coupling | ナノ
酒、煙草、或いは。

※成人過ぎ設定
※裏注意



「おい、不動、」
「なに、鬼道ちゃん?」


久々にデートがしたいなんて意味のわからないことを言ってきたもんだから何かと思えば、ピンクな路地に連れて行かれた。


「ここ、どこだ」
「キャバクラに決まってんじゃん」


ピンクや紫に怪しくネオンが光る店が建ち並ぶ一番奥の大きな店の前で立ち止まり、俺は不動に問うた。思った通りの答えが返ってきた。


「入る…のか?」
「たりめェだろ。じゃなきゃ来ねェし」
「なら、一人で来ればいいだろう」
「まあまあ、入ろうぜ」


不動はそう言うや否や、吸っていた煙草を地面に落として靴裏でグリグリと押しやった。ズカズカと階段を上り焦げ茶の重そうな扉の前に立って振り返った。


「何してんだよ、早く来いっての」
「本当に入るのか?ここは、その…女と戯れる所だろう」


言っていて少し恥ずかしくなった。俺がそう言うと不動はフンッと鼻で笑って「お楽しみがあンだよ」と言ってこちらに来るよう促した。
俺は足下に落ちているまだうっすらと煙を立てる煙草を再度グリグリと押しやってから、意を決して歩を進めた。

ギィッと軋みながら開いた扉の向こうはキラキラした室内だった。シャンデリア、グラス、ドレス、全てが光を反射して俺の目に刺さってきた。


「不動さん、いらっしゃあ〜い」


厚化粧をした一人の女が不動の前に近寄ってきた。年は三十路前後か。


「あら?お友達?」
「…どうも」
「私、ここのママの由香理っていうの」
「はあ」


適当に相づちを打つと不動に足を踏まれた。キッと睨んだが知らん顔で由香理とやらと話をしている。
ソファーに案内されると、不動はドカッと座り脚を組んだ。俺はそっと座った。思っていたよりふかふかでちょっと感動したのは内緒だ。


「不動さん、彼女いるんでしょ?こんなとこ毎回来てていいの?」


由香理がグラスに入っているよくわからない飲み物をマドラーでかき混ぜながら唐突に言った。
というか、彼女いたのか!?まあ、二十歳過ぎれば彼女の一人や二人出来るだろうが、俺は昔から不動が好きだから彼女なんか作らなかったのに、不動は違うのだろうか。


「んー、あぁ」


不動は飲んでいたグラスをテーブルに置き、天井を仰いで適当に話を流した。かと思えば次の瞬間、いきなり肩に腕を回されグイッと引き寄せられた。


「だから、連れてきたンだよ」
「あらあら、そういうことかぁ〜」


何だか分からずキョトンとしている俺の前で不動が厭らしく笑った。何を理解したのか由香理も楽しそうに笑っている。
訳が分からず不動の方を見れば、目の前に不動の唇があった。思わず目を瞑ると、暖かいものが俺のそれに触れた。由香理の「きゃあ」という声が聞こえて我に返る。


「ちょ、不動、人前だッ」


ドンドンと不動の胸板を叩くと仕方なさそうに離れた。チュッというリップ音は騒がしい店内にかき消されたが、俺の耳にはしっかり聞こえた。唇と耳が熱くなる。


「由香理、奥の部屋借りるぜェ」
「はいはい、どーぞぉ」


俺の肩を抱き寄せたまま不動は店内の奥を親指でくいっと指した。由香理はにこにこ笑いながら不動に鍵を投げた。


「なッ、どこ行くつもりだ」
「奥の部屋っつったろ」


不動は飲んでいたグラスを左に持って、右で俺を抱き寄せてコツコツと店の奥に入っていく。
部屋の前で俺の肩に回していた腕を解き、器用に鍵を開けた。扉が開き、見れば薄暗い部屋にダブルベッドとスタンドライトがあった。


「先にシャワー浴びて来いよ、鬼道ちゃん」


久々に不動とセックス出来るのかと思うと何だか嬉しくなった。何年ぶりだろうか。半年くらいか…?
そんなことを考えながらシャワーを浴びてシャワー室を出ると、俺の服が無かった。代わりに真っ白なバスローブが綺麗に畳まれて置いてあった。


