ザァザァと雨が降る中、決断を迫られた。
唐突だった。せめてあと一日待ってくれと言う染岡の発言で、一日の執行猶予が付いたのだ。
そんな事しても、答えは変わらないだろうと言うのに。
恐らく俺たちは、差し伸べられた手を取るだろう。力を求めて、必ず手を取る。
だけど、その手を取る覚悟を決める時間が居ると言うのも本当だった。
少林や宍戸、栗松の様な1年にはキャプテンである円堂の存在は大きいだろう。
円堂を切り捨てて、手を取るべきなのか。
それは勿論俺達2年にも言える事なのだが。
俺はもう一人、切り捨てなければならない人物が居た。



「あれ?半田
歩いてて平気なの!?」

「……いち、のせ…?」



一之瀬、だ。
病院の中庭の屋根があるベンチで考えていた時、ひょっこりと現れた一之瀬。
何でこんな時に限って、来るんだよ。
一之瀬は雷門のジャージを着ているから、恐らく稲妻町に立ち寄ったただけなのだろう。
自然な動作で俺の隣に座り、自分の髪に付いた雨粒を払う。

「実は鬼道が帝国に行きたいって言うから、皆で戻って来たんだ
あんまり時間無いから、長居は出来ないんだけどね…」

「…そっ、か」



一之瀬は一度話し出すと止まらない。
今回も例に従い、話し始めた。
しかし今の俺には助かる。

もし、力を求めれば、こんな風に一之瀬の隣に居る事は、出来なくなるんだろうか。
こうやって一之瀬の話を聞く事も。
そう思うと、嫌だった。
けど、このまま置いていかれる方がもっと嫌だった。



「半田?
…やっぱりまだ調子悪いんじゃ…」

「なぁ一之瀬」

「うん?」

「……俺とサッカー、出来なくなっても…変わらないか?」



ぱちり、と唖然としながら瞬きを一度して、一之瀬は笑った。
眩しい程のその笑顔、俺、好きなんだよなぁ。

だから、一之瀬から離れられないんだ。
こんなにもお前の笑顔が、俺を苦しめるなんて、少し前の俺には想像もしなかっただろう。



「勿論さ
俺は半田の笑顔に惚れたんだよ
半田が笑ってくれるならそれで良いよ
…それに、弱気だなんて、半田らしくないなぁ」



きゅ、と少しだけ雨粒で濡れた手で俺の手を握って、笑う。
俺もその手を握り返したかったが、止めた。

ごめんな一之瀬。覚悟、決まった。
せめて最後は、笑って、一之瀬とさよなら出来たら。
さよならなんて、したくない、けど。

俺は手を取る事に決めた。
一之瀬の手を手放す事に決めた。

きちんと笑えたかは分からないが、俺は笑顔を作った。
一之瀬が、悲しそうに俺を見ていた事は、全く気付かなかった。
だって一之瀬も、笑っていたから。









さよならまでの時間は無駄なんかじゃなかったよ
(お前と一緒に居られて、よかった)










title by 確かに恋だった

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