02 同情せずにはいられなかったはず
「ところでコナン君、さっき“先週から”って言っていたけど、綾瀬さんも何かあったのかい?」

 今後住む部屋に入ると、昴はコナンにある質問を投げかける。工藤邸の玄関口で莉乃を紹介された時のコナンの言い方に少し気になっていたことだった。

「莉乃さん?ボク、アパート住んだことないからよく分かんないんだけど、大家さんが原因なんだって」



「え!?アパート追い出されちゃうの!?」

 1ヶ月程前、莉乃は久しく訪れていなかった毛利探偵事務所に現れた。しかし彼女の来訪よりも、彼女が尋ねて早々漏らした不安に蘭はたいそう驚いた。酒を煽るかのように、莉乃は蘭に差し出された緑茶を飲み干し、1つ溜息を吐く。そして小さく蘭の台詞に頷いた。

 莉乃は5人兄妹の末っ子だ。そして4人も存在する兄から元々離れたい願望があった。理由は非常に単純。全ての兄が左程部屋数が多くない実家に住んでいる為、自分の空間がどう頑張っても家にはできなかったからだ。
 18歳になる頃には、これまで抑えてきた我慢にも限界がきてしまい、両親に県外の大学を受けることを相談した。両親からもどうにか了承を得て、必死に勉学に励み希望の大学の推薦をもらうと、大学に近い米花町付近のアパートで生活をしていた。
 晴れて実家を離れることができたが、生活は決して楽とは言えなかった。親の仕送りは元々期待していなかったが、口座に毎月振り込まれる金額は、安いアパートに住んでいるものの都内で暮らすには十分ではなかった。両親に相談する際に、仕送りはするが期待はあまりするなときつく言われていたから分かっていたことだが、その条件も飲んだうえでの生活だ。
 悩んでいるだけでは何の意味もなく、授業料や光熱費などを含めた仕送りでは補えない出費はバイトを始めてなんとか間に合わせている。そして凌ぎ続けて1年が経った頃、本人とは全く関係のない問題が発生した。

「大家さんがこないだ私に会いに来て、相続税対策で建てたアパートで生計立てられなくなったってきたから何棟か取り壊すことになったって急に言ってきてっ……税金の話されても、こっちは意味分かんないのに!」
「それで莉乃さんが住んでる棟が住めなくなるの?」
「とにかく、別の住居決めないといけないんだけど、どこ調べてもお金が足りなくて……もう最悪、風呂なしに条件変えないとやばいよ」
「お、お風呂は譲っちゃダメよ!ちょっとお母さんにもなんとかできないか相談してみるから!」

 莉乃としては、冗談のつもりで行ったはずが、蘭にはとてもそうには聞こえなかったらしい。蘭は英理に連絡を取りに慌てて事務所のドアを乱暴に開け、自宅に駆け上っていく。事務所には莉乃とコナンだけとなった。

「英理叔母さんでもどうにもならないと思うけどなあ……」
「ねえ、莉乃さん。もし良かったらって話なんだけど」
「なに?」
「新一兄ちゃんの家に住むのはどうかな?」
「……え?」

 君が新一君と仲良くなかったら、それはかなり雑な提案じゃないか。一瞬そんなことが莉乃の頭に浮かんだが、その後に続く条件によって口に出されることはなかった。

「きっと、使う部屋だけ掃除してくれればいいって言ってくれるよ!すぐ住んでいいし、お金も、光熱費だけ払ってくれればいいから」
「……」
「だ、だめ?」
「乗った!!」

「ごめん、お母さんもだめだった……――え、2人共何やってるの?」

ちょうど蘭が事務所に戻った頃、思わずコナンにハグをする莉乃がいた。



「なるほど、そういう経緯があったんだね」
「だから、アパートが燃えちゃった昴さんの話聞いて、可哀想だなあと思ったから一緒に住んでいいって言ったんだと思ったんだけど……」
「少し誤解して同意したみたいだね。まさか、住んでいいか聞かれた相手が男性とは思わないよ」
「でも莉乃さん優しいからきっとだいじょ……あ、ごめん莉乃さんからだ」

 コナンのスマホが鳴り出し、ポケットから取り出す。画面に表示される名前を見て、慌てて通話に切り替えた。

「もしもし」
≪“沖矢”さんに夕飯冷めるって伝えて≫

 さっきまで“昴”と呼んでいたのに。それくらいこっちに来て直接言えばいいことだろう。呆れ顔になるコナンは一度スマホのマイクをオフにし、昴に目を合わせた。

「莉乃さんがご飯用意してるって」
「ああ、それで待っててと」
「でもあんまりよく思ってないみたい。昴さん、名字呼びになってた」
「そうかい……じゃあ、先に行ってるよ」

「……莉乃さん、言ってお」
≪コナン君、ちょっと≫

 マイクをオンに戻し、コナンは昴に要件を伝えたことを言おうとしたが、莉乃によって遮られた。

「え、ボク?」

≪――このクソガキ!!

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ひろい いえ を てにいれた!

へん な おとこ が ついてきた!
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