18

ダリルとの熱い夜。
途中から記憶がないし、腰がダルい。
パジャマはダリルが着せてくれたのかな…
隣にはぐっすりと眠るダリルの姿があった。
ふふ…ダリルが側にいてくれて嬉しい。
しばらく寝顔を見つめていた。



「エリー」
『んぅ…だりる…?』
「俺はバイクの修理に行ってくる」
<わたしもすぐいく……>
「日本語か?何言ってるかわかんねぇ」
『えっと、私もすぐ行くって言ったの』
「あぁ、下にいる」


寝ぼけて日本語で返しちゃったし
ダリルに鼻で笑われた……
っていつの間に寝てたんだろ?

おっと、シャワーだけ浴びておかないと……
昨日ダリルと…その…ねっ!!

シャワーを浴びて家を出るとダリルが
ポーチのすぐ側でバイクの点検をしていた。
そこにロジータとデニースが地図を持って来た。
どうやらどこかに出かけたいらしい……


「DCから車で来たの。その途中で見かけた。
 "エジソンの薬品&雑貨店"
 ショッピングセンターのギフトショップよ」
『"薬品"ってことは薬があるの?』
「その通りよ、エリー」
「残ってるか?」
「確かめる価値はある。
 あなた達は今日休みでしょ?」
「あぁ。俺達3人で行ってくる」
「私も一緒に。力になりたいの」
「……外に出た事は?」
「一度もない」
「ダメだ」
「鉈の使い方を習ったし、徘徊者にも慣れたわ」


外に出た事のないデニースにダメと即答したものの
デニースの説得にダリルはロジータを見た。


「連れてくか?」
「いいえ」
「1人でも行く」
「死ぬぞ」
「だから一緒に来て」
「子守はしないわよ」


ダリルはロジータとデニースを交互に見た後
私の方を向いた。ちょっと困った顔をしている。


『珍しいわね、そんな顔するの』
「からかうな。エリーはどう思う?」
『私で良かったら彼女を見ているわよ』
「はぁ…面倒だが連れて行くしかねぇか」
『そうね。デニースの決意は固そうだし
 1人で外に行かれるよりはましだわ。』
「おい、4人で行く。さっさと用意しろ」
「分かったわ!ありがとう、すぐ戻る!」
「ちょっと、本気で彼女連れて行くの?」
「仕方ねぇだろ。勝手に行かれるよりはいい」
『私もデニースを気に掛けておくから』
「それと車はオンボロ車しかないわよ」
「は?あれだと3人乗りじゃねぇか。」
『私は荷台でいいよ。その方が広いし』


前のスペースに運転・ダリル
そしてデニースとロジータが乗り込み
私は荷台で優雅に寝転がっていた。
ここら辺はウォーカーもいないし
風は気持ちがいいし、意外と快適〜!
ただガタガタなるのだけは頂けない。
これじゃ寝たくても寝ようもない。
毛布かシーツを持ってくればよかった……
って寝ちゃダメなんだけどね!!!

呑気にそんなことを考えていると
急に車が減速して止まってしまった。

起き上がってみると大きな木が倒れている。
ダリルとロジータが出てきたので私も荷台を降りる。


「木が腐ってた。人にやられたんじゃないわ」
『でもこれをどけるのは無理そう…歩きだね』
「そうなるわね。デニースを呼んでくるわ。」
『ダリル?何か気になることでもあった??』
「いや、別に何もねぇ。行くぞ、こっちだ。」
「待って。線路を行った方が店には近いわよ」
「線路はダメだ。道を行く」
「どうして?2倍も速いわ」
「好きにしろ。俺は道を行く」
『待って、ダリル!先に行かないで!』


結局、ロジータは線路を進み
私とダリルとデニースは道へ…
ロジータは賢くて力もあるし
何より対ウォーカーも人間も
慣れているから大丈夫だと思うけど
説得して連れて来たら良かったな…


「エリー、ロジータは線路を行ったわ」
『えぇ。付いて来ないからそうなんでしょ』
「いいの?彼女1人にして……大丈夫?」
『大丈夫よ。ロジータは慣れてるしね。
 別れたのは関心しないけど仕方がないわ。
 今更線路に戻る訳にもいかないでしょ?』
「そうだけど…少し心配で…」
『彼女なら何かあっても柔軟に対応出来るわ。
 線路が交じり合うところでまた会えるわよ』


デニース、そして自分を安心させる為にそう言った。
ダリルも逸れたのがデニースなら追いかけたと思う。
ロジータなら大丈夫だと思ったから…だよね?