「おい、不動、」
「なに、鬼道ちゃん?」


今日二度目だな、このやり取り。


「俺の服はどこだ」
「置いてあるだろ、バスローブが」


はぁ、と溜め息をついて仕方なくバスローブを着た。せめてもパンツくらいは返して欲しい。股がスースーして気持ち悪いんだが。「上がったぞ。早く入れ」


不動に入るよう促した。不動は「やっぱ似合うな」とか言って昔みたいに無邪気に笑うから思わず赤面してしまう。


「じゃ、入って来るわ」


片手をひらひらさせながら不動はシャワー室に向かった。
俺はダブルベッドにボスッと座った。そのままゴロリと寝っ転がって、ゴロゴロとベッドの上を転がった。自分で思っているより楽しみなんだと思った。身体は正直だ。ゴロゴロしているうちにウトウトしてきた。そういや昨日大学のレポート徹夜でやったんだ、とか思いながら目を閉じた。

首から胸にかけてがくすぐったくて目が覚めた。


「あ、起きた」
「んあ?不動か…」


眠たい目を擦りながら不動に焦点を合わせる。不動はまた上半身だけはだけた俺の胸元に顔を埋めた。


「鬼道ちゃん、また痩せた?」
「んー、最近忙しくてろくに食べてないかもな」
「しかも肌白くなったなァ」
「ひぁッ」


そう言いながら胸の突起を弾くもんだから思わず変な声が出た。


「可愛い声出しやがってよォ」


片方の突起を手で、もう片方を舌で弄られれば、自分でも驚くくらいの甘い声と吐息が漏れた。口元を手で押さえようとすれば、不動がそれを阻止して深く口付けをしてきた。求めて求められて、こんな幸せが他にあるか。


「ふどッ…」


不動の名前を呼ぼうとしたらキスで塞がれた。最初は啄むように緩くキスをするが、段々と深く舌を絡ませる。生暖かい不動の舌とぬるぬるする互いの唾液と卑猥な水音が徐々に俺の脳と耳を犯し始める。


「鬼道ちゃん…」
「やだ、有人って…呼んでくれ」
「〜〜ッ!可愛いにも程があるだろ」


今度は俺の方から不動に口付けをした。不動は待ってましたとでも言わんばかりに舌を絡めてきた。俺もそれに応える。ディープキスに没頭していると不動の手が腹を撫でた。


「ちょ、やめッ」


バスローブの中へと侵入してきた不動の手は徐々に下へと向かった。


「今更止めろなんて無理だからな」
「…ッ!!」


不動はそう言いながら胸から腹を通って股まで舌を這わせた。ビクンと身体がはねる。


「バスローブは脱がすのが楽だなァ」
「不動、お前、それが目的で…ッあ!」


どうりで不動はジーパンだけなんだと悟った。
無駄口を叩くと身体を弄られて、口を塞がなければ変な声が出る。そんな俺を見て不動は愉快気に笑った。凄く愉しそうに。


「顔真っ赤だぜ、鬼道ちゃん。おっと、有人って呼んで欲しいんだっけ?」


時既に遅し。さっき言ったことを酷く後悔した。不動の言うとおり俺の顔は凄く真っ赤だろう。興奮と羞恥とが混ざり合って、自分でも分かるくらい身体と心が火照っていた。


「いいから…早くシろ…」


身体をくすぐる甘い前戯に耐えながら言うと、不動はまるで飢えた獣のように目を光らせて俺の股に顔を埋めた。


「久しぶりだからいきなりはキツいか」
「いい…、いきなりでいいから…」


そう言うと恥ずかしくなって目元を手の甲で隠した。不動は驚いたらしく行為を中断すると、目元を隠していた俺の手を優しくとって手の平にキスを落とした。
不動と目があった瞬間、ズンッと入ってきた今までとは比べものにならない快楽に一気に頭が朦朧としてくる。


「んッ、ふぅ…ッ」


久しぶりの不動とのセックスはどこか懐かしくて甘くて切なくなった。
口に手をあてて必死に声を押し殺しながら不動の表情を盗み見る、額にうっすらと汗を浮かべて一心に俺へと打ち付けてくる。痛いけど気持ち良い快楽と共に生理的な涙が俺の頬を伝った。


「綺麗だ、有人…ッ、」
「あっ…んぅ、明…王ッ」


不動の大きな胸に抱き締められる。背中に回した手が無意識に爪立てる。一瞬不動が顔を歪めた。
「好きだッ…ぜ…」
「んッ、もっと…足りないッ」


室内に響く肌の打ち合う音と卑猥な水音がなんとも厭らしい。でもそんなこと気が付かないくらい俺達は夢中だ。むしろ、そんな厭らしい音さえもが俺達の淫らな欲望を駆り立てた。


「愛してる…ッ」


明王は腰を動かしながら真っ直ぐ俺を見てそう言った。それとほぼ同時に俺の唇に噛みつくようなキスをする。全く器用なヤツだ。そのキスは、吸っていた咽せるような煙草とさっき飲んでいたロックの酒の味がして、苦くて甘かった。





(俺しかいないだろう)



fin.
<お題⇒Exit.様>



 

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