「エリー、見えたぞ!キャンプだ!」


キャンピングカーに立つデールの姿が見える。
やっと私達は帰ってきたのだ、この場所に…
張り詰めていた気持ちが緩むのを感じる。


『ただいま!!』
「アラームを止めろ!」
「どうやって!?」
『デールはなんて!?』
「アラームを止めろってさ!」
「アンドレア姉さんは!?」
「アラームを止めろ!!」
「アンドレア姉さんは無事なの!?」
「ボンネットを開けろ!早く!!」
「ねぇ!姉さんは!?無事!?」
「おーけー!おーけー!!」


アラーム音に加え、大声が4つ飛び交い
非常にうるさくて何を言ってるか聞こえない。
眉間にシワを寄せていると、アラーム音が止まった。


「どうして一緒じゃないの!?どこにいるの!?」
「大丈夫だ!大丈夫、帰ってくる。メルル以外は…」
「グレン……ウォーカーを引き寄せちまうだろ?」
「それなら大丈夫だ」
「なぜ大丈夫と分かる?」
「音が反響して場所は特定されない」
『そうよ。スピードも出てたし来れるわけない』
「言い合いはよそう、2人とも次から気をつけるんだ」
『了解、もっと用心する』
「俺も。悪かったよ。」


何よ。シェーンったら。
死ぬ思いをして戻って来たのに労いの言葉も無し?
私達が持って帰った物資を使うんじゃない。
街で必死に戦ってた間、ローリとよろしくしてた癖に…

むっとしてたらデールに肩を叩かれた。
そしてリックの運転する車が戻ってきた。


「エイミー!!!」
「姉さん!!!!」


アンドレアとエイミーがしっかりと抱きしめ合う。
2人は本当にお互いを思い合っていて、美しい姉妹愛だ。
私まで感動して、思わず泣きそうになってしまった。
モラレスも家族との再会を心から喜んでいる。
……ちょっと羨ましいな…
私も日本にいる家族に早く会いたい…

空を見上げると、今日も綺麗な青空だった。


「よく戻れたな」
「あぁ、新人のおかげだ」
「新人?」
「早く来いよ!ヘリコプター男!」
『ヘリコプター男?ぴったりのあだ名ね』
「はは、エリーも言うな」
「……パパ!」


グレンと笑い合っていると突然目の前を
カールが凄い勢いで走り去って行った。
"パパ"?でもカールのパパって確か……
不思議に顔を上げると涙を浮かべたリックが
カールとローリを抱きしめ、シェーンに頷いている。
ローリも目に涙を浮かべてリックを抱きしめているが
シェーンと同じく少し動揺しているのが分かる。

リックは家族にとても会いたがっていた。
カールもパパが死んでいると思っていても
とても会いたそうにしていた。
だからこの再会は素直に嬉しかった、けど…
ローリとシェーンの関係を考えると少し心配だ…


「ケガはないか?」
「ないよ!パパは平気なの?」
「あぁ。もう平気だ」
「これからはずっと一緒にいられるの?」
「もちろん、もちろんだ…もう離れるもんか…」


再びカールを抱きしめたリックを見て
隣にいたグレンが呟いた。


「良かったな」
『えぇ、カールもパパに会いたがってた』
「カールはまだ子供だ。父親が必要だよ」


誰もが彼らを温かい眼差しで見つめている。
するとTドッグが荷物を持ってきているのが視界に入った。


『Tドッグ、手伝うわ』
「あぁ、悪いな。そんなに多くはないんだけど…」
「俺も手伝うよ!持って帰って来れたものを見よう」


グレンと3人でトラックから荷物を運び出し、
食料や衣料などに分けてそれぞれの場所に片付けた。
あの人数で行った割には確保出来た物は少ない…
今回の大きな収穫はリックだろうな。
そして1番の失態はメルルを置いてきてしまったこと…

ダリルを悲しませてしまう事に私の胸は痛んだ。
帰って来てしまってから言うのもなんだけど、
どうにかしてメルルを助けられないかな…?
これじゃメルルもダリルも報われないし、
何よりずっとこの罪悪感を抱えて生きていくのは辛い…


「エリー、おかえりなさい」
『ソフィア!ただいま〜』


私の服を遠慮がちに引っ張るソフィアを抱きあげ
私の頭の上の高さでくるくると回るとソフィアは
声を上げて嬉しそうに笑ってくれた。
ソフィアだけじゃなく子供達はこの遊びが大好きだ。
いつもであれば誰か1人にやり始めるとみんなが
寄って来るんだけど、今日はパパとの再会で
それどころじゃないらしい。


「おかえりなさい。ケガはなかった?」
『平気よキャロル。こちらも問題はなかった?』
「えぇ。いつも通りだったわ」
『ダリルはまだ戻ってないの?』
「狩りに出たままよ。メルルはどうしたの?」
『あー……』
「実は屋上に置いて来てしまったんだ」


ローリ達と再会を喜んでいたリックが
ハグを解いて、メルルの件を伝えた。


「屋上に置いてきた?それは一体どういうことだ?」
「メルルは手がつけられなかった。
 だから俺が手錠で屋上のパイプに拘束したんだ」
「鍵は俺が預かってた。けど排水溝に落としちまった。
 結局、助けることが出来ずに生きたままそこへ…」
「生きたまま手錠に繋がれているのか?」


デールの言葉にまた沈むTドッグとリック。
もし、メルルを助けるとするなら早く戻らないと
ウォーカーに襲われなくとも彼の命は失われる。
特にこの炎天下、日差しを直に浴び続ける中で
水がないのはかなりキツいものがあると思うし…


