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こっちを向いて

※ビッチ鬼道さん/純情不動くん



ぐるぐる、ぐるぐると
あの日の鬼道クンが脳内を支配する。
紅い瞳と、誘うような笑みと、ほんのり赤に染まった頬と、男のくせにほっせぇ腰と、柔らかい健康色な肌。

丁度2週間が経った今でも、あの行為は鮮明に脳内でビジョンとして描かれる。
あの時の気持ち悪いくらい甘ったるい声がゾワゾワと背筋を擽る。


「(くそっ!忘れろ、忘れろ!!)」


今思うとこう考えられるようになっただけで大分進歩しただろう。
あの日から数日は鬼道クンの顔はまともに見れず、サッカーに集中なんて出来やしなかった。

ひらりと風に揺れる赤いマントを視界に入れるだけで、恍惚そうに細められた紅い瞳が脳裏に浮かび何も手につかなくなる。


「(何もかもアイツのせいだ…ちくしょう。夜這い…とか。影山…。)」


プツリと淫靡な鬼道クンは頭から消えた。それと同時にあの時の鬼道クンの表情が浮かぶ。


<<不動…。おやすみ>>


まるで、何も言うな。いや、何も言わないでくれと悲願するような瞳。


「(決別出来てねーじゃねぇかよ)」


このイライラを何処にぶつける?
そんなの答えは1つしかねーだろ。

そう思い立ったと同時に俺は自室から走り出て鬼道クンを探しに駆け出した。



* * * * * *



いくら宿舎内を探し回ってもグラウンドを覗いて見ても赤いマントが瞳に映ることはなかった。
嫌に目立つはずの容姿をしているはずなのに、こんなにも見つけにくいなんて。

出掛けてるんじゃねーのなんて思ったが鬼道クンの妹曰く体調が悪いらしく大人しくしとけと忠告したそうだ。
だからと言って鬼道クンが外に出ていない確証はない。


「…待つしかねーか。」


俺は歩む方向を変えた。
自室で少し休息をとろうかと思っていた矢先そいつを見つけた。

俺の部屋の前で佇む姿からは、いつものような雰囲気とも行為中の雰囲気とも言えないような様子だった。


「おい」

「!」


声を掛ければ、鬼道クンは寄せていた眉間のシワを更に深めた。


「…中に居るんだとばかり思っていたから驚いたぞ。」

「ふーん…なんか俺に用でもあんの?」

「いや…やはり何でもない。」


そう言えば鬼道クンはその場を立ち去ろうとする。すかさず、肩を掴み黙止すれば空いている片手で部屋の扉を開けた。


「お前さ」


言葉と同時に閉戸音がガチャリと響く
ベッドに腰を掛けている鬼道クンは床を見つめ、俺の目を見ようとしない。


「決別なんて言ってけどホントは…」

「不動」

「なんだよ」

「悪かったとは思っている。」

「だから?」

「これが…最後でいいから、抱いてくれないか?」


何かを決心したような表情で鬼道クンは言う。予想をしていなかった衝撃的な発言に驚きが隠せない。
鬼道クンは、つくづく俺の予想範囲内を軽やかに飛び越える奴だと感心したい。


「それは…俺を影山と重ねて、か?」


何を言っているんだ?と自分の言葉に疑問を持った。
無意識にポロリと出た言葉が鬼道クンを動揺させているようでゴーグルの奥にある紅い瞳が揺れる。


「…俺を、俺だと見てくれるのかよ?」


声が震える。
脳が制止を命令しているはずなのに唇は文字を形取り空間に言葉の存在を示す。
鬼道クンの心情が嫌なくらいに察することが出来た気がした。


「そ、れは…」

「まだ、アイツのことが忘れられないんだろ?」

「ちがっ…!」

「別に鬼道クンが俺と影山を重ねようが勝手なんだけどよ…」


鬼道クンの隣へ腰を掛け、丁寧にゴーグルをはずしてやる。
やっぱり鬼道クンの裸眼を見ると変な気分になるなんて心中で思えば恥ずかしくなってきた。


「…辛いんなら無理しなくていーんじゃねぇの?」


両手で鬼道クンの頬を挟み込み、親指で目尻を撫でる。
少し赤みを帯びている目尻は鬼道クンの今までを物語っているように見えた。


「…うっ…ふ、どぉ」


声を我慢するかのように泣く。
鬼道クンの性格上、これは癖みたいなモノであろうと予測すれば、俺は鬼道クンの顔を胸に埋めさせるように抱き締め背中をさすってやった。


「…辛かったんだろ、今ぐらい誰も咎めたりしねーんだからよ。思いっきり泣けよ、鬼道クン。」

「ふっう…うう、うぁ…っぐ…」


籠って聞こえる悲痛な声が、今までを語り出す。
呼吸が安定せず途切れ途切れで聞こえにくいところがあったが俺は一字一句聞き漏らさずに鬼道クンの声に耳を傾けた。

「辛かった。
自分から決別したはずなのに、何故か俺の中にはポカンと穴が空いたような喪失感でいっぱいだった。
寂しくて苦しくて。
いくら涙を流しても、いくらあの人を憎んでも俺の中から喪失感が消えることはなかった。
だけど。
セックスをしている時だけは快楽に心身を委ねられ忘れられることができた。どこかであの人を思い出すことが出来たんだ。」

そう確かにいっていた。
嗚咽混じりの言葉だから、少し違うかもしれない。


「(もし、俺が鬼道クンを幸せにしてやれるなら幸せにしてやりてぇよ)」


声には出さずにため息を吐く。
子供のように泣きじゃくる鬼道クンの背中を優しく撫でながら、増幅していく鬼道クンへの好意をどうすればいいのだろうかと考えることにした。




こっち向いて
(俺を見て、お前を好きだと言わせて)




end






______
何がしたかったかって…
コイツらを幸せにしてあげようかと思ったが思ったより長くなっちゃって収集がつかなくなっちゃったんだよ!
純情もビッチも何一つ達成されてないよ
後半から書きたいもの解んなくなっちゃったみたいです(´`)

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