11

目が覚めて外に出るとテントの前にキャンプの子供達と
その母親達が立っていて何事かと驚いた。


「おはよう、エリー。良く眠れた?」
『おはよう、ローリ…皆も…どうしたの?』
「エリーにお願いがあるの」
『お願い?』
「埋葬をしている間、ミランダと一緒に
 川に行って子供達を見ていてくれないかしら…?」
『いいけど…どうして私なの?』
「何かあった時に私は戦えないから…
 子供達のためにエリーに一緒にいて欲しいの。」
「男手は必要でしょ?それにエリーはほら、小柄だから…」


ローリが言いにくそうにしているけど、言いたいことは分かった。
キャロルは夫の埋葬をしたいだろうし、背が低くて死体を運んだり
穴を掘る体力の少ない私にはここに残って作業してもらうよりも
子供達と洗濯をしながらボディーガートしていた方が良いってこと。


『分かったわ。子供達のことは私達に任せて』
「悪いわね。何かあったら全力で叫んでちょうだい」
『えぇ。じゃあ私は先に川に行って安全を確かめて来るわ』
「洗濯物は私が今から集めて来るからミランダは子供達を」
「えぇ。ありがとう、エリー」
『いいのよ』


装備を確認してから川に向かう。
ウォーカーは昨日始末したから心配はないと思うけど
万が一のこともあるから念のため確認することにした。
エイミーと魚釣りをした川はあの時と同じ様に
ゆらゆらと水面を揺らしているだけだった。


「エリー!!」
『カール、おはよう』


後ろからパタパタと走る足音が聞こえてきて
振り向くとカールが走ってきて私に飛びついた。


「今日は僕達が洗濯をするの?」
『そうよ。ママ達のお手伝いできる?』
「もちろんだよ!僕に任せてよ!」


えへんっと胸を張るカール。
ソフィアもイザベラと手を繋いでやってきて
「私達も手伝う〜」と笑顔だ。
後ろからはミランダとルイスが洗濯物を持って
ゆっくりと歩いてくるのが目に入る。


「さぁ、みんなの服を綺麗にするわよ!」
『「おー!!!」』


それから私達は泥や血で汚れた洋服を
丁寧に洗って、綺麗にしていった。


「あ〜、僕飽きちゃったよ。」


しばらくの間、順調に洗濯をしていた私達。
でもルイスがそう言って洗濯物から手を離すと
イザベラの服が浮かんで流れ始める。


「あぁ!!私の服!!」
「大丈夫!僕が取ってくるよ!」
『カール!危ないからだめ!!』


私の声を聞かずにカールは川に入り、服を掴んだ。
足が届く所までしか流されていなかったことに
ホッと息を吐いて、カールが戻るのを見つめた。


「はい、イザベラ」
「ありがとう!カール!」
「ルイス、ごめんなさいは?」
「ご、ごめんなさい…」
『カール。ちょっと来なさい。』


カールは頭を傾けながら私の前に来たので
しゃがみ、目線を合わせてカールの手を握った。


『カール。さっきは足が届いたからいいけど、
 もし足が届かなかったらどうするの?危ないわ』
「それは…」
『こけて溺れるかもしれないし、ウォーカーがいるかも』
「うん……」
『これからは勝手に行かないって約束してくれる?』
「分かった。ごめんなさい…」
『いいのよ…カールは優しい子ね。ありがとう』


落ち込んでしまったカールを優しく抱きしめると
カールもぎゅっと抱きしめ返してくれた。
そして笑顔を見せると、カールも笑った。


『服濡れちゃったわね。着替えを取ってくるわ』
「さぁ、子供達。エリーが戻るまで水際から離れて」


ミランダに上の様子も見てくるわね。と伝えると
仲間の埋葬をしているはずのみんなの元へ向かった。


キャンプに戻るとジムがぽつんとみんなから離れて座り
みんなは何やら険しい顔で相談事をしているみたい…。
アンドレアとエイミーのことだろうか…?


