act.1
一年に一度、女子が頭を悩ませる日。それが2月14日。

美奈子もまた、頭を悩ませる女子の一人であったりする。



(放課後にWestBeachに持って行こうかな…。でも、バイトでいないかもしれないし…琥ちゃんに渡す?いやいや、琉夏拗ねちゃうよなぁ…)

ガタガタガタと椅子の音が聞こえたので辺りを見回すとクラスメイトがすっかり帰り仕度を初めていた。


「え!もう終わったの?いつの間に…」

「お前今日ずっとボンヤリしてたな?風邪か?」

考え事をしていたために放課後になったことに全く気がつかなかった美奈子の肩をポンと叩いてクラスメイトの不二山が怪訝そうに見つめた。

「あ、いや、体調は悪くないけど…ちょっと考え事を…」

「そうか。ならいいけど」

「あ、不二山君にコレ」

「なんだ?」

「今日、バレンタインだよ?っていうか貰ったチョコ授業中に食べちゃダメだよ?」

「あー、今日はバレンタインか。通りで今日はチョコばっか貰う日だと思った…」

「え…忘れてたの?!」

「おー。あんまり興味ねぇから」

「不二山君らしいね…」

「ま、いいや。お前に貰うのは悪い気しねぇ。サンキュー」

「どういたしまして。あ、ニーナと半分こしてね?」

「どうかな?腹減ってるから全部喰っちまうかも」

「もう!ダメ!2人分だから大きいチョコ用意したんだよ?」

「わかったわかった。ちゃんと道場で食べるから」

じゃあな、と不二山は背を向けて部活に向かった。

(不二山君…わかってるのかな?)



さて、これで義理チョコは配り終わった。これからどうしたものかと美奈子は頬杖をついていると、右から強烈な視線を感じた。

ストーカーされるほどモテてはいない。誰が自分なんかをじっくり見ているのか不安になって恐る恐る顔を向けると、教室の入り口の扉から琉夏がひょっこり顔を出していた。

いつも琉夏が美奈子の前に突然姿を現す時は、大抵満面の笑みで現れるのだが、今日は何故か目を吊り上げて口を尖らせて見るからに拗ねている。

「る、琉夏…?」

「・・・・」

返事をしない所を見ると怒っている事が確信に変わった。

「ねぇ、琉夏、入ってこないの?」

「・・・・不二山にあげてた」

「え?」

「チョコ」

「ああ、バレンタインのチョコ?琉夏のもあるから入っておいで?」

琉夏はまだ拗ねて扉から顔を出したまま動かない。

「俺の・・・・ある?」

「あるに決まってるじゃない!ね?おいで?」

「不二山のと…一緒?」

「えっ?」

「不二山にあげたのと同じやつ?」

「違う違う!琉夏のは手作りだよ?」

単純というか何と言うか…パアッと顔を緩めて琉夏が扉の陰から飛び出て美奈子の傍まで走って来た。

「ヤッタ!俺だけ手作り!」

「あ…その…琥ちゃんのも作ったんだけど…」

「コウのも…?」

隠してもバレるのは時間の問題。さっさと白状した方がいいと思って小さい声で言うと、琉夏は手を額に当ててうーんと唸りながら何やら考えているようだ。


「コウは…ま、いっか。家に帰ったら俺が食う」

「もう!ダメだよ!」

「大丈夫。コウのものは俺のもので、俺のものは俺のものだから」

(この前同じ事琥ちゃんも言ってたな…)

「とにかく、これは琉夏のぶんね」

ハイ、と渡すと琉夏は嬉しそうに手に取ってリボンをしゅるしゅる解いていく。


「・・・・」

「・・・?どうしたの?食べていいよ?」

急に琉夏はチョコを見たまま押し黙った。何か、不都合な事でもあったのだろうかと美奈子はビクリとする。

「ダメ…」

「え?ダメ?何か駄目だった?」

「うん。全然ダメ」

「トリュフ、あんまり好きじゃなかった?そっか…ごめんね…」

せっかく頑張ってトリュフを作ったが、相手の好みじゃなかったのなら仕方ない。琉夏なら甘いものは何でも喜んでくれると思った自分が浅はかだったのだろうと美奈子はしゅんと項垂れた。

「あ、じゃあ、また作り直すね!バレンタインは過ぎちゃうけど、絶対に美味しいのを…」

項垂れたまま必死にごめんねと言う美奈子の頬に琉夏はスッと両手を伸ばすと、顔を近づけて チュッ と唇に吸いついた。

「うん。これでバッチリ」

「る、る、琉夏!ここ教室!」

「うん?そうだね。ここ、教室だね?」

「そうじゃなくて!誰か見てるかもしれないのに駄目!」

「怒られちゃった…」

怒られたのにエヘヘと照れている理由もわからないが、何が不満で何故突然キスをしたのかもよくわからない。相変わらず不思議な男だ。

その不思議な男は照れたままボソリと呟いた。

「あのさ、美奈子がチョコあげたのって俺だけじゃないだろ?」

「え…うん、まぁ何人かあげたけど…」

「でも、美奈子のチューと手作りチョコ貰ったのって俺だけだろ?」

「えっ!…う、うん…まぁ、そうだね…」

「うん。なら、それがいい」

「琉夏…」

「あ、全部食べちゃっていい?」

「ふふ。いいよ?」

「じゃあ…ぜーんぶ、頂いちゃうけど…いい?」


「へっ?」


琉夏はチョコの入った箱を机に置くと、舌舐めずりしながら美奈子に近付く。



全く、バレンタインとは女子にとって受難である。



しかし、これがなかなか悪くはない。




おしまい。






あとがき的な→

あえてゲームでチョコをあげた時と違う反応をさせてみました。
OLさんのチョコみたい!っていう琉夏の台詞にどれだけの乙女がドキっとした事でしょうか。おい!貴様…OLさんと何があったんだい!

後日談的な感じでこのあとエロくなーる☆編を…書く…かも?


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