12


「オーツ麦クッキーよ。
 複合糖質とオメガ3が摂取出来る」
「遠慮しとく。途中で何か探して食べる」
「狂犬とか?」
「……ソーダのお礼か?」
「えぇ。それに、知り合いに似てるし」
『その人もきっと素敵な人だったのね』
「まぁ、そうね。本当にそっくりな人」
「……うまそうには見えない」
『ダリル。失礼なこと言わないの』
「いいのよ。犬よりはましでしょ」
『ありがとう、デニース。頂くわ』


デニースからそれぞれクッキーを受け取って
私はバックパックへ、ダリルはポケットに入れた。
準備を終え、RV車に乗り、グレンとマギーの隣へ。
目の前にはエイブラハムとお兄ちゃんが座っている。
しばらく穏やかに会話をしていたけどマギーはすぐに
グレンの肩にもたれて眠ってしまった。


『なんだか私まで眠くなっちゃう…』
「悪いが、肩は貸せないぞ。ダリルに妬かれる」
『え〜?グレン相手なら平気じゃない?』
「おい、エリー。それどういう意味だ?」


グレンとケラケラと笑い合っていると
エイブラハムが戸惑いながら話しかけてきた。


「グレン、聞いても…?」
「ん?どうかした?…どうぞ?」


グレンがそう言うとエイブラハムはぐっと身体を
近付けてきたのでグレンも前に出て彼に近寄る。


「生地を流し込む時、ケーキを作ろうと?」
「……? あー…生地って…?」
「俺の妹の前でなんて質問してるんだよ…!」
「………あぁ。子供の事は話し合って決めた」
「なぜだ?」
「なぜ…?」
「ただ…常に危険が潜み、先の見えない世界だ。
 なのにそんな決断をするとは肝が据わってる」
「それは…何かを築こうと努力してる。みんなそうだ」
「……俺なら雨に備えて長靴を履く。ゴム靴さ。
 エリーはどう思ってる?長靴を履くタイプか?」
『え、私に振られても…』
「エイブラハム、やめてくれ。俺はまだ聞きたくない」
「おい、リック。あれはなんだ?」


エイブラハムからの困った質問にお兄ちゃんが
悲壮な顔で止めに入った時、前に座るダリルから声が出た。
私達の所からは見えないけど、どうやら事故らしい。


「事故だ。横転したばかりらしい」
「………仲間だ…!止めてくれ!」


ジーザスの焦った声に車を止めて降りる。


「ハメる気なら覚悟しろよ」
「仲間が危険だ。彼らは戦いに慣れてない
 俺を信じてくれ…銃を、仲間を助けに…」
「ダメだ。足跡がある。こっちに続いてる」
「この中に仲間が…」
「リック。入るのか?また爆竹かも」
「違う!本当なんだ!助けてくれ!」
「仲間は助ける。お前はここで待て」
「それが条件よ。彼らを信じて。」
「あぁ、気を付けて。急いでくれ」
『リック、私も2人とここにいる』
「あぁ。口笛が聞こえたら撃て」
「分かった」


マギーと銃を構えてリック達を見送った。
不安そうな瞳でジーザスは中を見つめている


『大丈夫よ。リックは元保安官で頼りになるし
 ダリルもエイブラハムも見た目通りの強さ。
 それにグレンもハリーも今まで生きてきた。
 きっと、あなたの仲間を連れて無事に戻るわ』
「……仲間を信頼しているんだな」
『えぇ。絶対に無事に帰って来る』
「私達は何度も死線を乗り越えてきたのよ」
「君達と彼らを信じて待つよ……」


建物を見つめるジーザスの右後ろに銃を構えたマギー。
そんなジーザスの前からウォーカーが歩いてきた。


『マギー、私が』


そう言ってウォーカーの前に歩み出るまでは良かった。
気が付いた時には右側から別のウォーカーが迫っていて
私は急に視界に現れたウォーカーの対応に迫られた。


「エリー!!」


焦ったマギーの声が聞こえる。
彼女からは私と私に近付くウォーカーが重なって
銃で撃てないはずだけど、避ける余裕もない…
早くこいつを始末して次のウォーカーの対策を…!

