act.4
遠くで雷の音が聞こえる。
小さい雷鳴だからこの周辺に落ちたのではないのだろう。

琥一の怒鳴り声に叩き起こされた琉夏は一階に下りてきたが、琥一の姿は無かった。
そこにはさっき喧嘩した美奈子が何故か琥一の服を着て泣きそうな顔で座っていた。

「…コウは?」
「バイトだって」
「ふーん」
琉夏はいつもなら美奈子の隣に座るが、今日は喧嘩の気まずさからか少し離れたカウンターテーブルの椅子に腰かけた。
そして机の上にあるバイクのキーをチラッと横目で見ると下に敷かれたプリントを手に取り、まじまじと見ている。それまでムスッとしていた琉夏はそれを見ると急にクスクスと笑った。

さっき琥一が何かメモをしていたようだったが、何と書いてあるのか美奈子は知らなかった。
「…琥ちゃん何て書いてたの?」
「ん?あぁ、まあ、ちょっとね」
琉夏は口ごもって言いたがらない風だった。
「あ、琥ちゃん新人さんの歓迎会で遅くなるって伝えてくれって言ってた」
「え?コウが?歓迎会?」
「うん」
琉夏の顔が心底驚いた表情になると、先程のプリントに再び目を落として今度はアハハとさっきよりも大きく笑った。

琉夏はカウンターから離れて美奈子の隣のいつもの場所に座ると、美奈子の肩にもたれかかった。
「…ゴメン」
雨でかき消されてしまいそうなぐらい小さな声だったが美奈子にははっきり聞こえた。
「わたしも…ゴメン」
「俺さ、オマエにヤキモチ妬いてほしくてワザと知らない女にあんな事したんだ」
「そ、そうだったの?」
「うん」
琉夏は美奈子の首元に顔を埋めて腰にしがみついてきた。琉夏の表情は見えないが、イタズラして飼い主に叱られた子犬が耳を折り曲げてしゅんとしているように見えた。
「私も、怒鳴ったりしてごめんね?」
「ううん。俺が悪いんだ。本当に」
「…仲直り、しよう?」
美奈子は子犬によしよしするように琉夏の頭を撫でると琉夏は気持ちよさそうに目を細めて美奈子の腰をぎゅうぎゅうときつく抱きしめた。
「じゃあ、仲直りのチュウ、していい?」
「え…?うん、いいよ」
美奈子が瞼を閉じると、琉夏は”チュッ”と一回だけ吸いつくように唇をつけた。
「これで仲直り完了。オッケー?」
「うん。そうだね」
美奈子は恥ずかしくなって顔が赤くなるのがわかった。でもいつもみたいな恥ずかしさではなく、琉夏との距離がまた一つ縮まって嬉しいような…そんな気恥ずかしさだった。

その後、琉夏が突然思い出したように「あ」と声を上げた。

「なぁ。いっこだけ、いい?」
「なぁに?」
「何でオマエ、コウの服着てるの?」
「ここに来るまでに雨に濡れちゃったの。琥ちゃんがかしてくれたんだ」
「俺の服着ればいいのに…」
不満顔の琉夏が口を尖らせた。
「もう!」
美奈子がペチっと琉夏の額を叩いた。
「イテ」
琉夏がそうおどけると、2人はケラケラと笑った。もうすっかり元通りだ。

「なあ、仲直りと言えばさ…」
「ん?どうしたの?」
美奈子が首を傾げると、突然フワッと体が宙に浮いた。どうやらお姫様抱っこされているようだ、と状況を把握するのに2秒ほどかかった。それぐらい突然だった。

「当然、仲直りのSEXでしょ!」

美奈子を抱き上げたまま興奮気味に早足で奥の自室へ繋がる階段目がけて歩き始めた。
「ちょっ、ちょっと!るかぁ!」
美奈子がバタバタと抵抗するがおかまいなしだ。琉夏は器用に階段をカンカンと駆け上がりながらSEX、SEXと鼻歌を歌って上機嫌だ。



さっきまで2人を責めるようだった雨音は、今は何故だか優しい気がした。
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