13



「荷物の整理が済んだら教会へ。
 マギーとミショーンは俺と来てくれ」


問題無くアレクサンドリアに戻って来た。
家からはカールとジュディスがリック達に駆け寄り
少し会話を交わしてからこちらに向かって歩いて来た。


「おかえり。ヒルトップとの取引はうまくいったの?」
「……カール、詳しくは後でリックから話があるんだ」
「でも物資を持って帰ってきたんでしょ?条件は何?」
「その条件に関して、教会で話し合う予定なんだよ…」
『カール。ジュディスはキャロルに預けて手伝って?』
「……いいよ。でも取引の内容、僕に教えてよエリー」
『すぐにリックから話があるから、それまでの我慢よ』


カールは頷くとキャロルにジュディスを預けて
物資の片付けと整理を手伝ってくれた。
私は医療品を持ってデニースの所へ…


『デニース。医療品を持ってきたんだけど』
「あぁ、ありがとう。リストに書き加えなきゃ…
 良かったら手伝ってくれる?1人だと手間で。」
『…ごめんなさい。私、英語は得意じゃなくて…』
「そういえば外国人だったわね。時々、忘れるわ」
『読み書きが苦手なの…他の人を呼んでくるわ。』
「デニース、何か手伝おうか?あ、エリー……」
『ちょうど良かった!タラ!!ここを任せても?』
「もちろんいいけどエリーが手伝ってたんじゃ?」
『手伝いたかったんだけど、ラベルの英語が読めなくて…』
「じゃあ一緒にやろうよ。今から覚えていけばいい」
「そうね。医療品の事は知ってて損はないわ。
 ほら、あなたは物資調達班だし、今後の為にも」
『いいの?だってこの後は教会に行かなきゃだし』
「重要な薬品だけ覚えればいいわ。マギーの事…
 さっき聞いたの。彼女の為にも覚えておいた方が
 良い薬品を教えるから、今日はそれだけやろう」
『ありがとう、デニース。』


それからデニースにメモとペンを借りて
薬品の名前や使い方を教えてもらった。
久しぶりの勉強は嫌な気分にはならなかった。
あの頃は全く気が付かなかったけど、
勉強出来るって素敵なことだったのね…


「集会まであと10分くらいね…」
「キリがいいし、今日はここまでにする?」
『そうね。もう頭がパンクしそうよ!(笑)』
「あはは、帰ったらちゃんと復習をしてね」
『分かったわ。次はいつ勉強会開く予定?』
「そうね。一週間後くらい?声かけるわね」
『ありがとう。じゃあ先に行くわ。また後で』


私は一足先に教会に向かうことにした。
きっとリック達も教会にいると思ったから…
予想通り教会にはリックやダリル、ジーザス達がいた。


『やっぱりもうここにいたのね』
「あぁ。みんなになんて伝えるのがいいか考えてた」
「パパ。マギー達は住民に最後の声掛けをしてから
 教会に来るって。僕はジュディスと家にいるから」
『カール?話を聞かないの?』
「後でパパから聞くよ。妹を見なきゃ」


そう言うとカールは教会を出て行った。


『ダリル、横に座っても?』
「………あぁ。」


ダリルの横に座り、みんなの到着を待った。
事情を知るメンバーは微妙な顔で椅子に座った。


住民がおおかた集まり、リックの演説が始まった頃
"遅れてすまない"とお兄ちゃんが入って来た。


「ヒルトップとの取引をマギーが成立させた。
 卵やバター、野菜を手に入れられるが…タダでは無い。
 "救世主"にサシャ達は殺されるところだった。
 いずれここも見つかる。
 ウルフやジーザスが見つけた様に。
 誰かを殺そうとするだろう…俺達を支配する。
 抵抗しようにも―
 その頃には食料不足で負けるかもしれない。
 確実に勝つ為の方法は1つしかない。必ず勝つ。
 ヒルトップの為にも、この街で生きて行く為にもだ…
 みんなで決めたい。異論があるなら今の内に言ってくれ」
「確証はあるのか?……勝てるか?」
「奴らは悪党だ。俺達には悪党を倒した経験がある」
「そう伝えればいい」
「妥協はしない…!」
「妥協ではなく、選択させるんだ。解決策の1つとして」
「話し合えば安全が脅かされる」


リックの言う事も、モーガンの言う事も分かる。
こんな世界になっても希望は捨てることが出来ない。
だって人間同士、分かりあえるはず。
ウォーカーという共通の敵がいるなら尚更。


