14

ダンッ、ダンッ、ダンッ


何かが壁を叩く音で目が覚めた。
またカールがボールをぶつけているのかな…

昨日はあまり眠れなかったから目が重い…
そっと目を開けると目の前にはダリルがいて
私を抱きしめて眠っていた。


『ダリル……戻って来てくれたの…?』


私は嬉しくてダリルに近付いた。
胸に顔をうずめて片手が抱きしめると
ダリルが"うぅん…"と声を上げた。


「起きたのか…?」
『ダリル、昨日はごめんなさい。
 あなたに相談せずに勝手に……』
「…いい。マギーの言う通りだ…
 俺もエリーの話を聞かなくて悪かった」


ダリルはそう言うと私の目元を撫でた。


「ずっと俺を探してたんだろ?
 アーロンのガレージでバイクを直してた」
『あぁ……1番に見に行くべきだったのに』
「エリーは抜けてる所があるからな…?」
『そんなことないと思うけど…たまたまよ』


コンコンコン


「ダリ〜ル?エリー?起きてる?」
『起きてるわよ、マギー』
「良かった。朝食の時間よ」
『ありがとう、すぐ行く!』


ダリルとキスを交わすと着替えて下に降りた。
朝食を食べながら今日の予定をリックから聞く。


「エリー、ハリー、エイブラハムは残って
 住民達に銃の訓練をしていてくれないか?」
『どうして?お目当てのウォーカーを探すには
 1人でも人が多い方がいいんじゃないの?』
「俺達が奇襲をしかけてる間の街が心配だ。
 念には念を入れておきたい。戦える人が必要だ」
「僕もジュディスが寝てる間は手伝うよ」
「あぁ、助かる。妹を頼んだぞ、カール」


お兄ちゃんとエイブラハムが頷いたので
私も住民の訓練をすると頷いた。
朝食後は銃や見張りの仕方を教えて
ダリル達が戻って来る前に昼食を作った。
みんなで昼食を食べて作戦開始まで仮眠だ。


「エリー、先に寝てろ」
『ダリルは?仮眠を取らなきゃ』
「やることが終わったらすぐ戻る」
『分かった。おやすみなさい……』


私は先にベッドに入ったけど、不安で眠る事が出来なかった。


ガチャ


『ダリル…?』
「起きてたのか?」
『うん…眠れなくて…』


ダリルは黙ってベッドに入ると私を抱きしめた。
ぎゅっと抱きしめ返すとダリルの匂いがする…
体温を感じているだけで安心出来る気がした。


「リックがエリーとハリーをペアにして
 マギー達と逆方向の見張りに立てると言ってた。
 エリーのことは兄貴が守ってくれる。大丈夫だ…」
『みんなのことが心配よ…誰にも死んでほしくないの』
「あぁ。誰も死ぬつもりはない。
 作戦が上手く行けば全員無傷で帰れる。」
『そうよね。きっと大丈夫だよね…』


ダリルが背中を規則的に叩いてくれるおかげもあって
私は安心して1時間もしない内に眠りについた。


「エリー、エリーったら…!」
『んん…タラ…?』
「起きて。みんな出発の準備してる」
『起こしに来てくれてありがとう。』
「ふふ、どういたしまして。」


タラが部屋を出て行くと動きやすい服に着替えて
上から刑務所で手に入れた防弾チョッキを着た。
総督から私を守ってくれた、私の防弾チョッキ…
きっと今日もこれを付ければ大丈夫。
そう自分に言い聞かせてから下に降りた。


下に降りると作戦に参加する全員が集まっていた。
これだけの人数が集まると狭いな……

リックから最後に作戦をもう一度聞いて
私はお兄ちゃんと2人で車で向かう予定だ。


「エリー」
『ダリル、どうしたの?』
「トランシーバー持って行け」
『えぇ。ありがとう、ダリル』
「片方は俺が持ってる。何かあれば連絡しろ」
『分かった。ダリルも助けが欲しい時は連絡して』
「俺は平気だ。俺はリックとミショーンと行く。」
『頼もしいメンバーだね。……気を付けてね…』
「あぁ。エリーもな…ハリー。こいつを頼む」
「エリーのことは任せてくれ。気を付けろよ」


