「ラブレターもらったんだって?」

自分の席に座ってちょうど鞄をひらいたときに、隣の席の松野くんが言った。いきなり、しかも昨日あったばかりの出来事をなぜ松野くんが知っているのか。わたしの心臓はラブレターという単語を聞いた瞬間、尋常でないくらい活発に動きはじめた。頭が真っ白になる。顔が熱くなる。自然に、自然に返事をかえそう。それだけが頭のなかをぐるぐる回る。口をあけて声を発すると、かすれた音がでた。「…は?なんで知ってるの?」それだけいって松野くんをみると、彼はニヤニヤと笑ってわたしにかえした。「マネージャーから聞いたんだ」
たぶん、春奈ちゃんだ。この様子だとサッカー部のみんなには伝わっちゃってるかもしれない。いや、たぶん伝わっている。いままで落ち着いた表情をつくろっていたつもりだったけれど、顔にでてしまったのかな。松野くんは相変わらずニヤニヤ笑いながらわたしを見ていた。

「黙ってるってことは本当なんだー?」

「…」

「じゃあ差出人がわからないっていうのも本当?」

「…本当だけど」

松野くんの顔をみれなくて徐々にうつむくわたし。松野くんはけっこうなおしゃべりだと思う。あと十分後にはわたしのことをだれかに話して笑っているだろう。そのようすが簡単に想像できる。「ねっ、ねえ!」ほとんど無意識に、大きめの声がでてしまった。松野くんをみると、いきなり大声をだしたわたしに驚いたらしく目を見開いていた。「あのっお願いなんだけど、さっ…」「なに?」もうニヤニヤしてない。「このこと、誰にもいわないでくれない…?」「は?」「お願い!」

「…いいよ」

にこっ。効果音がつきそうな笑顔。あれっ、なんだか拍子抜けしてしまう。松野くんのことだから一筋縄じゃいかないとおもったのに。「いいの?」「なんで聞くの?あ、もしかして信じられない?」図星。黙っているわたしに松野くんはまたにこっと笑っていった。「喋らないよ約束する。でもそのかわり条件つきね。」そういうことか。「条件って?」「一週間、僕と一緒に帰って」帰って?えっ、帰って?二人で帰るの?なにそれ恋人みたいじゃないか。誰かにみられたら恥ずかしいじゃないか…!「帰ってくれないなら誰かに話しちゃうかもしんないなー」

「…一緒に帰らせていただきます」