誰よりも愛を込めてキス


恋、あるいは愛って何だろう。一人一人に合わせて自由自在に姿を変えるそれを一体誰が判別出来ようか、なんて。…要するに俺は自分の内にある感情を恋か愛か決めかねていた。




「プツン」


ひょんなことから2人きりになり、暇を持て余した俺が唐突にハサミを模した人差し指と中指で小指の横を切る真似をすると仁王が不審そうな顔でこっちを見た。


「…何しとるん?」
「今、小指の赤い糸を切ったんだ」
「切るなよ」


訳が分からないという顔をしつつも相手をしてくれる仁王は意外に付き合いがいい。器用貧乏ってやつだろう。そんなんだから付け込まれるんだよ、なんて心の中で零しながら俺はそっと魔法の言葉を口にした。


「大丈夫。俺神の子だから、すぐ結び直せるし」
「あっそ」


ありもしない糸を小指に結び付ける動作を見た仁王が呆れたように頬杖をついた。こいつ馬鹿か、と言いたそうな表情をしているが口には出さない。賢明だ。


「あのさ、」
「なん」
「この糸がお前に繋がってたら、どうする?」
「糸って?」
「運命の赤い糸」
「誰と?」
「俺と」


俺と自分の小指を交互に見比べる仁王の顔は可哀相な程強張っていて、申し訳ないが面白かった。長い長い沈黙の後、俺がしたように「プツン」とハサミで小指の横を切る真似をした仁王に俺は満面の笑みを向けてやった。


「大丈夫。俺神の子だから、すぐ結び直せるよ」


さっきと同じ言葉を繰り返すとようやく全てを理解したようで仁王の顔から余裕めいた表情が消えた。その絶望した顔さえも愛しいと思ったこの感情は多分、恋だと俺は瞬間的に確信した。例え違ったとしても俺がお前の指に運命の糸を結んであげるよ。大丈夫、神の子に不可能はないんだから。
ポカンとした仁王の顔に手を添えて優しいキスを落とすと訳もなく胸が高鳴った。あぁ楽しい、きっとこれが恋と呼ばれるものなんだろう。これからが楽しみで仕方ないなぁ、と浮かれたまま仁王の首に腕を回して唇を食んだ。イチゴやらレモンやら都市伝説のような味のしない生身のキスだった。


多分お前のことを俺が世界で1番愛してるから、俺と素敵な恋をしようよ。




誰よりも愛を込めてキス


witten by,れれ(アンコール)
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