今日は物資調達日にぴったりの快晴だ。
準備を済ませると運転がダリル、助手席に私、
後部座席にアーロンとトビンが乗り込んだ。

私達のグループで外に慣れていないのはトビンだけ。
今もそわそわとしているのが手に取るように分かる


『トビン、平気?』
「あぁ、平気だ。少し…緊張していてね」
「大丈夫だ。僕達が付いてる」
『それに昨日、地下1階のウォーカーは
 ほとんど外に出してあるからまだましよ』
「移動してなければな」
『数は少ないし精鋭陣が来たから平気よ』


そう、こんなに戦闘力の高いメンバーで来たのだ。
きっと大丈夫。私達は全員、無事に帰れるはず…

そんな時、リックから無線が入った。


「エリー、グレン」
『どうしたの?リック』
「ハロー?聞こえてるよ」
「まもなくビルに着く。裏の駐車場に止めてくれ」
『「了解」』


ダリルは頷くと、前を走るリックの車に続いた。
昨日、私達が訪れたビルに到着したのだ

車を降りて、大きなバックパックを背負った。
ここからは二手に分かれて作業開始だ


「予定通り二手に分かれる。
 マギー、ここのガソリンを全て頂いてくれ。
 ここだけでも十分だが、余裕があればあっちも」
「分かったわ。リック」
「トビン、マイクは建物内のウォーカーを一掃したら
 物資運びを手伝ってくれ。それまではガソリンだ。
 モーガンもマギー達を頼む。後のメンバーはこっちだ」
「マギー…気を付けて、何かあったら逃げるんだぞ」
「分かってる。あなたも気を付けて」


マギーとグレンがキスを交わす。
この2人はどこにいようがぶれないな。


「先頭は俺とダリル。後方にサシャとグレンだ。
 まずは地下に降りて食料を確保してから上に行く」


リックの指示通りに地下1階に降りると
ウォーカーがいたが、数も少なくすぐに一掃出来た。
ノアの故郷で手に入れたワイヤーは汚かったから
もうそこに捨てて来てしまった。

さて、問題は昨日チェック出来なかった地下2階だ。
リックとダリルが降りて行ったが、すぐに戻って来た


「ウォーカーがかなりいるが、地下2階の方が
 缶詰や乾物が多く置かれてるみたいだ…」
「始末するか?」
「そうだな……」


リックは地下2階を見つめたまま考え込んでいる。
私はふと隣にいるミショーンを見て思いだした。
刑務所に初めて彼女が現れた時のことだ。


『ねぇ、ミショーン』
「どうかした?」
『初めて刑務所に来た時、ミショーンってウォーカーに
 存在を気付かれていない様だったけど、どうやったの?』
「奴らの血とか、体の一部を持って匂いを消してたんだよ」
『じゃあここでも同じ事が出来ない?
 大多数は照明弾とかライトとかで気を反らせてさ』


私の言葉にリックが顔を上げた。
グレンも何かを思いついた様な顔をしている。


「リック、俺達だってやったじゃないか。
 トレンチコートに奴らの血を付けてさ」
「ロジータ、エリー、サシャは羽織れる物と
 手袋を1階から探して来てくれ。他のメンバーは
 地下1階に戻ってウォーカーを集める。行くぞ」


サシャが先頭で1階に戻り、コートや手袋
フェイスガードも見つけて急いで下に降りる。
地下2階潜入班はリック、ダリル、グレン
エイブラハムの4人だ。


「下がっててくれ…」
「またこれを着ることになるとは…」


グレンは既に嫌な顔をしている。
ダリルも眉間にしわが寄りまくっている。
私はダリルに近付くと背伸びをして眉間を押した


「なんだ?」
『眉間に皺の跡が付いちゃうよ』
「そんなのどうだっていい」
『かっこいい顔が台無しになる』


私が笑って言うと鼻で笑うダリル。
余裕そうな表情はその後すぐに聞こえてきた
ウォーカーを斧で潰す音のせいで消えてしまった。
私も思わず眉間に皺を寄せて上を向いた。
これ、見てしまったら吐くと思う……


