俺を愛でよ! | ナノ


05-1


教室に入ると健也がいた。いつものように机にべったりとうなだれていて、健也の前の席に座ればいつものようにシャカシャカとヘッドホンから微量の音楽が聴こえる。


『健也、』


名前を呼んでも一向に顔を上げる気配はない。どうせまた曲作りに没頭して睡眠時間が少なかったのだろう。


『健也、』


コンコンと頭を小突けば、やっとこさ顔を上げた。眠そうに目を擦り、焦点の合わない顔で俺を見た。


「おう、青汰か…」
『また寝てないんだろ』
「んー、そろそろ出来そうなんだ」
『そっか、聴かせろよ』
「あぁー…」


そう言うと、また顔を下げた。
気付けばみんな登校してきていて、廊下や教室の一角に溜まって楽しそうにお喋りをしていた。


「はい、席着いてー」


汗だくの先生が入ってきて、まだ春なのに冷房を点けるもんだから、健也の脱いでいた学ランを背中に掛けてやった。


『おはよう』
「おはよう、青汰」


横を向くと読書に没頭している洞面がいた。一言挨拶をすれば、顔をこちらに向け少しはにかみながら挨拶を返してくれた。


「はい、じゃあね、今日のホームルームでは委員会を決めようと思います。江村、黒板書いて」
『えぇ!?俺がっスか!?』
「生徒会、でしょ?」


驚いて席から凄い勢いで立ち上がると、先生は意地悪く笑った。


「みんなも見てたと思うけど、生徒会の人達と顧問の先生の権限で、私のクラスの江村青汰くんが生徒会会計係に任命されました」


先生がそういうといきなりクラス中から歓声があがった。黒板の前に立った途端のことでびっくりしたけど、嫌な気はしなかった。
委員会は案外みんな自主的で、HR内で決まった。健也と洞面は特に委員会には入らなかった。


「青汰ーーっ!」


昼休み。うるさい足音と、壊れそうなくらいのドアを開ける音と、俺の名を呼ぶ耳をつんざくような声が響いた。



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