俺を愛でよ! | ナノ


07-2


「俺の家、わかるか?」


涙がぼろぼろと零れた。返信をするのも忘れて一心に駆け出す。心の中で佐久間先輩と何度も呟く。早く会いたい。
インターホンを押すと、少ししてから佐久間先輩が出てきた。思わず手を伸ばせば、暖かい佐久間先輩の体温。


「とりあえず中に入れ」


リビングのソファーに腰をかける。「ココアでいいか?」という佐久間先輩の言葉にコクリと頷く。何だか落ち着かなくてソファーの上に体育座りをして顔を埋めると、頭にタオルをかけられた。


「青汰が何をしているかは知ってる」
『…はい』


タオルで涙を拭う。今日はよく泣いてるな。
差し出されたカップに口をつける。適度に温かいほろ苦いココアがスッと喉に入ってきた。ホッと一息つく。


「それが良いか悪いかはおいといて、お前自身はどうなんだ?」
『…でも、金が要るんです。どうしても』
「細かい理由を教えてくれないか?力になれるようならなりたいんだ」


佐久間先輩を見ればまたあの目をしていた。泣きそうなあの目。


『…はい』


飲んでいたココアのカップをテーブルにそっと置いてから口を開く。


『俺の父は有名な大企業の社長なんです。母はしがないピアニストでした』


ぽつりぽつりと話し始めると、佐久間先輩は目を瞑って俺の言葉に耳をかたむけていた。


『出会ったのは母がよくピアノを弾いていたバーだと聞きました。多分、出来婚だったんだと思います』
「一人っ子なのか?」
『はい、だからか父も母も教育熱心でした。でもある日の夜、父が逃げたんです。多額の借金と離婚届を残して』


佐久間先輩の眉間に皺が寄った。そのまま話を続ける。


『所謂、夜逃げです。父の会社が倒産したんです』
「じゃあ離婚してるのか?」
『いいえ、母は離婚届に判をおしませんでした。母は父を本当に愛していたから』
「お母さんは今どうしているんだ?」


佐久間先輩の質問は続く。『母は父が夜逃げしてからすぐ死にしました』苦い顔でそう言えば、佐久間先輩はハッとして「すまない…」と言った。


『いいんです、全部お話します』


そう言ってまた口を開いた。





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