10

「エリー」
『ん…』


ダリルの声に眠たい目を開けると
もう服を着ているダリルがベッドに座り
私の手を握っていた。


『どこかに行くの…?』
「あぁ、リックと調達に行ってくる」
『じゃあ私も行くから少し待ってて』
「いや。エリーはここにいろ。
 リックがマギーの手伝いをしてくれと」
『マギーのお手伝い?』
「あぁ、ディアナが遺した"町の拡張計画"を
 マギーやミショーンを中心に始めるらしい」
『うん、分かった。ダリル、気を付けてね?』
「あぁ。リックと一緒だから平気だ。すぐ戻る」


ダリルは私の額にキスをすると部屋を出た。
ドアを持つ彼の左手に光る指輪を見つけて
思わず顔がニヤけてしまった。

私はベッドを抜け出すと服を着替えて下に降りた。
キャロルとマギー、グレンが朝食を取っていた。


「あら、エリーおはよう。ちょうどいいところに。
 カールがまだ寝ているみたいだから起こしてくれない?」
『おはよう、キャロル。分かった。起こしてくるね』


階段を降りきる前に2階に戻り、カールの部屋の扉を
ノックしたけど反応がないから中に入る。
ベッドの中にはカールがいて、すやすやと眠っている。
今日はこの少し汚れた包帯を変えないとね…


『カール、起きる時間よ!』
「……んん…」
『カール、起きて〜』


一向に起きる気配のないカール。
揺さぶれば呻き声と共に目が開いた


「………エリー?」
『おはようカール。起きる時間よ』
「パパは?」
『ダリルと物資調達に行ったわ。
 今日中には戻る予定みたいだったけど』
「ジュディスにご飯あげなきゃ…」
『先に降りてるね』


カールの返事を背中に1階へ降りると
私とカールの分の朝食が準備されていた。
キャロルにお礼を言って食べ始める。


『そういえば町の拡張計画ってどう進めるの?』
「まずは作物作りから始める予定よ。今日からね」
『私も手伝うわ。マギーの手伝いをって言われた』
「じゃあエリーは俺と種や鍬を探しに行く?
 サシャが言うには農家の家が近くにあるらしい」
『うん、行く行く。サシャも一緒に行くの?』
「あぁ。サシャとエイブラハムと行く予定だ」
「私はキャロルとトビンと畑を耕しておくわ」
「僕もそれくらいなら手伝えるよ、マギー。」


2階からジュディスを連れて降りてきたカールが
マギーの言葉に自分も名乗りを上げた。
マギーはにっこりと笑って"お願い"と言った。

私が朝食を食べ終わるとグレンはマギーにキスをして
"じゃあ行く準備をしよう"と言って外に出た。
私も外に出かける用のバックパックを用意し
外に出るとトラックの運転席にはエイブラハムが
既に乗り込んでこないだ見つけた葉巻を吸っていた。


『エイブラハム、おはよう!』
「おはようエリー。一緒に行くのか?」
『もちろん!もう準備は万端?』
「あぁ、いつでも行けるぜ」
「おはよう、エリー。グレンもすぐ来るわ」
『サシャおはよう。じゃあ荷台に乗ってるね』


きっと助手席にはサシャが乗るだろうから
私はトラックの荷台に乗り込んで座ると
家からマギーと歩いてくるグレンを見つけた。


「みんな気を付けてね。リストはグレンに」
「分かったわ。こっちのことは任せて頂戴」
「じゃあマギー行ってくるよ。身体に気を付けて」
「えぇ、あなたもね。エリーもケガしない様にね」
『ありがとう。行ってきます』


マギーに見送られながらゲートに向かうと
お兄ちゃんが見張りとしてそこに立っていた。


「どこか行くのか?」
「近くの農家に行ってくる。すぐ戻る」
「分かった。気を付けて行ってきてくれ」


エイブラハムと会話を交わした後、
ゲートを開け、車が通ると"無事に戻れ!"と
叫びながら私とグレンに手を振った。
私達も笑顔でそれに応えた。


『農家まではすぐ近くなの?』
「あぁ、そうらしい」
『家畜がいるといいんだけど…』
「家畜がいるとは言ってなかった」
『そう…じゃあ望みは薄そうね』
「今日の目的は家畜じゃないさ」
『その通りね。キュウリを育てたいわ!』
「俺はトマトかな…妊婦にも良さそうだ」
『トマトにはビタミンたっぷりだしね。
 すぐに育つラディッシュもいいかも』
「ラディッシュか…それもいいかもね」


