ベビーベッドの上で指をしゃぶりながらわたしをみつめる瞳のまるくておおきいこと。ときどき指をはなしてわたしに話しかけているみたいに、あうーだの、ああーだのと発する声のなんと愛らしいこと。わたしは、こんなにかわいらしい生き物は世界でたった一人だけだと自信を持って断言できる。そう友人に言ったら親バカだと言われてしまったけれど。でも本当にそう思えてならないのだ。だってほら、この子を見ているだけでわたしは思わず頬がゆるんでしまうし幸せのため息が口からこぼれる。この子の吐く息は甘いわたがしのような匂いがしてまさに天使のため息みたいだし、真っ赤な舌はおいしそうな苺の色、身体はふわふわ柔らかくてこれもやっぱり甘い、いい匂いがする。なんて美しくてかわいらしいのだろうか。世界で一番愛しいわたしの娘。

ふと聞こえてきた足音にわたしは耳をすませた。軽やかに近づいてくる足音は間違いなく彼のものだ。わたしは林檎にほほえんでから彼が入ってくるだろうドアを見た。かちゃりと軽い音とともに彼がニコニコ笑いながら入ってくる。手には彼の作ったミルク入り哺乳瓶を持っていてわたしにそれを差し出した。「温度はこのくらいで大丈夫かな?」手の甲に少量、ミルクをだしてみる。うん、大丈夫。そう言うと彼は愛しそうに林檎を抱き上げ、そのやわらかな頬に顔を押し付けた。林檎はうれしがるように、うあーと手足をばたつかせる。彼もうれしそうにほほえんでさらに鼻を林檎にすりよせた。わたしの心のなかになにかがじんわりと広がる。彼に哺乳瓶をわたすと、「ありがとう」ふんわりささやいて林檎の口に哺乳瓶をはこんだ。

「あ、そういえば今日が何の日かわかる?」

こくんこくん、とミルクを飲む我が子を見守りながら彼がちらりとわたしを見た。何の日?彼の誕生日、ではないし…もちろんわたしの誕生日でも林檎の誕生日でもない。なんだろう?気持ちが通じたのか、彼は優しく、でもちょっと困ったかんじに、ほほえんだ。「今日はね、僕らがはじめて出会った日だよ」…そうなのか。知らなかった。いや、それを覚えていた彼にびっくりだ。「雷門のグラウンドで君をはじめてみたとき、僕は一目で好きになった。人を好きになったのは、それがはじめてだった。」はじめて聞く話だ。一目惚れだなんて、初恋だなんて、そんなことはじめて。わたしはぽかんと口をあけたまま、話を続ける彼をみる。「いま、僕はすごく幸せだけど、君にはこれからもずっと、幸せでいてほしい」彼の腕のなかで、ミルクを飲んでいる林檎も、静かにじっとしていてまるで話に耳をすましているかのようだった。「いまさらだけど、一生君を幸せにするって誓うよ」

「ぼくと結婚してくれてありがとう」
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