coupling | ナノ
そんな、俺の狡い考え
※106話ネタ
耐えきれなくて走り出した。
後ろから「鬼道ッ」と俺を呼び止める声が聞こえたが俺はそれを気にもせず自室へと逃げるように入る。
扉を思い切り閉めれば、俺はへにゃりと座り込んだ。
「影山…総帥…」
(ホントに…最後なのですか?)
白い壁を見て、ポツリ。
空気と同化するぐらい小さな震える声でそう呟く。
ゴーグルを外し総帥を思い出す様に瞼を閉じれば、今は目の前で見ることができ無くなった恩師の嫌いで仕方がなかった笑顔が浮かんだ。
「そんな…嘘、だ」
(あの人が死ぬ、なんて)
ポタリ…ポタリ…。
頬を伝って零れ落ちる。
俺の視界を歪ませるソレは拭っても、拭っても止まらなくて俺の手を濡らす。
「鬼道クン?…」
一時期、恩師と重ねていたヤツが扉越しで俺の名前を呼ぶ。ふざけた呼び名は相変わらずで、いつもなら止めろと怒声を響かせるが今はそんな気力などなかった。
「何か用か…」
「…開けろよ」
涙声に成りつつも、用件は何かと聞く。
用件と言うよりか命令に近かった言葉に、俺は「断る」と即答してやった。
「…俺しか居ねぇよ」
「そういうッ…問題では、ない」
円堂達が居たら困るというのも確かに断る理由に入ってはいるのだが、一番は泣く俺を見られたくはない。
「そういう意味じゃねぇっての」
不動の言っている意味が解らなかった
でも、何故だろうか…不動が自室に入るのを俺は許してしまった。
ゆっくりと立ち上がり、ドアノブに手を掛ける。ゆっくりと少しだけ開けると俺はそそくさとベットに向かい、不動へ背を向けた。
「…なぁ、…」
「…グスッ…何だ。」
「そっち行っていい?…」
不動のことだから、断っても無駄になるだけ。俺は何も言わなかった。
少し迷ったようだが不動は俺の予想通り、返事を待たずに…というか無言の了承をし、ベットの上に座る。
フワリと、背中に暖を感じた。不動の手が前まできて俺を包み抱き締める。
不動の腕が暖かくて、何故か安心して。泣くのが恥ずかしいから少し我慢していたのに不動のせいで涙腺が緩んだ。
涙が溢れ出て止めどなく頬を伝う。
「かげ…やまッそぉす、い…うぅ…」
ひたすら恩師の名前を嗚咽混じりに呼び続け、泣きじゃくった。
「…うっ、ぐ…そ、すぃ」
「鬼道…。」
ギュッっと力が込められた。迷惑を掛けすぎたか不動を困らせたか、と思い泣きながら謝る。
「ふどぉ、…すま、っない…う」
(お前の気持ちは知ってるのに、)
「謝んなよ…。お前が一番辛ェってアイツ等も俺も解ってるしよォ。それに、お高く止まってる鬼道クンが今日泣かねぇで、いつ泣くんだよ。」
(我慢してるお前なんて見てらんねぇよ)
「…うぅ…ひっ、…」
(俺の中であの人の存在は大きすぎて、)
「だから、気が済むまで泣けばいいんじゃねぇの?」
(それは俺の純粋な気持ちじゃないけど)
「ぐ、ぅ…そ、ぉすい…そ、ぉすい」
(今はお前を考える余裕がないんだ)
何度も、何度も、繰り返し、繰り返し。
涙が一筋、二筋、頬を伝っては落ち、衣服の色を濃く色づかせ、元に戻る。
そのくらい長い時間、俺の涙は止まることを知らないかのように流れ続け。
不動は、そんな俺を抱き締め続けた。
「…なぁ、鬼道クン?」
(もし、コレに漬け込むのが許されるなら)
「なんっだ、…ふど?」
(もし、コノ気持ちが綺麗に晴れた時には)
《そんな、俺の狡い考え。》
(アイツの代わりでもいいからさ)
(お前を思ってもいいだろうか?)
end.
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