coupling | ナノ
一目惚れって世界を救う!



「なァ、」


声がした方向に視線を向ければ妹の春奈を奪ったヤツが居た。


「貴様ぁ!春奈を返せ!」


怒りを含めた声が響き渡る。
そんな俺を見て目の前に入るヤツはニタリと笑った。


「あの生け贄…お前の妹なんだってなァ、お 兄 ちゃ ん?」


「ピーピーお兄ちゃんお兄ちゃんって喚いてたぜ、あの女」と笑いながら言うソイツを殴ってやりたかった。

眉間にシワを深く寄せ、相手の様子を伺いつつ警戒しながら俺は「何が目的だ?」と問う。


「目的ィ?ハッ、なんだと思うよ?」

「俺までも生け贄に捧げるつもりか?」

「残念だったなァ、全然ちげェよ」


「ただの人間なんか生け贄にしねェし」そう言えば、一歩また一歩と此方へと歩みを進めてくる。
それに合わせるように後ろに後ずさればカシャンと虚しい音が響いて背中にフェンスが当たった。

逃げ場が、ない。


「人間、てめェの名前は?」

「鬼道…、鬼道有人だ。」

「へェ、鬼道ね。」


ジリジリと距離を縮めてくるソイツは俺の肩を掴むとガシャンッとフェンスに押し付けた。
完璧に逃げ場を失ってしまったと、思う頃には両肩を掴まれていた。


「離せ。」


冷たく言い放てばソイツはハッと鼻で笑い、俺を真っ直ぐと見た。


「お前、妹を返して欲しいんだろ?」


返事をしようと思えばソイツの顔が迫りくる、何かと疑問の表情を浮かべれば耳元で言葉の続きを囁く。


「お前の妹を返す代わりに、てめェが俺の所に来い。」

「何故だ?ただの人間は生け贄にはしないのだろう?」

「はァ?お前が俺の所に来るんだよ」

「貴様は何が言いたいんだ?」


話の意図が解らず、混乱していると呆れた表情で溜め息をつかれた。


「俺がお前を欲しいと思った。お前が俺のモノになる代わりに妹が生け贄じゃなくなる。どーだ?悪い考えじゃねぇだろ?」


酷く頭痛がした。
でも、ふと思ったのは俺が向こうに行くことによって春奈の命が助かるんだとそれならば、俺がそっちに行って抜け出すなりなんなりすれば…いや、殺されるかもしれないな

なんて、考えが頭に過った。

春奈が助かるならば、それも悪くない


「どういう理由か知らないが、春奈が無事な状態で帰って来るのなら俺は構わない」「交渉成立、だな?」


相手は口角を上げてニヤリと笑う
「あぁ」と返答すれば、ソイツは「迎えに来るまで逃げんじゃねーぞ」と言って俺の目の前から去っていった。




(魔王様なんて、どうでもよくなるぐらいにお前が気になって仕方がねーんだよ)



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