20

『だりる…?』
「寝てろ。俺はちょっと出てくる」
『どこに行くの?私も一緒に……』
「来なくていい。良い子にしてろ」
『うん……』


目を開けると既に着替えているダリル。
そんな彼に声をかけるけれど、おでこにキスをされ
再び私は眠りに落ちてしまった。

そんな私がマギーに叩き起こされて朝食を食べたのが
つい30分前のこと。
今はマギーとグレン、3人で銃を隠す準備をしている。


そこに遠くからミショーンが近づいてくる。
目で"一体何をしているんだ?"と語っているのが分かる。
ふふ……ミショーンって意外と分かりやすいのよね。


「いくつか隠しておく」
『また誰かに侵入された時のため』
「俺とマギー。そしてエリーが2か所に分けて隠す。
 隠し場所はまた共有するけど、全員には知らせないでおこう」
『じゃあこれは私が隠す分ね。先に隠し場所に行くわ』
「またあとで」


ミショーン、マギー、グレンと別れて奥を目指す。
私は隠すならあそこだって決めている場所がある。


『ふぅ……1人でするには重労働ね』
「手伝おうか?」
『ゲイブリエル!あぁ…ごめんなさい。
 お墓をひっくり返しちゃって…でもどうしても―』
「いいんだ。その銃を隠すんだろう?手伝うよ」
『……ありがとう。助かるわ』


そうしてゲイブリエルと作業をしてマギー達を捜していたけど
一向にみんなが見つからない。ダリルもグレンもいない……
どこに隠れてるんだろう?


「あいつらも出て行った」
『あいつらって誰のこと?』
「エリーは街にいたのか」
「ダリルが救世主を捜しに」
『なんですって?ダリルが?』
「グレン、ミショーン、ロジータ、ハリーが止めに行った」
「車がない…昨日、増やした1台が家の間に合ったはずだ」
「上からは見づらい。特に夜中になるとな…」
「キャロルが置手紙を残して行った。
 ライトを見てないか?痕跡は消すはずだ」
「交代時を狙ったのよ」
『……昨日のキャロルは様子がおかしかったわ』
「エリー!!」
『イーニッド、どうしたの?そんなに慌てて』
「マギーが…!マギーがお腹が痛いって動かないの!」
『すぐ行くわ!』


血相を変えたイーニッドの話を聞き、リック達と共に
マギーの元に向かうとお腹を抱えて蹲っているマギーが…
リックがすぐにベッドに運び、様子を伺うも事態は一刻を争う。
出来る限りの手当をしてみるけどマギーの容体は良くならない。
むしろ悪くなっていく一方……
こんな時にグレンがいればマギーも心強いのに…


「容態は?」
『悪化してるわ。早くヒルトップで診てもらわないと…』
「あぁ、移送は懸命だ。治療を受けられる」
「俺も同行する」
「襲撃されるかもしれない」
「彼女も行く」
「2人セットよ」
「私もセットだ」
「その体で行くつもりか?」
「かすり傷だ。銃弾の製造についても話したい」
「その通り。俺も説得したがムダだ」
「無理な要求じゃないはずだ。少しは役に立つ。
 今こそ力になりたいんだ。必ず貢献するから…」
『リック、彼は本気よ』


次々とメンバーが乗り込み、ついにはアーロンまで。


「ここがバレてるからユージーンは捕らわれた」
「君は連れて行かない」
「……また顔を殴り、縛らない限り―僕は止められない」
「分かった……」
「マギーの様子はどう?」
『カール、お水を取ってくれる?』
「うん分かった」
「出発するぞ!」
『マギー。大丈夫だからね…みんながついてる…』


苦しむマギーを乗せた車はヒルトップに向けて走り出した。


走り出してしばらくするとリックがマギーの元に来たので
私はそっと横に避けて2人を見守る。


「もう少しだ。ヒルトップの医者が診てくれる」
「……本当に…?」
「大丈夫だ。今までも共に乗り越えた。
 今もこうして生きてる。みんな一緒だったから
 生き延びられたんだ。俺が保証する。
 みんな一緒なら― なんだって出来る……」
「……(頷く)」
「リック」
「エリー、マギーを頼む」
『えぇ、分かった』
「なんだ?」
「敵だ。戦うか?」
「いいや……エリーはここにいろ」
『カールも行くの?』
「僕だって戦えるからね」
『気を付けてね…』


