「興味深いわね」
ロビンがなにかをみつめてつぶやいた。視線のさきには民家のほかになにもない。なにが?と聞き返すとこれよ、と指を差す。そのさきにはやっぱり民家があって、わたしはよくわからず首をかしげた。
「よくみて、壁が輝いてる」
たしかに輝いている。夕焼けのオレンジ色を反射してきらきらと輝く白い壁。まわりを見渡せば建物はみな白く、どれもやわらかく輝いていた。そういえば、丘のうえでみたときも輝いていたっけ。あのときはなにも思わなかったけれど、今よく考えてみると不思議だ。なんで壁が光をうけてきらきら光るのだろうか。
「なんだいお嬢ちゃんたち、それ、気になるのかい?」
振り向くと買い物袋をもったおばさんがこっちをみてにこやかに笑っていた。「ええ。これは一体どうなっているのかしら」ロビンがおばさんに聞くと、おばさんはまた笑って、それから説明してくれた。
「この町ではね、貝殻が有名なのさ。貝といっても食べ物じゃないよ。普通の貝ともちがう、この島だけでとれる貝殻だ。外側は真っ白、内側は虹色。それがとっても耐久性にすぐれていてね、この町ではすりつぶして塗料にして建物に塗るのさ。それが日光なんかにあたると、反射してきらきら光る。塗った建物は雨にも強くなるし強度も増す。そんな便利な貝殻なんだけど、まあすりつぶすのが大変なのが欠点さね!」
それからおばさんは、あっはっはと豪快に笑ったあと、わたしたちに「まあ楽しんでいきなさいな!」とこれまた豪快にいって去っていった。
おばさんの後ろ姿を、それからロビンをみると、かすかに笑っていた。
「二人ともこんなところにいたの!」
ナミが両手にたくさんの買い物袋をさげてわたしたちにいった。洋服を二着買って満足したわたしとお目当ての本を買ったロビンは、未だに店をみているナミを待っていたのだ。「もうそろそろ帰りましょ」ナミがそういって歩きにくそうに歩くから、わたしは見兼ねて持とうか?と聞いた。宿泊客や旅行者たちがたくさん港のほうへと歩いていく。海岸沿いにホテルがたくさんあるためだ。ナミはすれ違うその人たちと荷物がぶつかったりしてうまく進めずにいた。「いいわよ、自分の買ったものなんだし」「でもそれじゃ船に帰るのが遅くなっちゃうよ」「…」それでもまだしぶっているナミの手から荷物を半分とりあげた。とりかえそうとのばしてくるナミの手をすりぬけて、わたしはずんずん歩いていく。後ろをみるとナミとロビンもうまく人をさけながらついてきていた。
赤いハイヒールをはいた女の人、コートをきたおじさん、新婚らしい若い夫婦、小さな子供とお母さん。いろいろな人とすれ違っていく。たいがいの人はわたしの視線に気づかないけれど、たまに気づいた人がこっちをじろじろとみて変な顔をする。たぶん、もう夕方だというのにこの少女はなぜ日傘をさしているんだ、と思っているのだろう。わたしはその視線に知らんぷりをして違う人をみる。と、むかってくる人々のなかに奇妙な人をみた。灰色のマントをしっかりと体にまきつけ、フードを深くかぶり、顔や手などマントからでている部分にしつこいほど何重にも包帯がまかれている。どう考えてもこの観光地には、あっていない。周りを歩く人たちもその人とは間隔をあけて歩いていた。男か女かもわからないその人は怖いほどに怪しかった。そして、わたしはその人から目が離せなくなっていた。その人との距離はあと数メートルほどしかない。この人は一体、何者なんだろうか。
すれ違ってみると、たいしたことはなにもなかった。やはり、というかなにもおきなかった。わたしはナミとロビンが気になって後ろをふり返ってみて驚く。さっきの、あの人も、ふり返ってこっちをみていた。自然と止まる足。するとあの人はわたしに近づいてくる。すぐ目の前で止まり、そのまま無言で見下ろされる。わたしは意外と身長が高かったんだ、なんて思いながら見上げた。フードで隠れていてわからないけれど、視線はばっちりあっているような気がした。周りを歩く人々はわたしたちを不思議そうに、好奇心を含んだ目でみつめて去っていく。後ろからわたしを心配そうに呼ぶ声が聞こえた。ナミだ。その隣にはいつでも能力が使えるようにとかまえているロビンがいた。そのときだった。その人は包帯の下からくぐもった声でわたしにいったのだ。
「…なまえか?」
「お父、さん?」