『どうしてジムだけ離れて座ってるの?』
「あ、エリー…」
『みんなの話に入らないの?』


ジムの右隣に座って話しかけると動揺した様子を見せる。


『ジム…?凄い汗だよ…?』


そう言ってジムの頭に手を伸ばしかけたその時。
ダリルの怒号が響き渡った。


「おい!!」
「エリー!?いつからそこに!?」
『いつからって…さっきからだけど…?』
「こっちに来て、早く早く!」


焦ったグレンに手招きをされて首を傾げながら
ジムの元を離れてみんなのところへ行く。


『なに?一体どうしちゃったの?』
「ジムは噛まれたんだ。危険なんだよ」
『えっ…もしかして昨日の騒動で…?』
「あぁ…ジムは途中少し離れた所にいた」
「姿が見えなかったからその時に多分…」
「もう熱も出ている様だし、危険だわ。」


それでこの話し合いか。
ジムは今は手を握って俯いてしまっている。


『ジムは…このまま死ぬの…?』
「CDCが特効薬を開発していると聞いた」
「それの話なら俺も聞いた」
「じゃあCDCへ行こう。」
「短絡的だな?」
『でもジムが助かるにはそれしかないんでしょ?』
「そうだ。それに政府が機能してるならCDCを守る」
「反対しているわけじゃないんだ?いいか?
 助かりたいならフォートベニング基地へ行くべきだ」
「……市内を抜けて?」
「危険地帯から遠く、武装も万全なはずだ。安全だ」
「軍隊は最前線にいた。それでこの有様だ。」


リックとシェーンの意見、どちらとも理解出来る。
みんなを救うにはフォートベニング基地へ行く方が
はるかに安全だとは思うけど、ジムを救うためには
CDCで特効薬が作られているのを期待するしか…

そう考えている内にダリルの興奮した声が聞こえ
ジムの方に走り出したのが目に入った。


「俺が片を付けて…!」
「生者は殺さない」
「なら、なぜ俺に銃を向けるんだ?」
「今回ばかりはリックに賛成だ。つるはしを置け」
「……ちっ」
「ジム、来い」
「ど、どこに?」
「安全な所だ」


リックはジムをキャンピングカーの中に入れた。
私は隣に立っていたグレンに話しかけた。


『ねぇ、ジムはどうなっちゃうの…?』
「このまま何もしなければ熱が出て、死ぬ…」
『……CDCへ行くしか助かる方法はないよね…?』
「CDCでも特効薬が作られてるか分からないさ…」
『そうだね…CDCの事も基地の事も情報がなさすぎる』
「……あぁ、そうだ。子供達はいいの?」
『そうだった。川に戻るわ。ローリ!!』


私はローリに事情を説明して、カールの服を受け取った。


「子供達はどう?問題はない?」
『平気よ。気も紛れて良いみたい』
「そう…ありがとう。もう少し相手していてくれる?」
『うん、いいよ。お昼には一回戻ってくればいい?』
「えぇ。そうして。いつになるか分からないから…」


そう言うとローリはアンドレアの方を見た。
私は少しでも2人でいさせてあげたいと思った。
でもそんな時間は長く続かなかった…
エイミーが転化した。


「誕生日に、側にいられなかった…
 こんな日が来るとは思わなくて…」


全員がアンドレアに注目している。
ローリは私の方を向いて「子供達をお願い」と言った。
私は頷いてからそっとみんなから離れて川へ戻った。


すぐに銃声がひとつ…
きっとアンドレアがエイミーの頭を撃ったんだろう…
こんなに、辛い選択があるだろうか…
グレンがもしあぁなったら…私に撃てるだろうか…?
きっと撃てない…


「エリー?」
『お待たせ、カール。さっ、着替えて』
「ありがとう!エリー」


カールと少し離れた場所に行き、
着替えを済ませてから濡れた服も洗った。


「みんな、そろそろ戻ってきて。大切な話があるの」


ローリの言葉に私達はみんなのもとに戻った。
そして全員で今後の進路について話し合いを始めた。


「みんな聞いてくれ。
 リックの計画だが、助かるという保証はない。
 だが、助かるかもしれない。
 彼とは長い付き合いだ。俺は信じる。
 大事なのは共に行動すること…
 賛同する者は明日の朝、出発だ。いいな?」


リックの提案する場所へ向かう…
グレンの方へ向くと小さく頷いたように見えた。
私はみんなに、グレンに付いていく。
初めからそう決めていたんだから…。


「じゃあみんな……しっかり寝て明日に備えてくれ」


シェーンの言葉を最後に解散となる。


『グレン。』
「エリー、ちょっといい?」
『うん、いいわよ』
「エリーはどう思う?
 俺は…リックに付いていこうと思う」
『うん、私もその方がいいと思う。皆も同じだと思うし…』
「そうだよな…一応、Tドッグにも声かけてみるよ」
『うん、よろしくね』


グレンが笑顔で走り去るのを見送ってから私はテントに入った。





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