act.2
繁華街のゲームセンター


「すごーい!琉夏、2回で取っちゃったね」
「まぁね。言ったろ?ヒーローは何でもできるって」
フフンと得意げになる琉夏を美奈子は誉めたたえた
「さすが!よっ!ヒーローの鏡!」
「もっと言って。無敵のヒーローはUFOキャッチャーだって
思いのままだぜ?」
「何それ、変なヒーロー」
2人は可笑しくてその場でゲラゲラ笑い転げた。

何でもない日常が琉夏には幸せだった。
2人でゲラゲラ笑ったり、美奈子と一緒にいるそれだけで。
恋愛なんて自分には手の届かないモノだと思っていたが
こうして触れてみると温かくて、今生きている事を実感できる。
なかなか悪いもんじゃない。
しかしこの幸せを突然失ってしまう時の事を思うと
今でも憂鬱になる。
そんな自分に彼女の傍にいる資格なんてあるのか。


「ねぇ、喉渇いちゃった。ジュース買ってくるけど
琉夏は何がいい?」
「いいよ、俺が買ってきてやる。何がいい?」
「じゃあ…オレンジジュース!」
「オッケー。待ってて」
そう言い残すと自動販売機のある方に琉夏は歩いて行った。

オレンジジュースとコーラを持って美奈子のいる所に戻ってくると
美奈子は誰かと話をしているようだった。
自分より一つ下か上、いや、同じぐらいの男。
2人は楽しそうに笑っている。
男は美奈子の頭に手を置いてわしゃわしゃ撫でると
「じゃあな、美奈子」と言い残す男の声だけが聞きとれた。


他の男の前であんな笑顔を見せるなんて知らなかった。
美奈子を独占できて浮かれていた自分が馬鹿みたいに思えて
琉夏はさっきまでの幸せな気持ちから一気に突き落とされたような気分になった。


美奈子は琉夏が戻ってきたきた事に気がついて
「おーい!」と手を振りながら走ってきた。
「座って飲もう?あそこのベンチ空いてるよ」
「ああ…うん」
2人はベンチに座って缶のプルタブをプシュと開けた。
美味しそうにゴクゴク飲む美奈子の横顔を見ながら
琉夏は聞こうか聞くまいか迷っていた。
さっきの男は一体どこの誰なのか、と。
グルグル考えていると聞く前に答えは判明する。

「さっきね、中学の時の同級生に会っちゃった」
「中学の?」
「そう。けんちゃんって言うんだけど、親戚の家に
遊びに来てるんだってさ」
「そっか…そうか…」
何だ、ただの同級生か。琉夏は得体のしれない男の正体が
わかって少し安堵した。
「けんちゃんは陸上部のエースですっごい足も速くて人気者だったんだよ?」
思わぬ旧友との再会にテンションが上がったのか
”けんちゃん”とやらの話をペラペラ喋り始めた。

どうやら2人は仲が良かったようだ。
そうだ、さっきも美奈子の頭を撫でていたではないか。
おまけに「美奈子」と呼び捨てにまでした。

面白くない。
琉夏は残りのコーラを飲み干すと、アルミ缶を
ぐしゃりと素手で潰した。
「琉夏…?」
美奈子が心配そうに琉夏を見ると目は座り、口を一文字に
結んで憮然とした表情でどこか地面の一点を見つめていた。
「・・・・だろ」
「え?」
「そんなに会えて嬉しかったなら、ソイツと遊べばいいだろ」
「え、ちょっと!琉夏?」
「俺じゃなくてソイツと遊べばいいって言ってんの」
プイと琉夏がそっぽを向いた。

いつもなら美奈子がゴメンねと謝って琉夏を甘やかして
終了なのだが今日は違った。

「何よ…琉夏だってさっき女の子に抱きつかれて
嬉しそうだったじゃない!」
美奈子にしては大きな声で叫ぶと残っていたジュースを
ごくごくと一気に飲んだ。
「あんなにヘラヘラしちゃってさ」
アルミ缶を手でベコベコとへこませながら
我慢していた怒りを爆発させた。
しかし隣の琉夏からはリアクションらしきもの
が返ってこない。琉夏も相当怒っているのかと
恐る恐る見ると、下を向いているため自慢の金髪で
顔がよく見えない。せめて目ぐらい見て話せばどうかと思って
「聞いてる?琉夏!」と、肩を引っ張ると
ガシャーン!と琉夏が持っていたアルミ缶を地面にたたきつけた。
その激しい音に周囲の人々が一斉にこちらを見る。

「そうだな、俺が悪いな」
目も合わせずボソリと冷たく琉夏が呟く。
あまりの変貌ぶりに美奈子は絶句し、しばらく動けなかった。
「…俺、帰る」
そう言い残すと琉夏は叩きつけたアルミ缶を広い、ゴミ箱に投げて
スタスタ出口へ歩いて行った。


外に出た琉夏は家に帰ることにした。
顔にポツリと冷たい感触がしたので空を見上げると
ポツリポツリと雨が降ってきた。
傘は持っていない。だから早く帰ろう。

ヒーローの心はずぶ濡れだ。
体までずぶ濡れになりたくなんかない。

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