ダリルはお兄ちゃんに頷きを返すと私を見つめた。
私はダリルに思いっきり抱きついた。
ダリルも力強く抱きしめ返してくれる。


『死んだら許さないんだから…』
「縁起でもねぇこと言うなよ(笑)」
『ダリル、愛してる』
「あぁ、俺も愛してる…」
『また後で会おうね』
「あぁ」


ダリルをぎゅっと抱きしめると車に乗り込む。
ダリルもリック達の車へと向かった。
私はお兄ちゃんの運転で基地に向かうのだ…


<平気か?>
<不安で心臓が口から出そうだよ>
<あぁ、俺もだ。まさかこんな事になるとはな…>
<…お兄ちゃんはさ、前もこんな気持ちだった?>
<……刑務所を襲撃しに行った時のことか?>
<うん…私達を悪者だって聞かされてたんでしょ?>
<そうだな…あの時は正義感に燃えてたよ。
 それに総督は話し合いをすると言っていたし…
 今日のこれとはちょっと状況が違うかもな……>
<そっか……>
<どうしてだ?>
<いまだにこれが正解なのか分からなくて…
 ニーガン達が悪い奴らだって分かってるよ。
 今までもそういう人種には関わらない様に
 避けて生きてきたし、怖さだって十分知った。
 でも彼らにも守りたい物があるはずでしょ?
 人間同士が殺し合いをするなんてバカみたい。
 手を取り合って支え合わないといけないのに>
<そうだな。エリーの言いたい事も分かる。
 だが、理想と現実は一致するとは限らないさ>
<うん…それもそうだね…ほんと嫌な世の中…>
<俺達はやるべきことをしよう。仲間を守るんだ>


お兄ちゃんの言葉に頷くと、外を見た。
数は少ないけどウォーカーがうろついている。
私達が戦うべきは"あいつら"のはずなのに…
ここにデールやハーシェルがいたらなんて言うのかな…
無性に彼らに会いたくなった。


<エリー、着いたぞ。あれが正門だ>
<私達は見張りを殺してから行動だよね?>
<そうだ。リック達が中に入るまで待機だ>


ヒルトップの人(名前は忘れた)が話している。
ここで首が偽物だとバレたら一貫の終わりだ…
どうかバレません様に……

遠いここからだと話し声は聞こえないけど、
どうやら上手くいったようだ。
人質が解放され、みんなが中に入って行った。


<よし、俺達も行こう。近くまで車を動かす>


エンジン音が一番静かな車を選んで来たのはこのため。
静かにマギー達と反対側に向かい、近くに車を止めた


<外で見張る?>
<あぁ。俺から離れるなよ>
<分かってるよ>


車を降りて辺りを見回してみると人はいない。
遠くに芝生が見えているけど、見張りもいない様だ。
正面玄関にしか見張りを置いていないらしい。
自分達は攻め込まれないと思っているからだろうか…?


<見張りはいないし、ウォーカーも少ないな>
<うん。マギー達は大丈夫かな…?>
<あっちも同じ様な感じだろ。大丈夫だ>


お兄ちゃんと近くに来たウォーカーをナイフで殺す。
あまりに人の気配もないから、高身長のウォーカーを
簡単に倒して殺す方法や護身術を教えて貰っていた。

そんな時、急にサイレンが鳴り響いた。


<なに!?サイレン!?>
<まずいな…ウォーカーが呼び寄せられるぞ…>
<中の人達も起きちゃうよ!みんなが…!>


続いてかなりの数の銃声が鳴り響く。


<お兄ちゃん!みんなを助けに行こう!>
<エリー!先にウォーカーの処理だ!>


振り向けば暗闇からウォーカーの呻き声。
サイレンと銃声におびき寄せられたらしい…


<…っ。分かった…!>


お兄ちゃんとナイフでウォーカーを倒して行くけど
大きな音が鳴り響く限り、ウォーカーも呼び寄せられる。
このままじゃ私達の体力が先に尽きてしまう。


<車の上に乗れ!サイレント銃で撃て!>


お兄ちゃんの指示に従って、車の上に寝転び
ライフルを構えて銃でウォーカーの頭を貫く。
ナイフで殺すよりも効率はいいけど、
この格好は後ろが無防備になるのが欠点だ。

