「戻って来い!クソ野郎ども!!」
『グレン!!!グレ〜ン!!!!』
「こいつ…!ふざけんなよ!!!」


ダリルはさっきまで騒いでいた少年に掴みかかった。
後ろからリックとTドッグが走ってくるのが見えたけど
私はグレンのことが気がかりで仕方がない…


「玉を蹴りあげるぞ!?」
「落ち着け!ダリル!!」
「そいつの仲間にグレンが拐われた!殴ってやる!」
「おい!奴らが来るぞ!」
「集合場所に行け!エリーもだ!」
「エリー!早く来い!」


Tドッグの声で我に返って走り出した。
目の前で行われていた会話よりも
何よりグレンの事で頭がいっぱいだった。
奴らに酷いことされたりしないだろうか…
早くグレンを助けに行かなきゃ。


Tドッグ、少年と中に入ると私は窓際に寄った。
もうグレンを乗せた車は見えないし、人もいない…


「全員無事か?」
「あぁ、大丈夫だ」
「じゃあ…はじめよう」


リックは少年を椅子に座らせると側に立った。


「君の仲間はどこだ?」
「……教えない。」
「一体、何があった?」
「こいつが仲間たちと突然襲ってきた!」
「兄貴を探しているとかで襲って来たのはそっちだろ?」
「グレンに加えてメルルも攫ったろ?」
「メルル?犬にも付けたくない名前だ」


少年の挑発的な言葉に興奮しているダリルが襲いかかる。
もちろんリックが未然にダリルを止めたおかげで少年は無事だ。
グレンを取り戻す前にこの少年に気絶してしまっては困る。


「ダリル、落ち着け!」
「俺を怒らせるとこうなる」


ダリルはグレンのリュックからメルルの手を取り出した。
少年は渡されたそれを不思議そうに見つめた後、
それが手だと分かると悲鳴をあげて後退りした。


「今度は足を切ってやる!」


興奮して詰め寄るダリルをリックが離す。
そしてゆっくり近寄ると少年に話しかけた。
リックとダリルは良い飴と鞭だ。
私はそっとメルルの手をバンダナに包んでバッグに戻した。
必要かは分からないけど…一応、ね。


「仲間を取り戻す交渉がしたい」


リックは音ついてゆっくり少年に声をかける。
少年は少し目を泳がせると、ゆっくりと頷いた。


「よし。じゃあ場所から教えてくれ」


リックがそう言った瞬間、
どこかからウォーカーの呻き声が聞こえた。
このフロアにいるらしい。
あれだけ音を立てたから寄ってきたのだろう。


『行ってくる』
「お前が?」
「1人で平気か?」
『平気。作戦立てといて』


部屋を出て声の方に進むと、ウォーカーを見つけた。
が、そのウォーカーは下半身がなく、上半身のみだった。
私に向かって腕を伸ばし、這って来る姿を見て
とても切ない気持ちになった。
グレンが拐われたことで感傷的になってしまっているみたいだ。


『ごめんなさい…安らかに眠ってね…』


私はウォーカーにナイフを突き刺した。
この人も生きてる時はこんなことになるなんて
思いもしなかっただろうな…
私はウォーカーに手を合わせてから部屋に戻った。


「問題ないか?」
『ないよ』
「やけに遅かったな」


ダリルの言葉に肩をすくめてTドッグの横に立つ。


「平気か?」
『えぇ。早くグレンを助けに行きましょう』
「その事だが、エリーは待っていてくれないか?」
『どうして?リック。私もグレンを助けに行くわ』
「君には危険だ。俺達も君を守りきる自信はない」
『それは百も承知よ。私を守って貰わなくていい』
「そういう訳には…」
「お前とグレン、どちらかしか助けられない時が来たらどうする」
『グレンを助けてくれたらいい。私のことは見捨ててくれていい』


ダリルの言葉に私は即答した。
なにかを見定める様に見つめてくるダリル。
私も負けるものかと睨むように見つめ返す。


「連れて行った方がいい。戦力にはなる」
「…はぁ…わかった。エリーも行こう」
『ありがとう…!』


意外だった。
ダリルが味方してくれるとは…
足手まといだとか言われるかと思ったのに。


「行くぞ。」


リックが銃の入った袋を持ち、
ダリル、少年、Tドッグとグレンの救出に向かった。


「覚悟はいいか?」
「あぁ…」
『いつでもいいわ』
「よし」


リックの合図を受けてTドッグがバッグを持って離れる。
屋上からスナイパーとして相手を威嚇するためだ。
この役を私に、という案も出たが、1人でいる所を
後ろから襲われたら人質が増えるだけだと言われた。
それに私の射撃じゃスナイパー向けとは言えないしね。


