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目覚めた右目と共に。



俺の右目はまだ目覚めない。
暗闇に包まれたままの俺の心は、先も見えず畏れ、その場を動けないでいる。


「なら、俺の胸に飛び込めばいい」
「源田…」
「踏み出す勇気がないのか?」


図星だ。俺は闇への扉を開けることも閉めることも出来ない。右目が目覚めてしまうことを畏れているんだ。


「強がらなくていいんだ、俺だけを見てくれれば。俺はお前と越えたいんだよ、佐久間」


恐いんだ。夜中に息苦しくなって目が覚める。ゾクゾクと嫌な震えが身体中を走る。叫びたのに涙が声にならない。
優しい誘いに信じてのって、お前は裏切らないのか?闇に溺れる俺を見て嘲笑うんじゃないのか?見捨てるんじゃないのか?


「……源田っ!可能性はあるのかなぁ?…ないのかなぁっ?」
「あるだろ!俺を信じろ、踏み出して来いっ」


足下に広がる暗い闇に問いかける。涙が出てきて鼻の奥が痛くなる。すぐさま源田のよく通る声が聞こえた。


「俺はどんなお前でも受け止めるつもりだ!狂ったって傍にいるし、壊れたって一緒にいる!」
「源田ぁ…」
「俺はいるから!下でお前を受け止めるから!…なあ、佐久間。まだ光は見えないか…?」


見えないよ…。かすかに光が差したくらいだ。でも俺はそのかすかな光を信じて飛び込めそうだ。


「源田、俺も例えお前が墜ちたとしても一緒に生きるから!俺、お前のこと愛してるから!」
「ああ、俺もだよ。佐久間」


闇の中で源田が微笑んだ気がした。
いざ飛ぼうと思うと足がすくんだ。情けないな。闇に墜ちればもとの俺には戻れないんだ。楽しく笑いあってサッカーしていた頃の俺には戻れないだろう。


「佐久間っ、」


源田が闇の中で急かすように俺の名を呼んでいる。
次の瞬間、ドクンと右目が大きく脈をうった。右目が目覚めたがっているようだった。

「もう、どうにでもなれっ」


俺は意を決して深い闇に飛び込んだ。
墜ちている間にも右目は脈うち、今にも開眼寸前だ。今まで流せなかった涙が大きな雫となってこぼれた。雫は上に向かっていった。右目に溜まる涙が気持ち悪い。滅多に味わえない浮遊感が気持ち悪い。このまま闇に墜ちてしまうのかと思うと恐くなった。でも、もう遅い。


「うっ、ぐぁぁあ−−−」


右目に激痛が走り、あまりの痛みに慌てて目を擦った。手にひたひたと水っぽい感触がする。見れば、涙と血だった。
恐怖に血の気がひいていく。俺は固く両目を瞑って叫んだ。


「やだ、恐いよ!源田っ、俺…恐いんだっ!!」
「大丈夫だ、佐久間!もう少しだから、目を開けろ」


恐る恐る目を開けると真っ白な眩しい光が俺を包み込んだ。それと同時にドサッ、と源田の胸に落ちた。勢いが良すぎたのか、そのまま倒れ込む。


「こ…恐かっ、たよぉ…」


俺は安堵からかそのまま源田の胸で泣いた。源田は優しく抱き締め背中をさすって、涙と血で滲んだ俺の右目を拭った。


「源田の顔、よく見えるよ」


最初に俺の右目を見た時は驚いた顔をしていたけれど、泣いている俺を見て笑った。源田も源王になっていて髪がライオンみたいだなって言ったらまた笑った。
それからどちらともなく軽くキスをしてから立ち上がる。


「行くか」
「ああ…」


俺達は、真・帝国学園に向かって歩き出した。俺は源田となら闇に墜ちても生きていけると思った。




目覚めた右目と共に。
(いつか闇から解かれるその日まで)



Fin.

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