案の定、すぐ後ろに呻き声を感じた。
急いで起き上がってハンドガンを構えた。


「あぁぁぁ」
<うわぁ!!>
<エリー!!>


足を掴まれたけど、すぐに頭を弾丸が貫く。
良かった…後少し遅ければ噛まれていたかも…


<平気か!?>
<大丈夫だよ!噛まれてない!>
<良かった…>
<だけどこれじゃきりがないよ!>
<……照明弾はすぐ出せそうか?>
<後部座席にあるから出せるよ!>
<なるべく低く、向こう側に撃て!
 少しでもウォーカーを遠ざける!>
<分かった!>


お兄ちゃんが銃に持ち替えて援護してくれる間に
車の後部座席のリュックの中から照明弾を出して
なるべく低く、地面やウォーカーに当たらない様に
遠くを目がけて一発だけ撃った。

お兄ちゃんの作戦通りウォーカーは照明弾に釣られて
遠くへと歩いて行ったところをナイフで殺して行く。
弾を節約しておかないと、囲まれた時に困るから…


<サイレンはまだ鳴りやまないのか!?>
<銃声もやまないよ!どうすればいいの!?>
<こいつらを片付けてから考えるんだ!
 照明弾がそろそろ消えるぞ、次を撃ってくれ>


お兄ちゃんと照明弾を使ってウォーカー殲滅に
力を入れるけど、なかなか殲滅には至らない。
こんなに大きな音が鳴っていたら無理もない…


<照明弾はあといくつある!?>
<あと5つしかないよ!>
<……一度ここを離脱するしかない>
<でもどうするの!?マギー達は―>
<エリー!伏せろ!!>


お兄ちゃんに頭を押さえつけられて地面に突っ伏す。
すると銃弾が私達めがけて飛んできた。
中から生存者が逃げてきたのかもしれない。


<車の影に隠れて威嚇射撃していてくれ!>
<お兄ちゃんは!?>
<死角から始末する!>


お兄ちゃんはそういうと走って行った。
私は人数も分からない敵に向けて威嚇射撃をする。

少しすると銃声が止んで、お兄ちゃんの声がした。


<ケガはないか?>
<ないよ、お兄ちゃんは?>
<大丈夫。でも向こうから何人か武装した男が来てる。
 少しの間だけここを離脱してマギー達の所に行こう>
<敵をマギー達の所に連れて行ってしまわない?>
<向こうに逃げてウォーカーもおびき寄せてから
 合流すれば大丈夫だ。とにかく早く車に乗って>


車に乗ってエンジンをかけた瞬間、銃弾が飛んでくる。
お兄ちゃんが見た武装した男達だろう。
照明弾を男の服目がけて撃つと、服に引火した様だ。
燃える男にウォーカーが群がる。
私達はその隙にその場を逃げ出した。
もう既に空が明るくなりかけていた


<少し先の大通りに出よう。>
<そこでウォーカーを撒くの?>
<あぁ。そのつもりだ>


私はトランシーバーの通話ボタンを少し押して
こちらが連絡を取りたいことが伝わる様にした。
少しするとサイレンが鳴りやみ、ダリルから連絡が…


「エリー、そっちは無事か!?」
『無事よ!ダリルは?ケガはない?』
「平気だ。敵もほとんど片付いてる」
『良かった。実はサイレンでウォーカーが
 かなり集まって来ちゃったの。私達は一度
 大通りにウォーカーを誘導してから戻るわ』
「分かった。なるべく早く戻れ」
『うん、了解』


ダリルとの通話を切った時、前方から車が来て
私達目がけて銃を乱射し始めた。
窓ガラスは割れて破片が顔をかすった。


<エリーは伏せろ!こいつらを撒く!>


ガラスは頬には刺さらなかったけど、
じんじんと痛みを発していて不愉快だ。
私は後部座席に進むと後ろの窓から
タイヤに向かって銃を撃った。
相手も撃って来るからなかなか命中しなくて
大変だったけど、なんとかタイヤに当たった。