「おい、妙なことしたらケツに矢を刺すぞ」
「Gが抜き取ってやり返す。覚えとけ」
「"G"って?」
「ギレルモ、仲間だ」
『ギレルモがボスなの?』
「そうだ。Gは腕も立つ」
「では…彼と対面しよう」


リックはショットガンに弾を補充すると
少年を先頭に扉まで歩いて行った。
扉まで来ると音を立てて扉が開き、中から男の人が出てきた。
彼がギレルモだろうか…?


「無事か?」
「足を切られそうになった」
「保安官が?」
「違う。その男が切れた手を見せてきたんだ」
「おい!そいつが俺のケツに矢をぶっ刺した」
「隣にいる女が俺達に銃を向けて脅したんだ」
「分かったから落ち着け。本当に切ろうと?」
「冷静に話し合いたい。」
「ミゲルを脅し、矢を刺して話し合いたい?」
「冷静に話し合わないとお互いにとって損だ」
「その男とお前の関係は?」
「仲間ではあるが、お前と同類の男だ」
「隣の女は?見たところか弱そうな女だ」
「彼女も仲間だ。ただのピザ屋の店員さ」
「おい。俺の兄貴は?」
「悪いが白人はいない。アジア人ならいるぜ」
『グレンは無事なんでしょうね?』
「あぁ、ピンピンしてる。傷1つ付けてないぜ」
「お互い人質を取っている。交換しよう」
「お断りだ」
「G…頼むよ、助けてくれ…」
「仲間を傷付けた償いをしろ。それより銃のバッグは?」
「…銃のバッグだと?」
「通りにあるのを見かけた。取りに行かせたんだ」
「誤解だ」
「なに?」
「あの銃は…俺のバッグだ」
「そんな嘘を騙されるとでも思ったか?
 大間違いだ。よこさないと酷い目にあうぞ。」
「やれるものなら……やってみろ」


リックは上を見上げTドッグをギレルモに見つけさせた。
ギレルモは不敵に笑うと仲間に指示を出した。
上を見上げるとそこにはガムテープで口を塞がれたグレンが…


『グレン…!!』
「選択肢は2つだ。ミゲルと銃を渡すか、銃撃戦をするかだ」


ギレルモはそう言うとTドッグを見てニヤリと笑った。
私達に考える時間を与えると言わんばかりに中に入る。
グレンも男達に引っ張られて消えてしまった。
私達は一旦、退却しざるおえなかった。




先程の集合場所まで着くとリックは何やらかばんの整理をしている。
ダリルはウロウロと歩き、Tドッグは黙って少年の見張りをしている。


「銃が必要だ。金じゃ家族を守れない。」
『でも今、銃を渡さなきゃグレンを取り返せないわ』
「銃を渡す気か?」
「あいつらが本当にグレンを返すと思うか?」
「ウソだと?」
「お前は敵だ!黙ってろ!」


ダリルに叩かれる少年…少し気の毒だ…


「奴を信用できるか?」
「取引に応じるかどうかだ。
 銃や自分以上の価値が…グレンにあるか?」
『あるに決まってるでしょ!!』
「お前は黙ってろ、リトルガール!」
『はぁ!?』
「2人ともやめろ」
「彼は命の恩人だ。赤の他人の俺を、見捨てずに助け出してくれた。
 それはエリーもだ。だから、次は俺が。彼を助けなければ…」
「銃を手放すのか?」
「その気はない。君達3人はキャンプに戻れ」
「そうはいかない」
『絶対に嫌。』


頭を撫でるTドッグ、ダリル、そして私を見つめるリック。
やがてダリルはリックにひとつの頷きを返すと銃を選んだ。
そして私にも扱いやすい銃を選んで、渡してくれた。


「これなら小さいお前でも扱いやすい。しっかり狙え」
『ありがとう……』
「気は確かか…?」


少年は頭を抱えて"Gに逆らうな…"とだけ言うとうつむいてしまった。


そして私達はリックから作戦を聞くと、ギレルモの所へと向かったのだ。




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