19

『デニース……?』


全員、何が起きたのか瞬時に理解できず、
森からの音でダリルとロジータは銃を構えた。
私も一歩遅れてライフルを構える。


「武器を捨てろ」
『ユージーン…!』


男達に捕まえられたユージーン。
殴られたの…?顔に怪我も負っている。


「驚いた。何か言えよ。話し合うか?大口叩いてみろ」


男はダリルを知っているかのような口ぶりで、
ダリルもひちすら男を睨みつけている。
この世界になる前からの知り合いなのかな…?


「……いや、お前は無口だったな…
 コツがつかめない。まるでじゃじゃ馬だ」
「間違ってた」
「なんだ?聞こえなかった」
「殺すんだった」
「そうかもな。だが再会した。疑問だろうな。なぜこうなったか。
 信じるかどうかわからないが、彼女は狙ってなかった。」


男はペラペラと話を続け、ダリルは睨み続ける。
そうだ。コイツはダリルのボーガンを持ってる…
失くしたのは……あの誘導作戦の時…
ダリル、サシャとエイブラハム、私。
逸れたあの時に2人は出会ったのかな?


「穏便に進めたかったが、そうもいかない様だ」
「何が望み?」
「その前に名前は?俺はDだ。ドワイトでもいい。それで?」
「ロジータよ。何が望み?」
「ロジータか……望みではない。君達に命令だ。
 住みかに案内しろ。良い所なんだろ?欲しい物を頂く」
『そんなの許されるわけがないわ。物資は渡せない。』
「欲しい人間もだ。さもないとこいつの頭を撃つ。
 次にロジータ。そして君に……それから彼だ。
 そうならないことを願う。1人死ねば十分だ。
 誰にしようか?誰を殺せば― わかってくれる?」
「殺したいなら石油缶に隠れてるやつからに。
 私達4人より殺す価値がある。だから――」
「調べろ」


警戒しながら石油缶に近付く男達。
ユージーンがドワイトの急所に噛みついた。
その瞬間、どこからか銃声が響き渡り
やつらの仲間が倒れていく。
それを合図に私達もナイフや銃を手に取り戦いを始めた。
その音に引き寄せられるウォーカー。
ウォーカーと男達。敵が至る所にいる。


「退却だ!!」


ドワイトの声で逃げ出す男達。
ユージーンはドワイトに撃たれたのか苦しんでいる。
ダリルはウォーカーを相手にしながら追いかけようとする。


『行かないで!ユージーンが!』
「……撃たれたのか!?」
「大丈夫。弾は残ってないし、かすり傷よ。
 でも一刻も早くここからは離れた方がいい」
『デニースも連れて帰ってあげなきゃ……』


ダリルがデニースを、ユージーンをロジータが支え
私達は重い足取りでアレクサンドリアへと帰ってきた。
エイブラハムはそのままリックの元へ…
私達はユージーンを連れて医務室へとやってきた。


「私が手当てをするわ。エリーは水を。
 ダリルはユージーンをベッドに寝かせて頂戴」
『分かったわ』


ロジータの指示通りに容器に水を入れる。
服をめくると確かに弾は体の中には入っていない様だ。
この様子だと数日で元通りに戻ってくれるかも……


「リックが来る。容態はどうだ?」
「弾はかすっただけ。運が良かった。
 入手した抗生剤で感染症も防げるわ」
『デニースのおかげだね……』
「えぇ。そうね……起きた?」
「あぁ……」
「よかった」
「殺す気はなかった。時機を見てた」
「分かってる。お前は正しかった。」
「私の能力を疑ったことを謝罪するか?」
「能力を疑って悪かった。ナニに噛みつくとは…
 最大の敬意を払う。第2ステージへようこそ。」
「もうとっくに― 入っていた」


2人の会話を窓の外を見ながら聞いていたダリルは
黙って部屋の外へと向かった。


『ダリル……』
「デニースを埋めてくる」
『私も一緒に行くわ』
「ここを手伝ってやれ」
「私が一緒にやるわ」
『キャロル……えぇ、分かった』


ダリルもキャロルとなら落ち着くかもしれない。
ここは彼女に任せて、私は出来る限りのことをやろう…


「良かったの?2人で行かせて」
『2人には何か見えない絆があるの。
 ずっと前からよ。これからもきっと変わらない』
「だからよ。ダリルを取られてもいいの?」
『……2人ともそんなつもりはないのよ。』


ロジータの言葉は私の気分をさらに重くさせた。
2人の特別な絆は痛いほど、理解してる。
ソフィアを失ったあの時からだもの……
特別な絆を奪うわけにはいかないのよ……


「リック」
「ユージーン、怪我の具合は?」
「大丈夫。かすり傷だ。名誉の負傷だよ」
『リック、本当よ。かすり傷だし、名誉の負傷』
「疑ってないさ。他の被害は?デニースだけか?」
『えぇ、そうよ。ダリルはキャロルとお墓を作りに…』
「そうか……救世主の仕業だと思うか?」
『多分…救世主しか考えられない』
「分かった。あとでダリルと話そう」
『リック、彼のことお願いね…
今回のこと、自分を責めてるみたいなの』
「あぁ、分かってるさ。任せといてくれ」
『ありがとう』


リックと一緒に医務室を出て、家に向かった。

その夜、いつも通りキャロルの美味しいご飯を食べた。
どこかみんなの表情は暗くて……
ダリルも黙ったまま食事を取るとすぐに部屋に戻った。


「エリー、後でいいかしら?」
『えぇ。もちろんよ。キャロル』


ご飯を食べ終わり、全員が部屋に戻るまで
後片付けを手伝いながらキャロルのことを待った。


「エリー、明日手伝って欲しいことがあるんだ」
『どうしたの?グレン、マギー』
「銃をいくつか町の中と外に隠しておきたいの。
 襲撃があった時のために備えて、少しでもね…」
「隠し場所を一緒に考えてほしいんだ。期日は明日」
『えぇ、いいわ。どこか良い場所を考えてみるわね』
「ありがとう。じゃあまた明日。おやすみ」
『おやすみ』


グレンとマギーにおやすみを告げると
キャロルが手を拭きながら隣に腰かけた。


「ごめんなさい。少し話しておきたいことがあって…」
『いいのよ。それよりどうしたの?』
「ダリルのこと…彼、酷く傷ついてる。
 今の彼を支えられるのはあなたしかいないわ」
『でもキャロルも彼を支えてあげてくれない?』
「無理よ…エリー。あなたは彼の側を離れないで。
 絶対に生きて。ダリルと共にこの世界を生き抜いて」


私の手を握り、必死な様子で話すキャロル。
いつもと違う様子に戸惑ってしまう…


『もちろんよ。ダリルと生きていきたいもの。
 でもキャロル。ダリルだけじゃなくてキャロルやリック
 グレンにマギーにカールに…みんなと生き抜いていきたいの。
 だって…今までもこれからもみんな私の大切な家族でしょ?』
「えぇ、もちろんよ」


キャロルに力強く抱きしめられ、私も抱きしめ返した。






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