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待って、行かないで




また、お前と戦わねばならないのか

嫌で嫌で仕方がないのに、
今この時が一番幸せだというのに。


「デスタ…。」


いつもの雰囲気からは想像が出来ないほど、楽しそうにボールを蹴り上げているデスタ。
魔界の仲間達が居ないから無邪気な素顔を見せられるのか、なんて考え方をすれば少し嬉しい気もする。


「なんだよ?」


器用にボールを足に乗っけさせれば、視線を此方へと移した。


「もし、生け贄が見つかったら…お前はすぐに捕らえに行くのか」

「ハァ?当たり前だろ。」


ふんっと鼻で笑うように言えば、またボールで遊び始める。
笑顔で、一心に、魔界の者とは思えないほどに綺麗で真っ直ぐな瞳をして。
私にとってサッカーなど、デスタ達を永遠に封印させる儀式としか思っていないのに。


「楽しそうだな」


そう言えばデスタは否定した。
「こんなのは、ただの暇潰しだ。」と。
だが、そう言ったデスタの表情はとても柔らかでトクンと俺の胸の鼓動を跳ねさせる

1000年を隔てて、今、我等はこうして此処に居るのに。それを破壊しようとするデスタに「やめよう」と一言、たったの一言を言えば済むのに…私はお前に何故そう言えないのだろうか。
つい癖で下唇を噛んでしまう。そんな私を見てデスタは笑った。


「イライラしてるだろ」

「別に、そんな訳じゃっ」

「いーやっ、イライラしてる」


ケタケタと笑うデスタは「それ、セインのイライラしてる証拠」自分の唇に人差し指を当てて得意気な表情を見せる。


「そんなに俺に負けるのが嫌かァ?」

「違う。」

「じゃあ、何だっつうんだよ。」

「私は…っ、」


お前を拐おうともできない私が嫌だ。
もう争いは終わりにしようとお前が好きだと、伝えることが出来ない私が嫌だ。
こんな女々しい私が…。

ぐるぐるとマイナスが脳内を回転する、マイナスにマイナスが積み重なり、涙が溢れ出そうになる。

私の言葉を待っているデスタは首を傾げ、疑問符を浮かべた。


「私は、せめて今のままで居たい」


そう言えばデスタは「はぁ?」と眉間にシワを寄せた。
デスタが言葉を続けようとした時、我等を呼ぶ光が綺麗に輝く。


「これで魔王様復活だなァ」


「行くぞ」と続けて紡がれた言葉を否定するようにデスタの手を掴んだ。




(この距離感でも構わないから。)



end..

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