coupling | ナノ
この愛が歪んでいようとも。

不鬼 前提 佐久→鬼



お前の紅い瞳が俺を映さなくなったのはいつからだっただろうか…


「鬼道、今日の帰りにさ…」


休憩時間。ベンチに入ってきた鬼道に勇気を振り絞って話しかけると、グラウンドの方から声がした。


「おい、鬼道ちゃん!」


声がした途端、お前は明るい赤マントをひるがえして俺に背を向けた。


「すまん。不動が呼んでいるから、またな」


鬼道はそう言いながら、声の主のもとへ走って行った。
俺はだんだん小さくなっていく背中に熱視線を注ぐ。振り向くことなんかないと知りながらも。


「…っ、昔はあんなにっ…」右目を隠している眼帯をそっとはずして、うつむく。左目から涙がこぼれ落ちた。
いつからだろう。鬼道と俺の間にいつの間にか分厚い壁がそびえていた。


「何泣いてんだよ…」


ふ、と鬼道を見るとアイツと楽しそうに話している。あんな笑い方もするんだ、とか俺の方がアイツより長く鬼道と一緒にいるのに俺の知らない鬼道を見ると心臓が握り潰されそうになる。思わず服の上から心臓をなでた。
そんなことをしていると休憩時間終了のホイッスルが鳴った。


「ふう、……集中しろ!」


水を飲んでから、眼帯を結んで、すくっと立ち上がる。
総帥から鬼道へ指示が出された。


「みんな!それぞれポジション練習を行ってくれ!」


俺はこのポジション練習が嫌でもあり嬉しくもある。
なんでかって?鬼道が俺のことを見てくれるからだよ。


「俺はいつも通り、すべてのポジションを見て回るからな」


そう言いながら鬼道はFWを見にきた。
ほら、やっぱり俺が一番なんだ。見ててよ、鬼道。


「皇帝ペンギン1号っ!」


禁断の技、皇帝ペンギン1号を放つと同時に足の肉を裂くような、骨を砕くようななんとも言えない激痛が走り抜けた。


「っうぁぁあ"あ"あ"!!!」


その場に倒れ込む。ゴールに凄い勢いで入ったボールが倒れた俺の手元まで戻ってくる。


「おい、佐久間!大丈夫かっ!?」


真剣な表情で鬼道が駆け寄って来る。ゴーグルの向こうで紅い瞳が揺れている。


「あ、ああ…っだ、大丈夫だ…っ」


そうだ。この時間だけは、鬼道は俺のものなんだ。例え苦しい痛みが襲ってきても、そのことが実感出来ればそれでいいと思えるくらいこの時間が嬉しい。


「よし…、もう一発…」
「な、何を言っているんだ。皇帝ペンギン1号は回数を重ねてはいけないはずだろう」「大丈夫だから!頼む…」


俺はそう言って、鬼道が見つめる中、何度も皇帝ペンギン1号をうった。俺がこの技を使う度に心配そうに揺れる紅い瞳が愛おしい。そう、心の底から思った。
お前がずっと俺を見てくれなくてもいい。だからせめて、今お前が俺のもとにいるという痛みを感じさせてくれ...




も。
(アナタの為に苦痛を味わえれば至福)



Fin.

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