それしか私が助かる方法はない、そう思い
目の前のウォーカーの頭にナイフを刺し込んだ時
ドサッと何かが倒れる音がした。


「平気か?」
『えぇ、平気よ…ありがとう』
「ジーザス…エリーを助けてくれたの?」
「(肩をすくめ) ケガがなくて何より。
 それに彼らが戻って来た時に君が死んでたら
 俺や仲間の命だって危ないだろ?自己防衛だ」


マギーと顔を見合わせ、またマギーの隣に並んだ。



「マギー」
「グレン!」
「平気か?」
「えぇ、あなたは?」
「大丈夫だ。みんな無事だ」


グレンが先頭で建物から出てくると一直線に
マギーの元へ駆け寄ってお互いの無事を確認している。
微笑ましくもあり、ちょっぴり羨ましくもある。


「エリー、問題はなかったみたいだな」
『えぇ、お兄ちゃんも問題はなかった?』
「あぁ。ジーザスの仲間も無事に救出した。
 ダリルとリックは最後尾だ。…出てきた」
『良かった。ジーザスが私を助けてくれたの。
 ウォーカーに襲われそうになったんだけど』
「ケガは?」
『ダリル、ケガはないわ。ジーザスのおかげ』
「(頷く)」
「全員車に乗るんだ!ヒルトップに向かう!」
『行きましょう』
「エリー、俺の隣に座れ」
『うん、分かった』


人数が少し増え、狭くなった車内。
ダリルは私を窓際に座らせてその隣に座った。


「ヒルトップに着いたらお前は後ろの方にいろ」
『うん、リックに後方を頼まれてるし、念の為
 ライフルも持って来てるからマギー達といる』
「あぁ。ハリーも後方にいるはずだ。離れるな」
『ダリルも気を付けて…ケガしないでね…』
「あぁ……」


ダリルの肩に頭を預ける。
しばらくすると車が突然止まった。
どうやらトラブルがあったようだ


「問題ない、到着だ」


ジーザスの言葉に全員が武装して車を降りる。
目の前には木で作られた壁が見えている。


「ここが―― ヒルトップだ」


ジーザス先頭で進み、私は言われた通りに後方へ。
隣にはお兄ちゃんが歩いている。


「止まれ!!」


男の威圧的な声に全員が武器を構える。
私もライフルを構え、門番の頭に狙いを定めた。


「出て来い!」
「待ってくれ」
「どういうことだ?」
「門を開けてくれ!ケガ人がいるんだ!
 ……悪いね。暇すぎてイライラしてる」
「武器を渡したら開ける!!」
「みんな、信用しろ!彼らは命の恩人たちだ」
「分かったなら今すぐ、槍を降ろしてくれ!」
「埒が明かない。リーダーを呼びに行かせろ」
「いや、分かったろ。武器は取らないし、
 こちらは弾切れ。槍と銃じゃ勝負は見えてる」


ジーザスの"信じてくれ"という真剣な瞳に
嘘はないと思う。……ないと信じたい。
リックも少し考えた挙句、銃を下ろせと指を回した。
そうして私達はヒルトップ内へと足を踏み入れた。


「俺たちを助けてくれて本当にありがとう。
 いつでも来てくれ。そこのトレーラーだ」
「電力会社の資材置き場から壁の材料を調達した」
『あのトレーラーは?あれも資材置き場から?』
「いや、緊急事態管理庁のトレーラーだ」
「なぜ、みんなここへ?」
「このバーリントンハウスは30年代に州に寄付され
 歴史博物館として公開された。周辺50マイルの
 小学生が過去はここに見学のために訪れたんだ。
 現代世界よりずっと前からここにある。
 世界が崩壊しても建っていると期待したのさ。
 上の窓から全方向を見渡せて安全を保てるしね
 さぁ、来てくれ。リーダーもいる。案内しよう」


見るからに凄いお屋敷の中に入ると
中も予想通りの素晴らしい光景だった。
こんな豪邸に一度は泊まってみたいと思ってたの!