<よっし!タイヤをパンクさせたよ!>


車は路肩につっこみ、ウォーカーから逃げるため
武装した男の人達が出て来て銃を撃っている。
良い気分ではないけど、自分と兄を守る為…


<このまま先まで進んでから引き返そう>
<まだまだ油断は出来ないね。でもあの人達
 どこから来たんだろう?基地ではないよね?>
<前から来たからな…調達でも行ってたとか?>
<でも普通出会ってすぐ銃で撃ってくる?>
<根っからの悪者なら撃ってくるかもな…>


アメリカって本当に怖いなー。
日本だったら考えられないよ…


「エリー、今どこだ?」
『ダリル!大通りを北に進行中よ!』
「ダリル騙されるな。東に進行中だ」
『えっ、そうなの?本当に?東に?』
「……戻れそうか?問題が発生した」
「戻れるが基地に戻ればいいのか?」
「あぁ。俺達は先に進むが、俺達の
 足跡を追って追いかけてきてくれ」
『待って。問題って何があったの?』
「……マギーとキャロルが攫われた。
 まだ無事だが、すぐに追跡する。」
『分かった。私達もすぐに戻るね。』
「あぁ。残党とウォーカーに気を付けろ
 しばらく通信も出来ないかもしれねぇ」
『緊急時以外は連絡しない様にするわ。』


ダリルとの通信を切ってUターンする。
先程の車の近くでウォーカーが何かに
群がっているのが見えたが、目を逸らした。
罪悪感からも目を逸らしたかったから…

基地まで戻って来るとダリルのバイクが
倒れているのを見つけた。
メルルが乗っていた大切なバイクだ。
それを起こして立てかけてから足跡を探した。


<エリー、これじゃないか?>
<本当だ。みんなはあっちに行ったんだね>
<ここから車に乗ってる。俺達も後に続くぞ>
<うん、急ごう>


お兄ちゃんと再び車に乗って走り出すと
ダリルからトランシーバーで連絡が来た。


「エリー。マギー達の居場所が分かった」
『どこなの?』
「基地から西へ5マイル進んだ施設の中だ。
 俺達は今から踏み込む。連絡は出来ない」
『分かった。基地を出てるからすぐ着くよ。
 マギー達を必ず助け出してね。気を付けて』
「あぁ、分かってる」


ダリルと通信を切ると目的地に向かった。
建物の近くに車を止めて、みんなの足跡を追う。
ちょうど扉の側に立っているのが見えた。


『マギー達は無事―』


話しかけようとした瞬間、銃声が響き渡った。
リックが男性の頭を撃ち抜いたのだ。
お兄ちゃんも後ろで呆然としている。


「問題は片付いた。エリー、ハリーも無事だったか」
『あー、うん…リックもケガがなさそうで良かったよ』
「おい、なんで外にいたお前の方がケガしてんだよ…」
「ハリーも切り傷がひどいわ。早く手当てしないと…」
『マギーとキャロルは平気?キャロル、血が出てる!』
「3人とも手当てが必要だな。とにかく家に帰ろう。」


疲れ切った様子のリックが歩きだした。
マギーとキャロルの様子がおかしいけど…
マギーはグレンが、キャロルはダリルがいるから
ひとまずは彼らに任せて早く街に戻ろう。


「俺とエイブラハム、サシャ、アーロンは
 一度基地に戻って物資を取ってから帰る。
 他の皆は街に帰って手当てをしてやってくれ」
「分かったわ。行きましょう」


4人以外は街に帰り、デニースの手当てを受けた。
ガラスは刺さっていなかったので軽い手当てだったけど
至る所に傷が出来ていたのでチリチリと痛みは続いた。


「エリー」
『ダリル、どうしたの?』
「手当ては終わったのか?」
『えぇ。軽い傷しかないもの』
「そうか……エリー…悪いが今日は
 1人で寝るかハリーの所にいてくれ」
『…キャロルのところに行くの?』
「あぁ。あれから様子がおかしい」
『分かったわ。キャロルを支えてあげて』


ダリルは頷くとキャロルの元へと向かった。
きっと彼ならキャロルの心を支えられるだろう。
マギーのことも心配だけど、グレンと部屋にいるし…

その日は大人しく、1人で早々にベッドにもぐった。




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