リックは私とマギー以外を連れて外に出た。
RV車の扉が開いたままなので外からは相手の声が聞こえる。


「こいつの仲間は聞き分けがなかった」
「取引しよう。今すぐ、ここで」
「あぁ。そうだな…そうしよう。
 すべて差し出せ。まぁ…1人は殺すかもしれない。
 その後で取引しようじゃないか。俺達に従うんだ」


無茶苦茶な要求。
どうやらニーガンの一味らしい。


「その取引には応じない。
 そっちこそ全て差し出せ。そうすれば殺さない」


何か音が聞こえる。
誰も何も話さない時間が長く感じる。
お願いだから早くここから去って行って……
私達をこのままヒルトップに行かせて…


「エリー…外はどうなってるの…?」
『リックが交渉してるわ。大丈夫よマギー』
「そう……」
『少し眠って。汗も拭かないとね』
「ごめんね、エリー…」
『いいのよ。マギーは気にしないで』


マギーは力なく笑うと目を閉じた。
すぐに寝息が聞こえてくる。
少しでも体力を回復してもらわないとね。


「悪いな。取引方法は1つだ。交渉はしない」
「俺たちは引き返す」
「いいだろう。道はたくさんあるからな」
 ……人生最後の日にしたいか?」
「いいや。お前にとって最後の日かも」
「ふっ…愛する者の最後の日なら?
 いいか?車の中の人を大事にしろよ…
 死ぬのは一瞬だぜ。互いに優しくな。
 今日が……最後の日だと思って過ごせ。」
「そっちもな」


リックが乗り込んだのを合図にバッグをして次に進む道を捜す。
結局、男達はこちらに攻撃はしかけて来なかった。
これがやつらの罠だと気が付きもせずに……
私達はただひたすらヒルトップに向けて走り出した。



「なぜ街に残らなかったの?」
「彼女に借りが…君はなぜ?」
「みんなに借りがあるからさ」
『家族を助けるに借りも何もないわ』
「あぁ、エリーの言う通りだ」


カールやアーロンとそんな会話をしながらも
私達は未だにヒルトップにたどり着いていない。
先程からことごとく回り道をされ、道を塞がれている。
マギーの熱も上がって来ている。
いい加減私達のことを諦めてくれ…!!


「どうする?」
「彼女には医者が必要だ」
「行ける道はあと2つ」
「前も後ろも奴らが待ち受けている。
 彼らが待っているのはこのオンボロ車だ。
 中に誰が乗っているかは彼らには分からない
 それに……もうすぐ日も暮れる。暗くなる。」


ユージーンの神妙な面持ち、
そしてエイブラハム、リックの顔を見て私も悟った。
誰かがこのRV車に残り、囮役を引き受ける。
残りのメンバーはマギーを連れてヒルトップへ。
囮役は1人で十分だろう。
その囮役をユージーンが引き受ける気なんだ…


「ペダルを踏み続けろ。決して止まらな」
「…今まで私に運転させなかった」
「………出来ないかと…俺が間違ってた、
 生きる力がある。俺も、お前も。今まで知らなかった」


ユージーンとエイブラハムの男の友情。
世界がこうなってすぐに2人は共に歩き始めた。
道中、確かに色々あったけど、今はお互いを尊重してる。
そんな彼らに胸が熱くなる。


「ありがとう…」
「(頷く)」
『ユージーン!!』
「エリー…」


マギーを見送ったユージーンに抱きつく。
ユージーンもしっかりと抱きしめ返してくれた。


『絶対に、生きてまた会おう』
「もちろんだ。死ぬつもりはない」
『ありがとう…途中でダリルを見つけたら連れて帰っておいて』
「あぁ。任せてくれ。エリーが怒っていたと伝えよう」
「エリー、置いてかれるよ」
『うん。気を付けてね、ユージーン』
「あぁ。君達も」


ユージーンに見送られて私達は森を進んだ。
どこからウォーカーが、人間が現れるか分からない
緊張感を持ったまま歩き続けた。



カールが先頭を歩き、マギーを運ぶみんなが続く。
私は一番後ろでナイフを構えている。


「アーロン、お願い。歩かせて」
「いいんだ。もうすぐさ」


森の中には私達の足音とカールとリックの話し声。
リックがカールの名前を呼んだその時。

どこかから口笛が聞こえてきた。
辺りから聞こえてくる口笛はなんとも不気味で恐ろしい。


「走るぞ!」


リックの合図を皮切りに私達は走り出す。
森の中を必死に走って、走って。

ふいに明かりが付けられ、私達は多数の男達と口笛に囲まれていた。





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