「こりゃすげぇ……」
『…マギー、凄いわね…まるでプリンセス』
「ドレスとガラスの靴があれば完璧なのに」
『フェアリー・ゴッドマザーを呼びましょう』
「おかえりジーザス。来客か?」
「彼はグレゴリーだ」
「俺がここのボスだ」
「……俺はリック―」
「シャワーを浴びて来い。話はそれからだ」
『…どうして話すのにシャワーの必要が?』
「そうだ。俺たちにシャワーの必要はない」
「浴びて来い。清潔に保つのが大変でね…?」


グレゴリーの有無を言わさぬ態度に
私達は渋々ジーザスの後について上に上がる。


「マギー、君が彼と話せ」
「……どうして?」
「彼との話し合いは君の方が適任だ」


どこか不服そうなリックがそう言うと
マギーはしばらくしてから頷いた。
1番にマギーがシャワーを浴びて取り引きに向かう。
グレンはマギーの身を案じて付いて行きたがったけど
リックやお兄ちゃんに止められて、今は扉の前にいる。

私もシャワーを浴び終わり、ダリルの元へ。
するとエイブラハムがダリルに話しかけていた


「どうして身を固めようと思ったんだ?」
「……身を固めるなんて柄じゃねぇと思ってた。
 まさか俺が結婚したいと思うなんてな…
 死んじまった俺の兄貴が聞いたら驚くだろうよ」


そう言うとダリルは一度、言葉を止めて自分の手を見た。
私、なんだか盗み聞きしてるみたい…?(笑)


「……こんなクソみたいな世界だが……
 俺にとってあいつは…エリーは希望だ。
 何があっても俺はエリーを守り続ける。
 それを家族に誓いたかった。……いいか?」
「……あぁ、ありがとう」
『2人共、何の話をしてるの?』
「なんでもねぇ」
「男同士の話だ」


話を聞いてしまったけど、きっとダリルは今の話は
私に聞かれたくないだろうから知らないふりをする。
階段を降りているとダリルがこちらに近付いて来た


「何、ニヤニヤしてやがる」
『ダリルもちゃんとシャワー浴びたのね?』
「リックに言われたからな…仕方がなくだ」
『キャロルの時も素直に聞いてあげればいいのに』
「状況が全然違うだろうが」


ダリルが私の頭を小突いた時、扉が開いた。


「マギー、どうだった?」
「取引は無しよ。助けは要らないって」
「ここまで来たのに無駄足か?」
「取引したいが…必要なのは弾じゃない」
「そうか?」
「壁があるし、薬も入手した。望みは別にある」
「俺たちにも望みが―」
「食料だ。そのために来た」
「彼と話そう、説得してみせる。
 説得すればお互いの街の状況も必ず好転するはずだ。
 彼に理解させるよ…だから頼む、数日待ってくれ…」


さっきはグレゴリーがボスだって言ってたけど
真のリーダーはジーザスって感じかな…?
学校とかでよくあるじゃない?"影のリーダー"
ジーザスはそうなのかもしれない。

私がそんなことを考えていた時、
待機していたロビーに1人の男性が入ってきた。


「なんだ?」
「戻ってきた」


同じようにロビーへとやって来たグレゴリーに
男性が耳打ちをするとそそくさと外に出て行ってしまった。


「ジーザス、今日のところは引き上げる」
「あぁ、わざわざ来てくれてありがとう」
『私達の関係が良い方向に進むといいわ』


帰るため、全員で外に出る。
日が暮れる前にアレクサンドリアに戻らないと…
カールやジュディス、イーニッドのことも心配だし


「イーサン、他の者たちは?
 ティムやマーシャは?」
「殺された」
「ニーガンか?」
「あぁ…そうだ…」


ニーガン……
どこかで聞いたことのある名前……


『ねぇ、ダリル。ニーガンって…』
「(頷く)俺たちを襲った男たちのボスだ」


隣にいたダリルに耳打ちすると彼は頷いた。
そう…私たちがウォーカー誘導作戦の帰りに
出会った"あの男たち"のボスだと言っていた。
まさかその名前にまた出会うことになるとは…
でも一体ニーガンって何者なの…?