グレンとどんな作物を育てたいかと
熱い議論を交わしている内にすぐに
サシャの言う農家まで着いてしまった。
人が住む為の家と物置き小屋が見える。
どちらも扉は閉まりきっていて不気味だ…


「どうする?先に家から行くか?」
「そうね。物資があるかもしれないし」
「おーけー。じゃあ行こう」


家の前に立ち、扉を叩くと待機する。
しばらくすると扉横の窓ガラスにバンッと音がし
女性のウォーカーが私達を捕食しようと叩いている。
少し後ろには年配のウォーカーも見える。

エイブラハムが扉を開けると年配のウォーカーは
扉から出てきた所、サシャのナイフで絶命した。
そのままエイブラハムは窓ガラス付近にいた
女性のウォーカーもナイフで倒し、音は静かになった。
物置き小屋の方からも音はしない。恐らく無人の様だ。


「俺とサシャで2階を見てくる。下は頼む」


グレンは扉横の書斎らしき部屋に進み
私はキッチンへ進んで棚を開け始めた。
棚の中にあった食料をバックパックに
詰めていると後ろからグレンの声がした。


「見てくれ。書斎に作物の育て方の本があった。
 それにネギとバジルの苗も。ネギはもう育ってる」
『こっちも食料が残ってたし、そこにはもやしも!』
「本当だ。でももやしってあまり栄養ないんだろ?」
『私も聞いたことがあるけど、ないよりはましじゃない?
 それに私、もやしって大好きよ?日本でも栽培してたわ』
「俺も良く食べてたよ。何より値段が安かったしね」


グレンと話しながら手に入れた物をトラックへと運ぶ。
グレンが家を出た所で、突然横から現れたウォーカーに
驚いたグレンは持っていた物を落として動きを押さえた。


『グレン!そのまま押さえてて!』


私は急いでナイフを出すと、ウォーカーの頭に突き刺し
絶命したウォーカーをグレンが足で蹴り飛ばした。


『グレン、平気?ケガは無い?』
「あぁ、助かった。ただ…バジルが…」
『新しい入れ物に移し替えてみよう。
 バジルよりもグレンが無事でよかった』


バジルを植えていたプランターは壊れてしまった。
小屋に行けばプランターくらいあるだろう。
とりあえず苗を端に寄せていると2階から
バタバタと階段を降りてくる音が聞こえた。


「どうした!?平気か!?」
「出た所をウォーカーに襲われたけど平気だ」
『被害はこれだけだよ。心配かけてごめんね』
「良かった…大きな音がしたから驚いたわ…」
『2階はどうだった?何か見つかった?』
「持って帰れそうなのは服と文房具くらい」
「あぁ、だがひとつだけ良い物があった。」


エイブラハムがさしだした物を見て
私達3人は頭に?を浮かべる。


「これはなんなの?」
「ソーラー発電器のパネルだ。子供部屋にあった」
『ずいぶん…小さいのね。使えるのかな?』
「町にある物に比べたら小さいがユージーンに渡せば
 何かしらの役に立ててくれるだろう。5つはあった」


エイブラハムの手にあるパネルは小さくて
なんとも彼のサイズに似合わない。
それを受け取ってバックパックの中に入れると
再び家の中に入り、作物の本をトラックに運んだ。


「じゃあ次は小屋に行く?」
「そうね。道具があるとしたらあっちよ」
『早く終わらせてお昼までに戻りましょ』


再びナイフを構えて物置きの小屋の前に立つ。
この建物は上下に開く扉らしく、エイブラハムが
人が1人だけ通れる隙間だけ開けてウォーカーが
中から出てくるかどうか待ったが、気配はなかった。


「……開けるぞ、いいな?」
「おーけー。いいよ」


念の為、全員で警戒しながらドアを開ける。
そこにはウォーカーはおらず、農作業の道具だけが
ぽつんと残されていた。


「エイブラハム、これがリストだ。
 エリーは向こうの苗と種を見てくれ。
 サシャはこっちの肥料や添え木を頼むよ」


グレンの指示に従って枯れていない苗と種を
トラックまで運んで、さっきグレンが落とした
バジルを新しいプランターに植えかえた。


「欲しい物は全部揃ったから戻ろう」
『使えそうな物が残ってないなら印を付けなきゃ』
「あぁ、そうだった。スプレーを持ってきた?」
『もちろん。はい、これ使って』


グレンが刑務所から愛用しているスプレーだ。
カチャカチャと振って、印を残した。

そして行きよりもかなり狭くなった荷台に乗り
私達はアレクサンドリアに向かって走り出した。





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