小説 | ナノ
■ 僕らはみんな病んでいる


「もういやだ」
『なにが?』
「生きるの、しんどい」
『私も、しんどい』


そんな話をしながら
私と狩屋は屋上に寝転がった。


「俺っている意味あんのかな」
『あるでしょ。クラスの人気者のくせに』
「・・・まぁ、いろいろあるんだよ」
『そうなの?』
「うん」


そんな話をしながら空を見上げる。
なんでなのよ、
青空じゃん。
真っ青な空、真っ白な雲だいっきらい


「お前は、きっと生きてたほうがいいよ」
『なんで』
「なんとなく」
『なにそれ』


この狩屋マサキは嫌いじゃない。
いや、嫌いだ。
・・どっちだろ。

この、屋上は学校の中で唯一嫌いじゃない場所。
ここの空気は嫌いじゃない。
むしろ好きかも。

教室に行けば視線がやたら痛くて
胸が張り裂けそうな陰口。
耳をふさいでも、寝てても、
聞こえてくるんだ。

だから、学校は嫌いだったの。
なのに、ねぇ、
なんでだろう。

人気者の狩屋も、生きるのがしんどいと言った。
なんでだろう。
でも、理由は聞かない。
私も聞かれたくない。

だから、あえて聞かない。


『空って嫌い』
「じゃあ見るなよ」
『綺麗すぎるから嫌い』
「…それはわかるかも」


こんなに、悲しくて、ぐちゃぐちゃなのに
綺麗な空を見てる自分が嫌いで。

そんな空を見て泣けてくる自分も大嫌いで。


「泣いてる?」
『泣いてない』
「泣いてるじゃん」
『汗だよ。塩の味するし』
「いや、涙も塩の味するから」
『しないもん』


狩屋は笑った。
声を震わせて笑っていた。


『何、わらってんの?』
「いや、頑固だなって…」
『ごめんねぇ、頑固で』
「それで、強がりで寂しがり屋で泣き虫」
『ごめんねぇ、ダメな奴で』
「泣いてるなら泣いてるって言えよ」
『はいはい』


涙はいつの間にか止まってた。
このまま、時が止まればいい。
もう、ずっと私も狩屋も、
この世界も動かなければいい。


「涙はやっぱり塩の味がする」
『だからしないって』
「いや、するよ」
『しつこいね、狩屋は』
「だって、いますごく塩の味するし」
『汗舐めなくていいよ』
「いや、俺泣いてるもん。今っ…」


かすれた声が、する。
本当に泣いているのだろうか。
空を見るために上をむいている顔を横に向けるか迷った。
いいのかな、、
泣いてるところ、見てもいいのかな。


「見てみろよ。泣いてるから…」
『・・・』


ちらっ と横を見た。
泣いていた。
空を眺めながら大粒の涙を流していた。
その綺麗な雫が
狩屋の口に入る。


「やっぱりさ、塩の味だよ」
『…っ』


透明な雫はあの大嫌いな綺麗すぎる空を
鏡のように写していた。


『・・いいよ』
「え?」
『泣いていいよ…』
「・・・」
『たくさん、泣いていいよ…』
「え…」


空はまだ青くて、白い雲を包んでる。



『泣かないと、笑えないから…』










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