coupling | ナノ
そればかり考えて


「なんだ?不動。」


自室の扉に見える影に問う。
いや、姿は見えているのだがソイツの存在が、まるで影のようだった。


「…不動?」


こちらまで歩み寄ってきたかと思えば、腕を掴まれ倒される。
いつもより多くの重さを受けて、ベッドがギシと悲鳴をあげた。


「なぁ、鬼道ちゃん」



大きな深い緑の瞳。
ゴーグル越しに見えるそれは綺麗と言うより濁っているように見えた。

俺の腕を掴む手に無駄な力が込められる
声は我慢したが、流石に表情は痛みで歪んだ。


「不動、離せッ」

「へぇ、お前はそういう態度で人にお願いするのかよ?」

「…っ……。」


何も言い返せない俺に気分を良くしたのか、口角はニヤリと上げれた。
不動が俺の腕に爪を立てたのか、掴まれてる痛さを上回る痛みが届いた。


「おい、ふど…痛いッ…。」

「うるせェよ」

「……」


悪魔のような、人を小馬鹿にするような笑みが不動から消えた。

笑みが消えた不動からは、怒り…いや、悲しんでいるのか…?
混乱している頭では、自分が今、彼に何を言ってやるべきなのか解らなかった。


「俺は…っ…」

「…俺は?」

「……っ」


不動が固く口を閉ざす、何か言いたそうな表情には哀が薄くかかっているようにみえた。
腕を掴む力が緩められ、俺が本気で逃げたいと思えば、逃げられるであろう。
だが、何故か逃げてはいけない気がした
目の前の深い緑を、暗い影を、俺がどうにかしなくてはいけない気がした。


「不動…。」


白い頬に俺の手を添える
俺が何かを言おうとしたが、それは不動の言葉に制止された。


「鬼道ちゃん…」


不動の手が、俺の腕から離れた。
その行き先は迷うことなく、俺のゴーグルを掴み、ゆっくりと外した。


「なんで、鬼道ちゃんが泣いてンの?」

何故か不動は苦笑いを浮かべていた。
涙を拭う不動の手が嫌と言うほど暖かかった。


「…っすま、ない…ふど、ぉ」

「いつになったら解んだよ…」


「泣きたいのは俺だっつぅの…。」なんて呟いて、俺を抱きしめる。
「すまない」と嗚咽混じりに謝る俺は、いつになったら「有難う」と言えるのだろう。
いつになったら、不動明王をみれるのだろうか。




そればかり考えて
(今日も涙が溢れていく。)



end.

[ 1/33 ]

[*prev] [next#]
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -