「俺の銃をバッグにしまえ」
「あんたのじゃないと言ったはずだ」
「さっさと始末しよう」
「そんなやつらやっちまえ!」
「状況を理解できていないな?」
「よ〜く理解してるさ。」


そういうとリックは少年の手のテープを切り
ギレルモの方へと押し返した。


「こいつと引き換えに仲間を返せ」
「奴を切り刻んで犬の餌にする。人間の肉が好物でね…
 悪魔みたいに狂暴だ。そこの女は一生俺達のペットだ。
 ちゃんと聞いてるのか!?これで状況が理解できたか?」
「銃撃戦を選んだまでさ」


リックの合図をはじめにその場にいた全員が銃を構えた。


「始めるとしよう」


リックはギレルモの頭にショットガンを向けるが
ギレルモは一切ひるんだ様子を見せない。
お願いだから、観念してグレンを返して…!

そう祈ったその時、おばあさんの声が聞こえた気がした。
気のせいだとそう思ったけど、声はだんだん近づいてくる。


「フェリペ。フェリペはいるかい?」
「ばあさんは下がっててくれ!早く!」
「ばあさんを外せ!」
「頼むから外してくれ」
「ジルベルトが苦しんでる。
 ぜんそくの薬が見つからないんだよ。薬をあげなきゃ」


その言葉を聞くとリックは静かに銃を下した。
ダリルもなぜこんな所におばあさんがいるのか分からず
戸惑っているのが分かる。Tドッグも私も銃を下げた。


「フェリペ、連れていけ」
「この人たちは?」


保安官のリックを見つけた途端、
おばあさんは銃を持つ私達に近付いて来た。


「やめとくれ。孫はいい子だよ。
 まともになったんだから逮捕しないでおくれ」
「おばあさん、逮捕はしません。」


状況に困惑しながらもリックは答える。
視線を感じて横を向くとTドッグが複雑そうな顔をしていた。
おばあちゃん子のTドッグのことだから、色んな想いがあるのかな…


「じゃあ一体、孫になんの用なの?」
「お孫さんは仲間探しを手伝ってくれたんです。」
「アジア人だね?」
『グレンを知っているんですか!?』
「あぁ、ジルベルトと一緒にいるよ。
 おいで、仲間に合わせてあげるから」


そういうとおばあさんは私の手を引いた。
後ろからリック、ダリルやTドッグも付いてくる。

中庭の様な場所を通り、建物に入るとそこは清潔な場所だった。
お年寄りや体の不自由そうな人が何人もいる。


「ばあさん、案内してくれ」


フェリペ…だろうか?
彼が駆け寄った黒人男性の側にグレンが立っている。

良かった…。彼は無事だ…!
すぐに駆け寄りたいのを必死に我慢する。
だめだ、なんだか目元がかすんできた。


「一体何が?」
「ぜんそぐ呼吸困難になってる」
「犬にに食われたかと…!」


少し興奮気味のTドッグの言葉に振り向いたグレンの目線の先には
小さなかわいらしいチワワが3匹。仲良く座っていた。
1匹はこちらの視線に気が付いて勇敢にも立ち上がり吠えている。
……犬に食わせてやるなんて、ただの脅しだったんだ。


「ちょっと話をしよう」


リックはそういうとギレルモを連れ出した。
私はそっとグレンに近付いて隣に立った。


『平気なの…?』
「もちろん。心配かけてごめん」
『ううん…あなたが無事で良かった…』
「泣くなよ…エリーを置いて死なないさ」
『うん……』


そういうとグレンは私の手を握ってくれた。
私は空いた片方の手で涙をぬぐった。


「行こう」


グレンと一緒にリックとギレルモが話している所に行った。
ダリルが私を見て鼻で笑った(気がした。)



ギレルモはただのとてもいいやつだった。
本当に彼らを撃つことにならなくて良かったと思う。
話を全て聞き終わるとリックはかばんから
銃と弾を出してギレルモに渡した。

彼らにはお年寄りを守るために武器が必要。
私もバックパックからシリアルバーを手渡した。


『私はこれくらいしかあげられないけど…』
「いや、助かるよ。……彼のことは悪かった」
『いいの。お互い様よ。どこかで会った時は助けてね』
「あぁ。約束しよう」


そして私達は全員無事にギレルモの場所から出たのだった。


「さては帽子を拾いに来たな?」
「黙っとけよ」
「銃と弾を半分やるとわな」
「半分以上さ」
「それにシリアルバーも」
「老いぼれを助けるなんて。どれくらい持つと?」
「困ったときはお互い様だ」
『あれ……車はどこ行ったの?』
「なんてこった……」
「車が盗まれた…!」
「メルルだ」
「キャンプに向かってるはず…」


ダレルのその言葉に最悪のシナリオが頭を駆け巡る。


「急いでみんなの元に戻らなければ…」
『車を探す!?』
「いや、そんな時間はない」
「早くしないとキャンプに着くぞ!」
「少し遠いが走ろう!」


リックを先頭に走り出した。その後にダリル、グレンと続き
Tドッグと私も後ろに続いて走り出した。
ウォーカーが現れるとリックやダリルが始末してくれるが、
ただでさえ、私とみんなは足のリーチで差があるのに
男の人に全速ダッシュをされ追いつくことが出来ない。
体力だってもたない。もちろん必死に走ってはいるけど
少しずつ、私とみんなに差が出てきた。


「なにしてる!早く走れ!」
『これ以上は…無理っ…先に行って…!』
「チッ…そんな大荷物持ってっからだ!」


始末したウォーカーの頭から矢を抜いている最中に
遅れている私に気付いたダリルが声をかけてくれるが
今は走る事に必死で長文の返事も出来ない。
ダリルは私からリュックを奪うと自分の肩にかけた


『ごめんなさい…』
「いいから黙って走れ。
 足手まといにならないと言ったのはお前だろうが」


ダリルの言葉に頷くと私は彼らの背中を必死に追った。
グレンが心配そうにこちらを見ているのは分かったけど
今は笑いかける余裕もないので、無視してしまった。


「止まれ」


ふいにリックが建物に身をひそめた。
向こう側を何か警戒して覗いているらしい。
私は今の内に息を整え、水分補給をした。


「人か?」
「あぁ、武装した男達だ」
「突破するか?」
「いや…立ち去りそうだ。少し待とう」


リックの言う方へ耳を傾けて見ると
男達が鼻歌を歌っている音が聞こえてくる。
なぜだろう…どこか懐かしい気がするのは…


「あいつ音痴だな」
「言うな、グレン」


軽口を叩くグレンにTドッグが笑顔を見せる。


「まずいな。他にも武装している人間がいるかもしれない」
「ギレルモが言っていた"奪ってくる連中"か?」
「分からないが、用心した方がいいだろう。」
「…行くみたいだぜ。隠れろ!」


ダリルの言葉に私達は全員、草陰にしゃがみ身を隠す。
男達は車に乗り込むと、私達の目の前を通り過ぎて行った。
黒の車には黄色のスプレーで落書きがしてある。
そして後ろにはウォーカーをくくりつけて走らせていた。
唸り声をあげるウォーカーの身がボロボロと落ちていく。
思わず声をあげそうになった私の口をダリルの手が塞いだ。


『……なんて悪趣味なの…』
「見つからなくて良かった」
「あぁいう人間にも注意していこう」


それからはリックはより慎重に足を進めて行った。

市内を出てからどれくらい時間がたっただろう…
もう日も暮れはじめてしまった。
キャンプまであと少し。
私達はひたすらキャンプを目指して進んだ。






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