coupling | ナノ
お前からの計りきれない愛。



最初はアイツの何もかもが気に入らなかった。


「なあ、鬼道ちゃん、」


ベタッとした気持ち悪い声で俺の名を呼んだのは、昔佐久間と源田を利用していた不動明王だ。


「…なんだ」


退き気味に返事をすると不動はニタッと厭らしい笑みを顔に貼り付けた。俺はまだそんな不動が苦手だ。


「皇帝ペンギン呼んでよ」
「嫌だ」


即答して不動に背を向ければ、腰回りに腕を回されて後ろから抱きつかれた。
ボンッと俺の顔は一瞬爆発するが、何食わぬ顔で不動の腕を解こうとした。でも解けない。


「ケチだなぁ」
「ケ、ケチで結構だ」


解けない腕にわたわたしながら答えると、不動は愉しそうにクツクツと喉で笑った。


「…何が可笑しい」


そう聞けば、不動は変わらずクツクツと笑いながら「いやあ、鬼道ちゃんが可愛くて」と言った。また爆発する。胸がドキドキ五月蝿い。


「辛くないのか、その体制」


不動は俺と大体同じくらいの大きさだ。俺の腰に抱き付いているんだとすれば、体がくの字に曲がっているはずだ。「優しいねえ、鬼道ちゃんは」


「よっ、と」とか言いながら不動は俺の腰から腕を解いた。ふう、と安堵の溜め息をついた途端、また後ろから不動の腕が今度は胸周りに絡まった。


「な…ッ!」
「心臓うるせェんだけど」


二の句が告げなかった。後ろから真っ赤な俺の顔を覗き込んで不動はまたクツクツと笑う。
暫くして不動の厭らしい笑いが止んだかと思った次の瞬間、うなじに柔らかいものがあたった。それが不動の唇だと分かるまで時間はかからなかった。途端に顔が更に熱を帯びていく。


「俺、鬼道ちゃんが好きだぜ」
「なッ!?ふざけるな…ッ」


キスをされたであろううなじを右手で抑えれば、その右手の甲にまたキスをされた。同時にチクリと痛みがあって、見れば赤い痕があった。


「信じてくんねェの?」
「だ、だって、おかしいだろう!その…男が男となんて」


右手の甲についた痕を消そうと懸命に擦った。綺麗な赤い内出血は消えるはずもなく、治癒を待つだけと解っていても、俺はこの場から逃れたい一心で涙ぐみながら痕を擦り続けた。


「……ふーん」


不動はそうポツリと呟いて、今度は噛みつくようにうなじにキスをした。というか、もはやキスではない。激しい痛みが背筋に走った。


「…ッた、不動…ッ!」
「信じてくれないなら、力ずくででも解らせてやる」


そう言ってまたうなじを噛まれた。何度も何度も。


「痛いッ、やめッ」
「なら、俺を理解しろよ」


不動の泣きそうな低い声がいつまでも耳の中で木霊した。




愛。
(きっと俺にはまだ重すぎる)



fin.

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