「やっと来た」
『待っててくれたの?ロジータ』
「まぁ、一応ね。待ちくたびれたわ」
「あなたより彼らを選んだ訳じゃない」
「鉈の持ち方はこうよ。デニース」
「あ、ありがとう」


何も言わないダリルの後に続く。
目的のお店はすぐに見えてきた。


「先に行くから後ろにいろ」

ダリル、私、ロジータ、デニースの順番で中に入る。


『ひどい匂いね…平気?』
「うぅ……」
「朝食を吐くか?」
「オートミールよ」
『なんで言うの?』
「一応、言っとく」


店内は薄暗く、懐中電灯の明かりだけが頼り。
ウォーカーが出てきたら咄嗟に反応出来るだろうか…?
デニースを守れるか心配だ。


「見て、ここだわ」
「バッグを持つわ」
「大丈夫。そこにいて」


ダリルが扉を開けると中には大量の薬が…


『やった、宝の山よ!』
「必要な薬を選ぶわ」
「いいや、全部だ」
「全部って………」
「全部取っても平気よ」
『これから何があるか分からないし
 ヒルトップとの交渉に使える薬が
 もしかしたらあるかもしれないわ』
「そう…そうよね。分かった、任せる」
『薬を取ってる間は、ここにいてね。』


デニースは頷いたけど、不満そうな面持ちだ。
奥に進むダリルに続いたけどウォーカーはいない。


「エリーは奥を頼む。…なんの音だ?」
「1体だけね。しかもはまってる」
「あれは放っておいても害はない」


2人の会話を聞きつつ、バックパックに薬を詰め込む。
こないだデニースに教えてもらった薬があるってことは
これはマギーのために役立つ薬ってことね!!
本当に来て良かったわ。

そうやって3人で薬を入れていると大きな音がした。


「何してるの?」
「べ、別に……」
『デニース?』


デニースは私の声を無視して1人で外へと進んでしまった。


『……大丈夫かしら?』
「とにかく薬が先よ。」


急いで薬をリュックに詰めてデニースの後を追いかける。
外にいるウォーカーに見つかったら大変だもん。


「なぁ。お前は良くやった」
「だから言ったでしょ?無理だって」
『ロジータ』
「なによ、本当のことでしょ?」
「分かってる……」


落ち込んだ様子のデニースを連れて歩き出す。
さっき車を降りた所までは歩かなきゃ。


「兄貴がいたって?」
「兄と言っても6分だけ先に。
 両親は"デニス"と"デニース"って名付けた」
『メルルとダリルも似た様な名前だもんね?』
「またそれとはちげぇよ」
「兄は怖いもの知らずで勇敢だった。
 いつも怒ってたわ。危険な組み合わせよね」
「俺の兄貴もそうだった」
「そっち?」
「近いんだろ?」
『素直じゃないんだから』


ダリルが線路側を進みだしたので、私たちも後に続く。
私が笑っているとダリルはチラリとこちらを見た後、
少し恥ずかしそうに私に体ごとぶつかってきた。


『ふふ、なによ』
「笑ってんじゃねぇぞ」
『いいじゃない。笑顔が一番よ』
「…そうだな。薬も手に入った」
『今日は良い1日になりそうね』
「あぁ」
『ねぇ、車が捨ててあるわよ』
「動くかどうか試してみるか」
「無駄よ。埃が溜まりすぎてる」
「放置されて時間が経ってるから?」
「えぇ、バッテリーがきっとダメね』
「先へ進もう。行くぞ」
「クーラーボックスよ。何か入ってるかも」
「今日の目的は果たしたわ」
「手間をかける必要はない」


クーラーボックスを取ってもいいけど、
この2人が反対するんじゃ諦めるでしょ。
そう思って先に進んだのが間違いだった。
デニースは1人で車に近付いてしまったのだ。


『デニース!?』
「来ないで!!」


ウォーカーに覆い被されるデニース。
私達は走って彼女の元に駆け付けたけど、
デニースは1人でそのウォースーを倒した。
そしてメガネに朝食を吐いた。


『あー……平気…?』
「まったく……メガネに吐いちゃった」


そう言うとメガネを拾いクーラーボックスへ。
中には数本のソーダが入っていた。


「やったね」
「何やってる!?死ぬとこだったぞ!」
「あなた達も救世主に殺されるかもしれなかった」
『それとこれとは話が―』
「生きたいならリスクを負わなきゃ!」
「ソーダ数本のために?」
「いいえ。これだけ」


1本のソーダを持つと歩き出すデニース。
残りは一応、リュックの中にしまって私も後を追った。
今日はずっとデニースの様子がおかしい……


「そこまでバカだったの!?」
「あなたは?本気で聞いてる。理解できるの?
 私がどんな思いをしてきたか。訓練は受けたけど
 縫合や手術同様実践理経験はなかった。だから…
 兄の様に勇敢だから一緒だと安心出来る。
 ロジータ。貴方のように私も強くなれる気がするの。
 タラを行かせて、愛してると言わなかった。怖かったから。
 でもバカげてた。自分の弱さと向き合わなかった。
 あなたたちにも腹が立ってるわ。
 強くて賢いし、本当に良い人たちだわ!
 なのに………? 目を覚まして……………」


興奮してまくしたてるデニースの目に
矢が突き刺さって、彼女は次第に言葉を無くした。





[ 183/216 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]