ヒミツのキス
気がつけば泣いていた。
それはもう、本当に自然と。
自分でもその理由は薄々分かっていたけど、まさかこんな形で感情が面に出てきてしまうなんて思ってもいなかった。
泣いてる姿なんてどうしても丸井や他の奴等には見られたくなかったので、俺はどうでもいい保体の授業を抜け出した。
ただ今は一人でいたかったので、生徒も先生もめったに来ない校舎から少し離れた竹林広場へと足を運んだ。ここならきっと誰も来ないし、気が済むまで泣ける。そう思っていたのに…
「お前が泣いてるなんて、珍しいね」
「……向こうに行ってくれんかのう」
「それは、聞けない相談だなあ」
木の影に座り込んで静かに泣いていたのに、何で見つかってしまったのだろうか。
しかもよりによって、幸村に。
「友達がメソメソ泣いてたら誰だって心配になるだろ?」
「ずびっ、一人にしてほしいんじゃ…てか今、授業中…」
「俺が人の言うことを大人しく聞く訳ないじゃん」
だから、ここにいる。
そう言って勝手に隣に座り、俯く俺の髪を触ってきた。地味に鬱陶しい。なのに止めてほしいと思わない、矛盾する気持ちに若干の苛立ちを覚える。
気にしてくれるのは嬉しいけど、いくら幸村が優しい言葉をかけてくれたって、俺の心はいつまで経っても満たされない。
寧ろ、辛いだけだった。
その優しさが、俺の想いなど届きはしないと身体中を蝕んでいく様で。
好きになってはいけないと、わかっていたのにもうどうにもならなかった。
そんな愚かな俺を責めるようにすら思えてしまった。
誰かに笑いかけてる姿を見るだけで胸がきゅうっと締め付けられたり、その笑顔を俺に向けてくれないだろうかなんて、望んでみたり。
でもそうして溢れだした気持ちを塞き止めるものも、何もなかった。
今流れてる涙もよく似てる。
溢れだしたら、どうにもならない。
止まらないんだ、何もかも。
止まれないんだ、全部。
「ね、仁王?」
「ん……っ」
幸村が俺を呼ぶ声がしたので、顔を上げれば至近距離に彼の綺麗な顔があった。
「な、んじゃ…」
「俺が、お前の涙が止まる魔法をかけてあげようか?」
「は……」
魔法?と訊ねようとしたら既に俺の口は幸村の唇に塞がれていて、何も言葉を出せなかった。
「ほらね。俺の言った通りだろ?」
数秒間だけ触れていた唇を離してから、幸村が俺の頬にソッと手をあてる。
そこにはもう、涙が流れていく感触はなかった。
「……止まっとる!」
「ふふ、急に元気になった。さっきと真逆だね」
「だってもう止まらんかと思う…た……」
次第にさっき自分が、彼からされたことを思い出して語尾が小さくなる。
そうじゃ何で、あんな…キキキキ、キスなんか…!
「うん、顔真っ赤」
「わわ笑い事じゃ、なか…!」
「でも止まったからいいだろ?それに俺はお前にキスできたから良かったし」
「……え?」
「いや、気づけよ馬鹿」
「馬鹿だから、言ってくれんと分からん…です」
「敬語可愛いなオイ。
仕方ないなあ…良く聞きなよ?一回しか言わないから」
珍しく顔を赤くしている幸村を見て期待してしまう。
もしかして、なんて今まで一度も思ったことなんてなかった。
それに、いきなりキスされるは告白フラグ立つわで、ドキドキしすぎて心臓の音がうるさい。
目をぎゅっと瞑って、握った拳にも力を入れた。
「好きだよ、仁王」
うん、俺も。
泣いた分、目一杯の笑顔を幸村に向けた。
ヒミツのキス
(誰にも内緒の、魔法のキスを君にあげる)
witten by,かまぼこ(
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