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その涙を拭わせて

影←鬼 前提 デモ+鬼



容姿は少し違えど、サッカーのプレイの仕方は俺のクローンように似ていて。

気持ち悪くて、吐き気がした。

今でも、思い出す。
下で結ばれたドレッド、少し色が淡い赤色のマント、総帥から貰ったであろう紅いゴーグル。
動きも、必殺技も、俺よりかは数段上かもしれなかったが、俺の動きそのものだった。


「…誰でも、いい…んですね」


そう、あの人は俺なんかじゃなくても
俺を越える存在であれば…。
結局、俺のクローンは俺を越えられはしなかったけれど、もし俺を越える作品が出来たとき貴方はもう俺を愛してはくれないのですね。
いや、貴方が今までくれたアレは“愛”なんかじゃなかったのだと。

やっと理解出来ました。


「キドウ…?何故、泣いてるの?」


クローンが俺を心配そうに見る。
目が見えないくせに「泣いてる」なんて決め付けないで欲しい。
今はゴーグルもマントもないクローンだが幻覚か何なんだろうか、ドレッドも下ろしているはずなのに目の前に居る彼は試合をした時と同じ姿が重なるように見える。

印象が強かったのか、衝撃が酷かったのか、それともショックを受けたのか。

俺とそっくりなこの人形を忘れられない


「泣いてない。」

「でもっ…、」

「俺はお前と会話をする為に来た訳じゃない。影山について聞きに来たんだ。」


凛っ。
と言いきれば人形の眉毛は八の字に下がり、困った様子で口を開いた。


「…総帥は、キドウを忘れられないんだ。最高傑作だからとか、そんなんじゃなくてさ。…まるで、キミを愛してるかのようで…」


と、クローンの口から信じられない言葉が発せられた。
ふと、見たくもないクローンの顔を見ればもう何も見えはしない瞳を細くさせ笑っていた。

綺麗な笑顔。
ああ、気持ち悪い。何故だ?

何故、勝者である俺が笑えなくて敗者である人形が笑っているんだ?

何故っ!
何故あの人と過ごした時間は俺よりも短いのに、そんなコトが言えるんだッ!

言葉に出来ないモヤモヤが俺の中でたくさん積もっていく。


「キドウ、総帥の元へ帰ってあげなよ。キミが戻ってくるのをあの方は待っ…」

「黙れッ!貴様にあの人の何が解る?!…たった…、たった数ヶ月一緒に過ごした貴様に…俺は何も解らないのに!」

「それは違うっ」


凛と声が響く。
先程まで俺の怒声が響いていた空間に怒りを沈静させるような声が、何故か、何故か、違うと感じた。

こんなにも似てるのに。


「何が、違うというんだ…っ」


あれは愛なんかではなかったと。
ただ…完璧である作品を求めていただけであって、完璧であれば誰でもいいのだと

今までソレが理解出来なかった俺は、総帥のことが何も解らないんだ。


「全てを教わっても…あの人を理解していないのに」

「…キドウは理解しようとしてないんだ、総帥から離れて、距離を置こうとしてる…」

「そんな、はず…」


ない、と言いきれなかった。

だって、総帥のやり方が信じられなくて、俺は総帥と決別をしたのだから。
一番理解をしていると、あの人の考えを理解していると思っていたのに。


デモーニオの手が肩から腕を伝って握り拳を作っている俺の手を握る。


「もしキミが、泣いているのだとすれば」


ポツリポツリと言葉を呟いていく。
悲しい表情と言っていいのか、解らない


「涙が伝う頬へと俺の手を導いて?」


涙も伝ってもいない頬へと導けば、デモーニオは手探りで俺のゴーグルを外した。
涙なんて伝うはずもない頬にデモーニオの体温を感じる。


「どうすれば…」口が言葉を形を作る
目の前にいるデモーニオの姿が歪んで見えたと思ってたら視界に入っているモノ全てが歪み色が混沌する。


「今は、泣けばいいんだと思うよ。」







(キミが辛いのは、俺がよく解ってるから)



end...

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