「襲われる前に攻撃を仕掛けるんだ」
「生きていれば変われる可能性も…」
「襲われるさ。生かしちゃおけない」
「俺達はそこまで追い込まれてない」
「モーガン、奴らは戻って来る」
「あぁ。死んでも戻って来るな」
「その時は止められる」
「ウォーカーの話じゃない」
「彼は話し合えと。俺は反対だが決定権はない。
 家にいる者と監視塔番とはあとで話すが…
 救世主との対話を望む者は、他にいるか?」
「将来、奴らは本当に襲ってくるのか?」
「そうだハリー。こんな良い場所を逃す訳がない」
「もう二度と、襲撃はご免だ。許さない」


眉間に皺を寄せた兄が手を上げて質問すると
リックが答えた後にアーロンが立ちあがった。
以前、ウルフに襲撃された時、堪えたらしい。
確かにあの時…アーロンは自分を責めてた…


「決まりだな」


リックの言葉で私達のやるべきことが決定した。
私達はニーガンとその仲間を殺す。
……気分の重くなる予定だ……


リックが教会を出て行き、住民もバラバラと出て行く。
私はダリルから貰った結婚指輪をくるくる回していた


「お前は来なくていい」
『なに?』
「襲撃に参加しなくていい。マギーと街にいろ」
『どうして?あなたが行くのに行かない訳には』
「危険すぎる。何があるか分からない」
『だからこそ行ってダリルを助けたい』
「お前がいたら俺は…集中出来ない!」
『どうして!?』
「……っ。とにかく、来るな」
『ダリル、あなたが心配なの』
「俺なら大丈夫だ。今までもやって来れた」
『そうかもしれないけど―』
「話してる最中、悪い。リックが呼んでる」
「あぁ…いま行く」


リックに呼ばれたダリルは教会を出て行った。
私はため息をついて椅子に座りこんだ。

どれだけの時間、ここに座っていたのだろう?
ふと扉が開く音がしたと思ったらマギーの声が聞こえた。


「エリー…?」
『マギー?どうしたの?』
「ダリルがここだって…」
『そうだったの?座って』
「……私も行く事にした」
『………なんですって?』
「見張りとして私も行く」
『どうして?だってマギー…』
「私が取引した。行かなきゃ」
『グレンは反対しなかったの?』
「もちろんしたわ。でも分かってくれた。
『そう……ダリルは無理かも…』
「私はエリーの気持ちも分かってるわ…
 ダリルに言う時は私を理由にすればいい。
 マギーが行くのに留守番はありえないって」


私はマギーを見つめた。
彼女も真剣なまなざしで見つめてくれる。


『えぇ…そうね、ありがとう』


マギーとハグを交わし、教会を出た。
リック達の元に向かって作戦参加の意思を伝えるためだ。


「作戦には私達も参加するわ」
「マギー…エリー…」
「だめだ。危険過ぎる」
「ダリル、あなたに決定権はないわ。
 私達が自分の意思で決めたのよ…
 もちろん中には入らない。見張り役よ」
「マギー。君1人の身体じゃないんだぞ?」
「でも取り引きしたのは私だから…行くわ」
『マギーが行くのに、留守番なんて無理よ』
「……待ってくれ。妹が行くなら俺も行く」
「分かった。とにかく明日は朝から別件だ
 グレゴリーそっくりのウォーカーを探し
 奴の首に見立てるんだ。それを奴らに渡す」


リックの言葉を受けてその場は解散となった。
ダリルは怒ったような足取りで行ってしまった。


「エリー、本当は君には来て欲しくない。
 君の狙撃は頼りにしてるが、接近戦より
 街にいた方が発揮出来るんじゃないか?」
『リック、それでも家族を守りたいの……』
「あぁ。その気持ちも良く分かってるさ…」
『ごめんね。……ダリルを追いかけてくる』


リックにおやすみを告げて、ダリルの後を追った。
部屋に戻ってみたけど彼はいない…


『キャロル、ダリルを見なかった?』
「見てないわ。戻って来ていないわ」
『そう…ありがとう。街を探してくる』



街の中を探しまわったけど、
結局、彼を見つけることは出来なかった。
どうしても今日中に話しておきたかったけど
グレンとキャロルに無理やり連れ戻され
私は1人でベッドに入って眠りについた。





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