう。本当は勝手に行きたいけど、食材の量を考えると2人で行った方がいいよね。沖矢さんにも荷物持ってもらおう。

 今日の予定をざっと決めてすぐにバルブを閉めると、引き戸に手を掛けた。

「……」
「……」

 洗面所の前で屈んでいる男の後ろ姿が見えた。洗面台の脇には見覚えが薄らとある眼鏡。男は脇に置かれたタオルで顔を軽く拭き、ゆっくりと顔を上げる。
 洗面台の鏡越しに、目が合った気がした。

 足元にあるバスタオルを体に急いで巻く。使ったばかりのシャワーヘッドを再度手に取り、男が振り返る直前にバルブを全開に捻った。

「え、待」
なんでもいいから出てってっ!!
「綾瀬さん水だけはやめ―――」

 アパートが燃えて、沖矢さんは着替えを全く用意していないことを思い出したのは、水を出した後のことだった。
 沖矢さんを水責めで洗面所から追い出してすぐに我に返り、廊下を出て彼の姿を探す。すぐに沖矢さんは見つけられた。沖矢さんは盛大に濡れたハイネックのシャツを脱ぎづらそうに体を捩っていた。

「ごめんなさい!!」
「これ、乾かしてくれるかい?」
「は、はいっ!」

 びしょ濡れのシャツを受け取り、洗濯機に突っ込んで慌ててボタンを押して脱水にかける。後は乾燥機にかければ、すぐに着れるようになるはず……よかった。

「君も早く乾かした方がいいですよ」
「誰のせいだと思ってるの!?」

 濡れた体のまま、バスタオル1枚でうろついていることなんて知ったことじゃあない。気を遣ってくれたんだろう沖矢さんに思わずその辺にあったタオルを投げつけ、洗面所のドアを勢いよく閉めた。

「まさか本当に気付かなかったんですか……」
「ええ、同じタイミングで水を出し始めたみたいですね。全く気が付きませんでした」
「本当はわざとじゃあないですか?」
「さすがに大人ですから。仮にわざと入ったとしても、隣の部屋で女性がシャワーを使っているくらいで動揺しませんよ」

「あのですね、沖矢さん。たとえいないだろうと思っていても、念のため浴室を確認してから洗面台を使って下さい」
「その話だと、君が浴室にいたとしても開けろと言っているように聞こえますが」
「開けないで下さい!……他の方法にします」

 私だけ着替え終え、朝食を用意して昴さんとテーブルを囲んだ。空気が昨日の夜よりも嫌なものになってる気がする……と思ったけど、そうでもなかった。
 やむをえずシャツを脱いだまま食事を摂る沖矢さんが妙にじわじわくる。上半身の装備は首にタオルを巻いただけ。首にかけるなら分かるけど、結ぶのはさすがにちょっとおかしい。なぜ頑なに首だけは隠そうとする。農家の人とかが手ぬぐいが落ちないように結ぶのはまあ分かるよ。やでも沖矢さん違うでしょ……え、実は畑仕事したかったの?

「ところで綾瀬さん、今日のご予定は?」
「え?……ああ、とりあえず食材を買いに行きます。昨日一気になくなっちゃって……それで、荷物多くなっちゃいそうなので、沖矢さんにもついてきてもらいたいな、と」
「それは構いませんが、僕の買い物にも付き合ってくれませんか。車も出せますよ」
「そういえば車、持ってるんでしたね……じゃあ、お付き合いします」
「僕の服が乾いたらすぐに行きましょうか」

 それなら、沖矢さんに持ってもらう必要もそんなにないはず。食材の買い出しについては、これで解決。

「……ところで沖矢さん、あの服昨日、洗濯したんですよね?」
「ええ、夜に」

 まだ、片付いていないことが残っていた。早朝、洗濯機に何も入っていなかった原因は絶対に沖矢さんだ。それはいいの、その後どうなったかが知りたい。

「とても言いにくいんですが、私の服とかって入ってませんでした?」

「ええ、入っていたので洗って干しましたよ」
「!?あ、あの、しししした」
「下着も干しましたよ」
「!?」

 さも当然のようにおかしなことを言っていることを、この男は分かってるんだろうか。
 いやだって、私の親でも家族でもないんだから、無抵抗に私の物を、ましてや下着とか簡単に見せたくないものまで扱わないでほしい。そんなことをずっとされては、私の当たり前がいつか“この男に自分の洗濯物を干してもらうこと”にすり替えられてしまいそう。

「……沖矢さん、ルールを決めましょう。とても大事なことです」
「はい」
「まず洗濯機ですが、しばらくは何日か置きで使いましょう。夏場までいるつもりだったら、毎日になると思いますが」
「そうですね」
「洗うのは一緒で構いません、でも干すのは自分のだけにして下さい。さっきなくなってて凄くびっくりしたんです」
「干す場所は一緒でも平気ですか?下着泥棒対策になりますよ」
「…そうですね」

 盗まれたことないけどね。

「あと、掃除は分担しましょう。ご飯は私がいる時は」
「ああ、それなんですが、暇な時で構いませんので、僕に料理を教えて下さい」
「へ?」
「君はまだ学生です。バイトをするのは構いませんが、本分は勉強です。それに僕は、おそらく君より長くこの家にいます。君が帰ってくるまでに、下準備くらいはできればお役に立てるかと」
「……そんなに作ったことないんですか?」
「食べてる場合ではなかったので」
「随分と鬼気迫っていたんですね……」

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上半身首にタオルのみの昴さんとの朝食はかなりシュール。
タオルのせいで筋肉とかに目がいかない仕様←

昴さん→莉乃さんへの対話について。
基本敬語。
年下相手に敬語。
でもそんなに敬っていない。

莉乃さん→昴さんへの対話について。
荒ぶるときに敬語が抜ける。
年上相手なので基本敬語。
現時点でほとんど敬っていない。

↓↓出かける前に↓↓

昴「阿笠博士、今お時間宜しいですか?」
阿「おー、昴君じゃないか!急ぎの用かのう?」

昴「実は先程、綾瀬さんに水を掛けられてしまって。変声器に問題がないか、見てもらいたいんですが」
阿「なんじゃ、2人でこんな季節に水浴びでもしとったんか?」
昴「浴びていたのは1人だけだったんですが、巻き込まれました」
阿「水は内部まで入っとらんから壊れてはおらんが・・・一応、防水加工は必要かのう」
昴「お願いします」

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壊れたのに気付かなかったらどうするんだろうか。
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