「取り引きしただろう?」
「約束より少ないって…」
「まさか!」
「クレイグが捕らわれた。
 あんたにメッセージを伝えたら生きて返すと…」
「言ってみろ。」
「………悪いね」


イーサンと呼ばれた男はグレゴリーに近付き
彼の身体に触れたかと思いきや、ナイフを
グレゴリーのお腹に刺し込んだ。
隣に立っていたはずのダリルがジーザスと
グレゴリーを支えている。


「放せ!仕方がないんだ!」


イーサンを拘束しようとするリックに抵抗し
遂には殴り合いが始まってしまう。
急な展開に頭がついていかない……
どうすればいいの…!?


『そんな!やめて!乱暴しないで!』
「エリーは医者を呼んで来い!
 マギーは俺と代われ!加勢する!」
『わ、分かった……』
「傷口を押さえるわ!」


私はハーランのいるトレーラーまで走った。
扉を開けると、驚いた顔のハーランがいた


「やぁ、君か。外は一体何の騒ぎだ?」
『すぐ来て!グレゴリーがナイフで刺されたの!』
「なんだって!?すまないが、そこの戸棚から
 包帯を持ってきてくれないか?先に行かせてくれ」
『もちろんよ。早くグレゴリーの所へ行ってあげて』


トレーラーを飛び出したハーランに言われた通り
戸棚に入っている包帯とガーゼを側のカゴに入れて
急いでグレゴリーの元へ駆けつけると
血だらけのリックが男性の死体の横に立っていた。

思わず言葉を失って立ち尽くしてしまう。


「エリー!!こっちにちょうだい!」
『え、えぇ…!傷はどう?』
「大丈夫だ。深くは刺さっていない」


ハーランとマギーが手際よく処置をしていく。
私は彼らにガーゼと包帯を渡した。
応急処置を終えたら彼の部屋に運び
そこで本格的に処置をする予定らしい。


「……何だ?」
「イーサン!」
「彼と俺を殺そうとした」


興奮した様子の女の子がリックを殴ったけど
リックに代わりミショーンが彼女を押さえた。


「やめな…!」
「銃を捨てろ」
「断る」
「みんなやめろ、終わりだ
 イーサンは仲間だが…
 卑怯にも俺たちを襲った。
 彼が悪い。彼らが止めた」
「……どうすれば?」
「銃をおろして…もう十分だ」


ジーザスの言葉にリックは銃を下ろし
町の人達も槍をおろした。


「分かってくれ、複雑な状況なんだ」


"時間をくれ"そう言うとジーザスは
ハーランやグレゴリーと建物の中へと消えた。
リックに殴りかかった女性はイーサンの元で
泣き声をあげている。側には先程の男性も…

街の人たちはぱらぱらと動き始めていた。
その時、エイブラハムが倒れたまま
先程から動いていないことに気が付いた。


『エイブラハム…?』
「おい、大丈夫か?」
「あぁ、気分爽快だ」
『良かった…全然動かないから
 ケガでもしたのかと思ったわ…』
「大丈夫だ。俺たちも中に行こう」


ダリル、エイブラハムと建物へ向かう。
2人ともケガがなくて良かった。
後はグレゴリーが無事ならいいけど…


「グレゴリーの処置が終わった」
『彼は大丈夫なの?』
「あぁ、命に別状はない」
「どうなるの?」
「こんなことはめったにないが落ち着いた」
「"ニーガン"と言ったな。
 ダリルたちが手下と遭遇した。誰なんだ?」
「"救済者"のリーダーだ。
 壁を建てた直後に奴らが現れた…
 ボスの代理が来て要求をのめと脅されたんだ。
 1人殺された……ローリーだ。彼は16歳だった。
 目の前で殴り殺された。理解させるためだと…
 グレゴリーは対立を避けた。
 俺とは考えが違うがここを維持して皆に好かれてる」
「彼が取引を?」
「半分渡した。物資も作物も家畜の半分も"救済者"へ」
「見返りは?」
「ここを襲撃せず、誰も殺さない」


そんな理不尽な話があるだろうか?
いつかデールが言った様に、法も秩序もない世界だ。
ウォーカーとじゃなくて人間同士が争うなんて…
せっかく私達はみんな生き延びているのに。


