文 | ナノ
不動×鬼道
10月31日。
そう、みんなだぁーい好きなハロウィン
嫌味のよう聞こえるってぇ?それは、気のせいだろ。
俺もハロウィンは、だぁい大好きだぜ?
今年、からな。
「…じろじろ見るな、不動。」
「いいじゃん?こんな鬼道クン、普段じゃ見れないだろォ?」
「じろじろ見るなと言っているんだっ」
「鬼道クンはチラチラ見られるのがお好みかよ?」
俺がニヤニヤと言えば、鬼道クンは舌打ちをした後、悔しそうに「勝手にしろ」なんて呟いた。
いつも付けてるゴーグルを外し、いつも結っているドレッドを下ろしている鬼道くん。頭には魔女帽子がのせられ、黒いワンピースを着ている。そのワンピースの丈が短いからか鬼道くんは、ご丁寧にスパッツを履いているようだ。
スパッツを着用しているにも関わらず、足を閉じている。
「可愛いねぇ、鬼道クン」
くつくつと笑えば鬼道クンの頬が朱に染まっていく。
言い返したいのだろうが、何も言い返せない鬼道クンは俺の嫌いなトマトのような顔をして「黙れっ」と弱々しく言った。
俺は飽きもせずに鬼道クンを見ていると、人影が此方へと近付いてきた。
「鬼道っ!不動っ!トリック オア トリート!」
お菓子を求めるように手を伸ばして、お決まりの言葉を発する円堂。
鬼道クンは、側にあった袋からチョコを取り出し円堂に渡していた。
「俺は菓子なんざ持ってないぜ。」
まさか言われるとも思ってなかったから菓子なんか持っているはずもない。バナナならあるけど、これは俺ンだからな。
「じゃあイタズラだなっ!」
満面の笑みで笑った円堂は、何故か鬼道クンにキスをした。二人が離れるとチュッとリップ音が鳴り響いた。
俺と目が合ったと思えば、円堂はニヤリと笑ってから騒がしい音へと戻っていった。
「っ、てめぇ!」
ついカッとなって立ち上がり叫んだが、今は目の前に居ない円堂に怒りをぶつけるコトなんて出来るワケもなく、俺は溜め息を附いてから、ドカッと思いきりベンチに腰かけた。
チラリと鬼道クンの方を見れば、真っ赤な顔して唇に手を当てている。
「(ムカつく…。)」
俺の視線に気付いたのか鬼道クンは酷くうろたえた。
「…不動、あの…アレだぞ?お前が…」
まるで、浮気が見つかったかのようにあわてふためく。
別に俺が菓子を持ってなかったから、いけなかったコトなんて解ってるけど、なんか無性にイラついた。鬼道クンに八つ当たりでもしそうだ。
俺はベンチから立ち上がり、自室へ戻ろうとした。が、二三歩歩いた所で腕を掴まれた。後ろを見れば、予想通り鬼道クンが俺の腕を掴んでいた。
「その…なんだ…。不動、トリック オア トリートっ」
「はぁ?……っ!?…」
俺は菓子持ってねぇっ!!というのは言葉にならず。また、リップ音が鳴り響く。
「これで機嫌直せ!馬鹿!」
そう吐き捨てれば鬼道クンは走り去っていった。否、走り去ろうとした。
俺が、鬼道クンの腕を引っ張って走るのを止めさせると、地についていた片足が少しだけ浮き鬼道の重心がずれる。
ぐらり、此方へと導かれる。
ギュッと鬼道クンの体を受け止め抱き締めてやれば、俺はお決まりの言葉を囁いた。
「trick or trick?
鬼道クンはどっちが欲しい?」
「…Trickしか、くれないのだろう?」
鬼道クンが恥じらいを含んだ声でボソッと耳元で呟けば、俺は不敵に笑った。
だってさ、
俺等にお菓子なんていらねーだろ?
fin.