「とにかく夕飯にしましょう。すぐ暗くなるわ」
「エリーと釣った魚を調理した物があるの」
「キャロルが魚のムニエルを作ってくれたのよ」
『本当に?ムニエルって美味しいから好きよ。』
「すぐ温めるわ。みんなは座っていて」
「キャロル、私も手伝うわ」
「いいの。今日は家族の元にいて、ローリ
 ソフィア、ママを手伝ってくれるわね?」
「うん、もちろんよ。ママ」


キャロルとソフィアが料理の為の火の元へと向かい
私達はいつもの場所に座って料理を待っていた。
たくさん走りまわったし、今日はもうへとへとで
お腹もぺこぺこだからすぐに食べられる状況は
とてもありがたいと思った。
昨日、エイミーと釣りに行って良かった…


「やっぱり俺も運ぶの手伝ってくるよ」
「Tドッグ。休まなくて平気か?」
「あぁ、動いている方が考えなくて済む…」


力なくTドッグはキャロル達の方へと向かった。
これはかなりダメージを受けているらしい。
元々Tドッグは心優しい人だから仕方がないけど…

やがてみんなの前に料理が運ばれてきて
キャロルお手製の料理に舌鼓を打った。
みんなで美味しい料理を食べていると
あっと言う間に辺りは暗くなってしまった。

たき火を起こし、その周りにみんなが集まる。
そして自然とカールを足の間に抱いたリックが話し始めた。


「狼狽した…"狼狽"って表現が…ふさわしい…」
「たとえどんな言葉でも表現し切れんだろう。」
「あぁ。非現実の世界へ放り込まれたようだった。
 永遠に目覚めることのない夢に閉じ込められたかと」
「ママが"死んだ"って」
「そう思って当然だ。あの状況じゃな…」
「事態が深刻になって病院に言われたの。
 "患者をアトランタに移送する"と。でもしなかった」
「そうだろうな。あんな所に移送できない。
 病院には死体があふれてた…ウォーカーも」
「見ての通りだ」
「助けられなかった…」


シェーンはリックから目線を外した。
私は彼とリックの関係や事情を全く知らなかったけど
どうやら彼を助けられなかった事を悔やんでいたらしい。
そんなこと…全然気が付かなかった…
皆をまとめていたシェーンにそんな想いがあったなんて。


「でも俺はお前に感謝してる。恩に着るよ」
「感謝の気持ちも言葉では現わしきれんな」


デールがそう言った時、シェーンの目線が動いた。
振り向くとエドがたき火に薪を投げ入れていた。
ちなみにその薪も私とグレンが集めた物だ。


「エド、火を弱めろ」
「寒いんだ」
「ルールだろ?"見つからない様に炎は小さく"だ」
「寒いんだよ。放っといてくれ」


どこまでも自分勝手なエドにシェーンは立ちあがり
彼の傍まで行くと座りこんでエドの目を見つめた。


「まだ続けるか?」
「いや…火を消せ。早くしろ」


薪を入れたのはエドのくせにキャロルに命令する。
自分で火を強くしたんだから自分で消せよ!
と思ったけど、言葉にはしなかった。
私はエドのことは大嫌いだけど、あんな男でも
キャロルの夫であり、ソフィアの父親だ。
私の一言で何かあっても困るわけだし…


「キャロル、ソフィア、平気か?」
「えぇ、問題ないわ。ごめんなさい」
「いいんだ…良い夜を。ご協力どうも」


シェーンは最後に2人を気遣うとこちらに戻って来た。
キャロルはあんまり大丈夫そうには見えなかったが、
デールの言葉に意識はこちら側に戻った。


「ダリルがなんて言うか…兄貴が置き去りにされた」
「俺が鍵を落とした」
「俺が手錠をかけた」
「誰から伝えても同じだろうけど白人の方がマシだ」
「いや、俺の責任だ。それは隠せない…」
『Tドッグ、あまり自分を責めるのは良くないわ』
「そうよ。ダリルにはウソをつけば?」
「メルルは手がつけられなかった。
 みんなの命が危なかったの…手錠が必要だった。
 メルルが屋上に置き去りにされたのは自業自得よ」
「そうダリルに言うか?そんな説明で納得しない。
 彼が狩りから帰る前にどう言うか考えなくては」


どう言うか……
ありのままを伝えるしかないと思う…。


「実はドアにチェーンを巻いてきたんだ。
 あそこの階段は狭いから大勢は上れない。
 あのドアも通れないはずだ。南京錠もかけた。
 つまり…メルルは生きたまま屋上で手錠を…」


Tドッグはそう言うとテントに向かった。
屋上の最後の様子を知らないけど…
恐らく食料も水も彼は持っていないはずだ。
生きたまま屋上に繋がれるメルルを想像して
あまりの恐怖にゾッとした。
今、彼はどんな気持ちでいるのだろうか。
メルルとは言えきっと恐怖に慄いているだろう…


『メルルを…助けに行かなくていいの…?』
「何言ってるんだエリー!奴らを見たろ?
 あの数の中、助けに戻るなんて無茶だって」
「そうよ。悪いけど、私は絶対に行かないわ」
「どちらにしろ今日はもう暗すぎて無理だ。」
『そうだよね、うん……ごめん。忘れて…?』
「さぁ、もう遅い。そろそろ寝るとしよう。」


デールの言葉にみんな頷きテントに向かう。
私も素直にテントの寝袋に潜り込んだけど…
なかなか眠りにつく事が出来なかった。




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