15



『ふわぁ…何時……まだ6時…』


1人で眠るのは久しぶりだったけど、
あんまり熟睡は出来なかった。
早い時間からベッドに潜り込んだのに
なんだか疲れが取れた気がしない。

このまま寝ていてもしょうがないし…
起きて作物の手入れでもしようかな。


身支度を整えると、キャップを被って外に出た。
マギーとディアナが作った農園は好調とは言えない。
少しでも作物を早く育てないとなぁ…


「エリー、今日は早いな」
『なんだか目が覚めちゃって』
「傷の調子は?膿んだりしてないか?」
『えぇ。平気よ。これかすり傷だもの』
「それは良かった。早く治るといいな」
『ありがとう。グレン、マギーは…?』
「今は寝てるよ。俺もすぐ部屋に戻る」
『そうね…グレン、ここは私に任せて』
「あぁ。エリーに頼んだよ」


グレンは私の頭を撫でると家に戻った。
きっと塞ぎ込んでいるマギーの代わりに
ここの様子を見に来たんだろうなぁ……
本当にグレンは良く出来た旦那様だ。


「エリー、水分は持って来ているのか?」
『…!?ユージーン…びっくりした……』
「すまない。驚かす気は……」
『私こそごめんね。えっとなんだっけ?』
「飲み物は持ってきたのかと聞いたんだ」
『あぁ。持ってきてないよ。後は作物に
 お水をあげたら戻るつもりだから……』
「…今日は仕事は?」
『この先の工場跡地に行く予定よ。
 前にダリル達と行った時はウォーカーもいなかったし
 持ち帰れそうな物があるかどうかだけ調べようと思って』
「それに同行したい。武器はこれをロジータに習った」
『えっ?ユージーンも戦うつもりがあるってこと…?』
「君に同行する限り、戦う必要があるのは理解してる」
『あー…来るのはいいけど…安全の保証は出来ないよ。
 必ずユージーンを守ってあげられる訳じゃないし…』
「あぁ。いざとなったらエリー1人で逃げてくれ」
『見捨てる気はないけど…ちゃんと覚悟があるんだね』


ユージーンはゆっくりと、しかしはっきりと頷いた。


『分かった。じゃあ朝食を食べたら出発よ』


ユージーンにそう告げると彼は家へと歩いて行った。
去って行く後姿を見つめる。あのユージーンがね…





『準備は出来た?』
「……あぁ、行こう」


ゲートに向かうとお兄ちゃんが立っていた。


「2人で外に行くのか?」
『すぐそこの工場跡地に行くだけよ。
 中にある物資を確認したらすぐ戻るわ』
「付いていかなくて平気か?せめて……
 ロジータとかダリルに頼めばいいだろ」
『ダリルはキャロルの側についてなきゃ。
 ロジータも色々あったから…私達は平気よ』
「気を付けろよ。無事に早く帰って来てくれ」
『もう分かってるってば。ほら、門を開けて』


ゲートを開けてもらってユージーンと歩き出す。
距離はそこまで遠くないから歩きでも大丈夫だ


「エリーは怖くないのか?」
『何が?外に出ること?ウォーカーと戦うこと?』
「両方だ」
『怖いに決まってるよ。でもやらなきゃ。
 戦わないと生き残れないって言ったでしょ』
「人には適正の場所がある。私は賢いが、運動はダメだ。
 外も向かない。君も居場所は家の中だと思わないか?
 昨日の戦いでもそんなに傷を作ったのは君だけだ。」
『うーん…私は遠距離が得意だから、門の中から
 銃で狙う方が確かに効率的かもしれないわね。』
「それに君に何かあったらダリルもハリーも悲しむ」
『それは誰しもが言えることでしょ。自分にやれることを
 少しずつやっていくだけよ。みんなの役に立ちたいの。
 だってみんな大切な家族なんだもの。分かるでしょ?』
「あぁ、もちろん分かるが―」
『しっ。少し黙って……』


ユージーンを黙らせて岩の影に座らせる。
右側からウォーカーが2体。
距離は2体とも少し離れてるから1人でいけそう…


『ユージーン、あそこに2体いるの見える?』
「……あ、あぁ」
『私が1体ずつ仕留めてくるからここにいて。
 反対側から他のウォーカーが来るかもだから
 ちゃんと意識をそっちにも張り巡らせておくの』
「1人で平気なのか…?」
『あの距離ならいけると思うけど、もし私が噛まれたら
 全速力で街まで走って逃げて。ゲートまで着けば
 お兄ちゃんが援護してくれるはずだから。分かった?』
「一緒に戦おう」
『大丈夫。いいからここにいて、あっちを警戒してて』


ユージーンを説得して、手頃なサイズの石を遠くに投げる。
音に反応したウォーカーの後ろから、まずは1体。
私を見つけたウォーカーに足を引っ掛けて転ばせてから
もう1体もなんなく仕留めることが出来た。


『ユージーン、終わったよ』


ユージーンの顔は少し引きつっていたけど、
手を差し出すと私の手を握って立ちあがった。


『ユージーンもこれくらい出来るようにならないとだよ』


何か言いたそうにしているユージーンを置いて
先に歩き出すと、彼も少ししてから歩き出した。
ずっとエイブラハムやロジータに守られてきた彼と
戦わざるおえない状況にいた私。
環境が違うんだからこれくらいの差は当たり前だけど…
ユージーンは今、何を思ってるんだろう?

そこからは順調に道を進むことが出来た。
工場跡地に着くと順番に建物の中を見て行く。
ある建物に入った時、ユージーンがさっさと中に入った


『…!?ゆ、ユージーン…!?』
「これは……なるほど……
 エリー、紙と書く物を貸してくれ」
『うん、どうぞ……』


私が物資を書いていたノートの紙を破り、
ペンと共にユージーンに渡した。
彼は何か一心不乱に紙に書き留めている。
賢いユージーンのことだから何か思いついたのかな…?
ウォーカーの邪魔が入らない様に扉を閉めた。


どれくらい時間が経っただろう?
ユージーンはぶつぶつと何かを呟きながら
この部屋の大きな機械や側にある箱を見ながら
紙に書いたり、消したりを繰り返している。
………そろそろ退屈になってきた…


「エリー、もういい。家に帰ろう」
『何か持って帰りたい物はあった?』
「エリーと私だけで持って帰れる物はない」
『それもそうね。じゃあ帰りましょう』


ユージーンと元来た道を戻る。
もうすぐ街に着くという所でリックとダリルに会った。
後ろにはグレンとエイブラハム、サシャもいる。


「エリー!!!」
『どうしたの?何かあった?』


ダリルは駆け寄って来ると思いっきり私を抱きしめた。
あぁ…これはみんなに心配をかけてしまったのか……


『ごめんなさい。探しに来てくれたの?』
「ユージーンと2人だけで外に行ったと
 ハリーから聞いて飛んできたんだ。」
「頼むから勝手に出て行くのはやめてくれ…」
『本当にごめんなさい。すぐそこだったから』
「ユージーンもケガはないか?」
「あぁ、問題無い」
「よし、とにかく街に戻ろう。説教はそれからだ」


リックの言葉に背筋が凍った。


リックの宣言通り、街に戻ってから
私とユージーンは昏々と説教を受けた。
そしてかすり傷が治るまで仕事は休んで
街の中でゆっくりすることが義務付けられた。

少しでも物資を集めて街の為に役に立ちたかったけど
この数日間は街の中で役に立つ事を探すか、
イーニッドやカール、ジュディスと遊ぼう。
そう心に決めた。







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