目が覚めると知らない天井……
ここはどこだろう…?
確か昨日は…マギーとグレン銃を隠してそれから…


「エリー!目が覚めたのね!?」
『サシャ…?』
「気分はどう?」
『なんだか頭がハッキリとしない…
 サシャ。ここはどこ?私達昨日…』
「ヒルトップよ」
『……そうだ、マギーは!?…っ』
「いきなり起き上がってはダメよ。
 マギーは今、ドクターの診察中よ」


急に起き上がったから頭に鋭い痛みが走る。
サシャに支えられてベッドの上に起き上がった。


「診察を終えたらマギーもこの部屋に戻るわ。
 今はもう体調も落ち着いてるし、グレンがついてる」
『良かった……マギーと赤ちゃんは私達の希望だもの』
「………エリーは大丈夫なの?」
『何が?』
「……なんでもないわ」
「エリー!!」
『マギー!』


噂をすればなんとやら。
マギーが私を思いっきり抱きしめた。


「エリー、気分はどう?」
『平気よグレン。マギーは元気そうね』
「えぇ。心配かけてごめんなさい。
 診察もしてもらってもうずいぶん良くなったわ」
「マギーもお腹の子も大丈夫だ。
 ただ当分、無理は禁物だけどな」
『良かった。他のみんなはどうしたの?』
「アレクサンドリアに戻った。
 ここに残ったのは俺達4人だけだ」
「いつまでも向こうを留守にはしていられないもの」
『それもそうね。でもお兄ちゃんもダリルも
 私を置いて戻っちゃうなんて薄情だと思わない?
 どちらか1人だけでも残っていてくれればいいのに』
「あー……」


冗談のつもりで言ったのに、3人は顔を見合わせた。
グレンも声だけ発して続きの言葉は紡いでくれない。
何か言わなきゃ……
そう思った瞬間、私のお腹がぐぅと音を立てた。


『あ、あー…お腹空いちゃった!』
「お腹が空くのは元気な証拠だよ」


笑い声と共にドクターとジーザスが入ってきた。
ジーザスの手には朝食の入ったバスケット。


「朝食を持ってきて良かった」
「何から何まで…ありがとう」
「いいんだ。仲間を助けてもらった恩がある」
「もう十分に返してもらったわ」
「助け合いの精神だよ。
 エリー、朝食を食べたら僕の診察室に来て」
『えぇ。分かったわ。ハーラン』
「じゃあまた後で」


ジーザスとドクターが出ていき、私達は朝食を頂いた。


『じゃあドクターの所に行ってくるわね』
「あぁ。俺達はここにいるよ」


なんだかきごちない笑顔で見送られた。
うーん…そんなに良くないジョークだったかな…?


コンコンコン
「どうぞ」
『失礼します』
「やぁ、そこにかけて」


小さな背もたれのない椅子にこしかける。
クルクルと回るこの椅子で遊ぶのが好きだったなー。


「じゃあ簡単な触診から始めよう」
『お願いします』


さすがお医者様って感じ。
手際よく診察をしてもらった所、体に異常は見られなかった。


「うん、体に異常は見られない。
 昨日のことは覚えているかい?」
『それが起きてからずっとハッキリしなくて…
 頭もズキズキするし…でも頭を打った記憶も無くて』
「頭を見せて…あぁ、小さいけどコブが出来てるね。
 場所から考えるに倒れた時に出来たコブかな?
 昨日、君は意識を失って倒れたと聞いているから
 その時に頭を打ったんだろうね。コブはすぐ治るよ」
『意識を失って倒れた……』


どうして私は意識を失ったんだろう?
マギーをヒルトップに連れて行くために町を出て、
何度もニーガンの手下達に邪魔されて、それで……

その先を思い出そうとすると頭痛が酷くなってきた。


『…っ』
「無理して思い出さない方がいい」
『ハーランは何か知ってるの…?』
「…昨日、グレン達から聞いたよ」
『さっきみんなの様子がおかしかったのも
 私が失くしているこの"記憶"のせい…?』
「無理に思い出すと心が壊れてしまうよ。」
『いつになったら私は全て思い出すの!?』
「それは分からない。自然に任せた方が…」
『でもそんな時間も余裕も今の私達には…』
「ここに奴らもしばらくは来ないだろうし、
 仲間とゆっくり話してみると良い。無理は禁物だよ」
『ありがとうございます。ドクター。
 マギーと赤ちゃんのことも…感謝します。』
「あぁ。また何かあったらおいで」


診察室から出て、グレン達の元を目指す。
私が忘れてしまっているのはなんだろう?
きっと脳が思い出すことを拒否してる。
それくらい衝撃的な"何か"が昨夜あったんだ…
思い出すのが怖いけど、思い出さないといけない気がする。
今まで見てきたドラマだってそうだったじゃない。
決まって忘れるのは覚えていなきゃいけないことだった。
だから失くした記憶は、辛くても持っていなきゃいけない物。


『ただいま』
「あぁ、おかえり。エリー」
「体は大丈夫だった?」
『うん。気を失って倒れた時に頭を打ってて
 小さなコブが出来てるくらいだったかな?
 それとね…昨日の記憶が途中からないの。
 ドクターは脳が拒否してるんだろうって…
 でも私、どうしても思い出したいの。
 ううん。思い出さなきゃいけないって思うの』


そういうとまた顔を見合わせる3人。
3人は誰もが暗い顔をしている。


「エリー。今日は目が覚めたばかりだし
 もう少しここでゆっくりしてからにしよう。」
「私達もまだ昨夜のことを受け止めきれてないの」
『分かった……』


2人の顔を見ればそう言うしかなかった。
サシャは窓から外を見ていて顔色は伺えない。
でもその姿がダリルの姿に重なって見えた…
デニースを助けることが出来なかったあの時のダリルに…
それに私のわがままで3人に、特にマギーと
お腹の中の赤ちゃんにストレスを与えすぎる訳にはいかない。

私は頷いて、外に出てくると言って、その場を離れた。


「お嬢ちゃん。体は大丈夫か?」
『えぇ。助けてくれてありがとう』
「いいや。俺は何もしてねぇよ。
 それに君達にしてもらったことの方が多い」
『……それ、何をしてるの?』
「あぁ。畑に肥料をやるんだ」
『手伝ってもいい?』
「あぁ。いいが…」
『無理はしない程度に』
「それならいいぞ」


肥料のやり方を教えてもらいながら畑の整備をした。
雑草を抜いたり、お水や適切な量の肥料をあげる。
アレクサンドリアのトマトにも活かせたらいいな…
町のトマトはまだ芽が出ていないのだろうか?
誰かちゃんとお水をやってくれているかな?


この日は1日中、彼に畑について教えてもらっていた。
夕食を食べたらクタクタになっていて
シャワーを浴びさせてもらった後はすぐに眠りについた。






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