追いかけて来る。
どこまでも、口笛が、男達が追いかけて来る。
先頭にはバッドを持った背の高い男が笑っている。
私は走って走って走って……
『お兄ちゃん!!』
飛びついた先のお兄ちゃんは……
頭がなかった。



『…っ!はぁっ!はぁ…』
「エリー!平気か…?」
『グレン…。えぇ、えぇ、平気よ。平気…』
「かなりうなされてたわ。これ、飲んで。」
『ありがとう、サシャ…』


サシャから水を受け取り飲み干した。
あれは…あの口笛、男の顔に見覚えがある。
そしてお兄ちゃん…


『ごめん…!』


私は急に吐き気を催し、外に出た。
裏に回ってそこにある物に気がついた。
お墓が2つに供えられたお花。
そして…兄が愛用していたライフル銃。


『どうしてこれがここに…?』


兄のライフル銃を手に取った瞬間、
忘れていた記憶が一気に蘇る……


『あ……あぁ…ああああ!!』
「エリー!!」


グレンが私の身体を抱きしめる。
私はこの悲しみを抱えきれなくて、ひたすら泣いた。



『お兄ちゃんは…本当にいないんだね…』
「あぁ…ここで眠っている…」
『運んで来てくれてありがとう』
「(頷く)家族だろ?」


グレンが私の肩を抱き、彼にもたれてまた泣いた。
優しくて大好きなお兄ちゃん。
いつも私を心配して守ってくれたお兄ちゃん。
涙は当分枯れそうにはなかった。


『これ、もらっていい?』
「もちろん。エリーの好きにして」


兄の愛用していたライフル銃。
この世界をこれから生き抜くために使おう。
何があってもこれだけはニーガンにも渡さない。
兄の形見。これを持って強く生きよう。
ダリルを取り返さなきゃ……


『グレン、朝ご飯食べられなかったよね?ごめん』
「いいって。気にするなよ、俺達の仲だろ?」
『ありがとう。お昼は私の分も食べて?』
「エリーも食べなきゃ」
『今はいい。食欲湧かないの』
「…(頷く)分かった。晩ご飯は食べろよ」
『うん。中に戻って』


何時間もグレンの肩を借りてしまった。
それなのに気を抜くとまた2人のことを思い出して
すぐに泣きそうになってしまう……
後で兄の持っていたリュックの中身も見なきゃ。
リックが車から降ろしてくれてたみたいだから…


「エリー…」
『ジーザス……ここに兄を眠らせてくれてありがとう』
「お悔やみを…本当に残念だよ。彼は良い人だった」
『えぇ…ありがとう。うるさくしてごめんね』
「平気さ。壁があるからウォーカーも中には入ってこれない」
『ねぇ、ここに弓かボーガンはある?』
「あぁ。木で作った弓ならある」
『1つもらえる?矢も少し……』
「好きなだけ持って行くといい」
『少しでいいわ。見本があれば作れるもの』
「矢を作る木もたくさんあるから使ってくれ」
『ありがとう』
「こっちだ」


ジーザスに案内してもらい、弓と矢を少しもらった。
矢を作るための木の束をトレーラーのそばに置き
私は考える余裕が出来なくなる程の大量の矢を作った。
ヒルトップは銃がない分、槍や矢の効率的な作り方を
模索してあったので、大量生産を可能にするには
作り方を少しアレンジするだけで良かった。


「エリー、眠った方が良いよ」
『眠くなったら眠るから平気よ。グレンは寝て』
「…そんなにたくさん矢を作ってどうするんだ」
『作業してたら考えずに済むもの』
「でも休まなきゃ。何かあった時に動けないと意味ないだろ?」
『でも街に戻るには大量に矢があった方がいいでしょ?』
「アレクサンドリアに戻るのか?」
『そうよ。ニーガンが来る時はアレクサンドリアにいたいの』
「だめだよ、エリー。1人じゃ危険だ」
『平気よ。歩いて戻れば2日はかかるから明後日出るわ』
「俺も一緒に」
『グレンはだめ。マギーの側にいて』
「エリー」
『私なら平気。サシャの助けもいらない。平気だから』
「せめてジーザスに車を借りてー」
『ヒルトップの数少ない車をもらえないわ』
「エリー。エリーに何かあったらハリーに顔向け出来ない」
『何も起こらないわ。無事に戻ってみせる』
「エリー……」
『ほら、もう戻って。マギーが心配するわ』
「明日もう一度話そう。マギー達にも明日話す」
『えぇ、分かったわ。おやすみ、グレン』
「おやすみ、エリー」


グレンは納得のいっていない顔つきで中に入った。
私は焚き火の前で作りかけの矢を見つめた。

そうだ。お兄ちゃんのリュックの中を見てなかった。
集中力も途切れたし、周りに誰もいない内に見ておこう。


リュックを開けると、水と食料、弾に双眼鏡。
そして私への手紙が出てきた。
いつ書かれた物なのか…
少し古そうなその手紙を見つめた。

しばらくその手紙を見つめて動けなかった。
それを見る勇気が出なくて……
気が付けば見張りのメンバーが交代しに来ていた。


「まだ起きてるのかい?」
『えぇ…少し眠れなくて』
「ホットミルクなら飲めるぜ」
「そりゃいい。あそこにミルクがある」
「ホットミルク飲んでぐっすり眠りな」
『ありがとう、そうさせてもらうわね』


交代のメンバーと軽く会話を交わすと
私は意を決して手紙を開いた。
何度も見た兄の字だ…
それだけで目の前がにじむ…



エリーへ。
この手紙を読んでいるということは俺は生きていないのかもな。
エリーを最後まで守ることが出来なくてごめん。
今頃はきっと天国からお前のことを見守っているだろう。

こうやって手紙を残そうと決めたのは伝えたいことがあるからだ。
実は俺の妻・レミーはまだ生きている。
いや、生きていると信じていると言った方が正しい。
レミーの死体をまだ俺は見つけていない。

レミーとはこちらに来てすぐに逸れた。
突然の事でアトランタはパニック状態だったんだ。
ずっとレミーを探していたが、見つからずエリーに出会った。
あれだけアトランタ中を探しても見つからなかったんだ。
きっともうアトランタにはいないんだろう。
だから俺もアトランタを離れてレミーを探していた。

レミーが生きているのか死んでいるのか…
はっきりと分からなくてエリーにも言えなかった。
俺が積極的に見張りに立ったり、物資調達に参加してたのは
もちろんエリーのこともあったが、
レミーと出会えるかもって期待もあったんだ。
だが、それも叶わなかった。

エリー。
お前に頼むべきことじゃないと分かっている。
不確かなことでエリーに重荷を課すべきじゃないよな…
でもレミーがもし生きていて、助けを求めていたなら
レミーを助けてアレクサンドリアに入れてやってくれ。

兄の最後の願いだ。
エリー、頼んだぞ。
エリーとレミーを心から愛している。

愛を込めて。ハリー。





そんな、まさか…
レミー姉さんが生きているかもしれない。
もっと早く教えてくれていたら…
兄さんと2人で探しに行けたかもしれない。
ダリルやアーロンに捜索を頼めたかもしれないのに…
きっと私のためだよね。
お兄ちゃん。レミー姉さんのことは私に任せて。
きっと見つけてみせるからね…

私はそっと空を見上げ、兄に誓った。





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