「向こうを殺せば?」
「武器があっても戦い方を知らないんだ。」
『それに槍だけじゃ倒すのは難しいわ……』
「相手は何人だ?」
「分からない。20人は見た」
「待てよ、ガキを殺されすべて半分渡した?
 あいつら全員、大したことねぇ奴らなのに」
「何が分かる…」
「1ヶ月前そいつらを殺した。バラバラにしてやった」
「俺たちがやる」
『ダリル…!!』


思わずダリルの言葉に横やりを入れたが
ダリルに手で制されてしまった。


「仲間を救い、ニーガンを殺す…
 そしたら取引するか?食料と薬と牛1頭だ」
「(首を振る)対立には慣れてるんでね」
「彼に話してみる。少し待っててくれ」


ジーザスが部屋を出て行くとダリルも部屋を出た。
私はダリルを追いかけて腕を掴んで引っ張った。


『ダリル、ニーガンを殺しに行くなんて正気なの?』
「取引するにはこれしか方法がねぇだろ」
『だからって自ら危険な場所に行くなんて!』
「エリー。あいつらがアレクサンドリアに
 来てからじゃ遅い。先に殺る。先手必勝だ」
『でも…ウォーカーを殺すのと訳が違うのよ』
「あぁ…分かってる。お前は必ず俺が守る…」


ダリルに抱きつくと彼も力強く抱きしめ返してくれた。

まだニーガンを殺しに行くと決まった訳じゃないけど…
人間同士で殺し合うなんて、そんなの恐ろしすぎる。
もしかしたら誰かが殺されてしまうかもしれない。
グレンがメルルに捕らわれた様に拷問されるかも…
そんな危険を侵してまで行く必要があるのか分からない。


「ダリル、エリー。交渉がまとまった」
「じゃあ取引を?」
「……あぁ」
『そんな…』
「リック達の所に向かおう」


リックの元に向かうと、医療品を貰ってきてくれと
頼まれたのでハーランがいるトレーラーに向かう。


コンコンコン


『ハーラン?エリーだけど入ってもいい?』
「エリー!ちょうど良かった!さぁ入って」
『グレン?どうしてグレンがここにいるの?』
「いまマギーの診察をしてもらってたんだよ」
『マギー?ハーランは産科医だったものね!』
「しかもエコー検査が出来るんだ!見てよ!」


グレンに手を引っ張られて中に進むと
診察台に横たわったマギーとハーラン
そして画面には赤ちゃんが映っていた。


「エリー、私たちの赤ちゃんよ」
『あぁ…なんだか凄く…感動的…』
「エコーの写真持って帰るかい?」
「えぇ、可能ならぜひ」


グレンがマギーの手を握って笑い合っている。
私はそっと画面に映っている赤ちゃんに触れた
早く元気に産まれておいで……


「また何かあったら来るといい」
「ありがとう、エリー行こう」
『先に行ってて。ハーラン先生に話が』
「行こう、マギー。エリーまた後で」
『うん。すぐ行くわ』


マギーとグレンがトレーラーを出て行き
不思議そうな顔をしたハーランと向き合った。


「それで?話ってなにかな?」
『ここには医学書は?お産の時に必要そうな…』
「マギーの為だね。少し難しいかもしれないが
 僕のとっておきの本を1冊あげよう。これだ」
『わぉ……ぶ厚いのね。読み応えありそう……』
「後ろには専門用語の解説本がついているから
 分からない時はそこから調べるといいと思う。
 どうしても分からなかったら僕に電話して。」
『ふふ…そうね、そうさせてもらうわ』


ハーランのジョークを聞きながら扉を開けると
ダリルが扉のすぐ側に立っていた。
その手はまさに扉に触れる手前だったらしい。


『ハーラン先生に用だったの?』
「いや……」
「君を迎えに来たに決まってるだろ?」
『本当?ありがとう、ダリル。行こう』


ヒルトップに一時の別れを告げた。
車の中ではマギーに寄り添われたグレンが
赤ちゃんの写真をミショーンに見せていた。
そしてダリル、エイブラハム、お兄ちゃんの手へと渡った。

エイブラハムは長い時間、その写真を見つめていた。





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