彼の長所を述べなさい、と言われたらわたしは少し考えてからこう答える。サッカーがうまい。かっこいい。彼の短所を述べなさい、と言われたらわたしは迷わずこう答える。冷たい。ぶっきらぼう。ぜんぜん優しくない。短気。すぐ文句を言う。口が悪い。エトセトラエトセトラ。そんな彼こと、涼野風介はわたしの幼なじみである。母親同士も仲がよく、小さいころから遊んでいたわたしたちは、お互いの家のことをまるで自分の家の様にわかっていた。だから学校から帰ってきて自室に風介がいる、なんてことはしょっちゅうあったのだ。けれど、 「人の部屋に勝手に上がり込んでお菓子を食べ散らかすのはどうかと思うんですが」 「やっと帰ってきたのか」 扇風機の風にあたりながらベットの上で雑誌を読みあさり、お菓子のゴミと食べかすを散らかしている風介をみてわたしは心底うんざりした。というか、そのお菓子もわたしのだ。非常用にこっそり隠してたのにこいつ、見つけやがったな。昔からこいつはこうだ。わたしがテストで悪い点をとればお母さんにチクり、虫が嫌いだと言えばどこからか捕まえてきて追いかけ、逆にお返しをしようと玄関の前で水の入ったバケツを持って待ち構えていれば二階から水をぶっかけられる。小さいころから彼は性格が悪いのでわたしはもうあきらめている。もう反抗もしない。まあでも中学生になって彼もだいぶ落ち着いてはきたけれど。 「どこに行ってたんだ」 「どこって、学校だよ…」 「学校?それにしては遅かっただろう」 いやまあ、わたしだって遊びたい盛りだし?放課後に友達と遊びに行ったりもするわボケ!…とは言えず、彼のなにを思ってるかわからない真顔を見ながら「うん、遊んできた…」と控え目にこたえた。 「遊んできた?へえ、わたしが待ってるっていうのに遊んできたのか」 いや、うちにきてるの知らなかったし!そもそもいきなりきて人の菓子食ってるやつを…ん?待ってた、のか?わたしを?なんで?そんなこと今まで言ったことなかったじゃん。むしろ、わたしが帰ってくるとすぐに自分の家に帰ってしまう日もあったくらいなのに。 「…待ってたの?なんで?」 「…」 なんでそこで黙る。なんでそこで不機嫌そうに髪をとく。意味がわからない。彼が黙っているせいでなんだか気まずい空気になってきた。 「…それは、」 やっと彼が声を発したと思えば、かすれるような小さな声で。わたしは少し俯いた彼をぎょっとして見つめた。かつてこんなに自信なげに黙っていたことがあっただろうか。いや、ない。わたしの記憶が正しければ、ない。 「きさまに、言いたいことがあったんだ」 ごくり。唾を飲み込んだ音が思ったより大きく聞こえてどきっとした。彼は言葉を選ぶように頭をがしがしとかいている。 「その、」 目が、あった。 「す、好きだ」 彼が少年であった日 |