「グレン」
「うぅ…分かった……」


音が一度止み、グレンの名が呼ばれると
今度はぐちゅぐちゅとまた嫌な音がした。
そして再び聞こえる斧でウォーカーを潰す音…
これを4人分繰り返し、完全武装した4人は
強烈なにおいを放っていた。


「照明弾をあそこに。こちらの物資を運び終えたら
 撃ちこむ場所も臨機応変に変えてくれ。頼んだぞ」
「あぁ、分かった。任せてくれ」


照明弾を持っているのはヒースとアーロン。

照明弾を放ち、4人が下に降りて行ったのを確認すると
私、ミショーン、サシャ、ロジータは1階から椅子や
重機を持ってきていつでも地下を防げる様に準備した。
リック達が戻ってきたらウォーカーが出てこられない様に
物を積み重ねて閉じ込めてしまう作戦だ。

物を運んでいると2階からウォーカーが降りてくるので
ミショーンが用心棒的な役割を果たしてくれた。


「リック達がこれを運んで欲しいって」
「トビンとマイクも呼んで来るよ」


ミショーンがトビンとマイクを呼びに行き
照明弾をヒースとロジータが交代した。
リック達が運んできた缶詰を私達が上まで運び
マギーとモーガンが車に乗せた。


『ダリル、まだまだ物資はある?』
「あと1周したら終わりだ。次の準備しとけ」
『分かった。後少し気を付けてね』
「あぁ…早くこのマント脱ぎたいよ…」
『グレン頑張って。』


私の言葉に頷いて去ったダリルと交代で
か細い頼りない声で嘆いたのはグレンだ。
対象的な2人に思わず笑みがこぼれる。


「まずい……照明弾がラストだ、急いでくれ」
「分かった、リック達にも伝える」
「予備の照明弾は?」
「ダリルの車の中」
「エリー、車の鍵は?」
『ダリルが持ってる……』


先程、撃ちこんだ照明弾は今にも消えかかっている。
お願いだから間に合って…みんな無事に戻って来て…


「トビンとマイクはこれを持って行ったら車にいて」
「あぁ、分かった。行こう、マイク」
「エリー、サシャ、ロジータは援護射撃が
 出来るように準備して。私達はナイフと刀だ」


すぐに投げられそうな物を近くにおいてから
ライフルを構えて4人の帰りを待った。
最初にグレンが見えたが、顔がかなり焦っている。


「まずい、すぐバリケード出来る準備だ!」
「分かった。グレンは上にあがりな」


1階から持ってきた棚をミショーンとアーロンが支え
彼らが戻り次第、下に滑り落とせるように準備をした。
グレンは上にあがると凄い速さでコートを脱ぎ捨てた。
そんなに嫌だったんだね、そのコート…

次に戻って来たのはエイブラハム、
すぐ後ろにダリルとリックも見える。


「落とせ!棚を落とせ!」


エイブラハムの言葉を受けて棚を滑らせる。
2つ落とした所で、エイブラハムは棚を乗り越えて
次に来たダリルとリックに手を貸して引っ張り上げた。

3人が無事に棚を越えたのを確認すると
追いかけて来ているウォーカー目がけて
投げられそうな電話やお洒落な鞄を投げる。
堅くて角張ってるから効果はあると信じる!

リック達は重機を落として、ウォーカーが
出てこられないくらいのバリケードが完成した。

銃の弾を使わずに済んだのは奇跡かもしれない。


『ダリル、ケガは無い?』
「あぁ、鼻が効かねぇけどな」


腐敗臭に包まれていたせいで嗅覚が鈍ったらしい。
"二度と着ねぇ"と行ってコートをバリケードに投げ捨てた。
リックとエイブラハムも向こうで同じ行動をしている。
なんだかおかしくなってくすりと笑った。


「笑ってるなんて余裕だな」
『だってあの4人が全く同じ行動を取るから』


ヒースは肩をすくめて見せた。
物資調達班とは言え私達ほどの死線を
潜り抜けてきた訳ではないらしい。


「1階から上を見に行こう」
『そういえば店内マップがあったよ』
「それは助かる……2階はあまり用は無いな…」


2階はブランドコーナーだ。
今更ブランド品で着飾っても意味はないだろう。
でも私には行きたい場所があった。


『リック、ここに行きたいんだけど…』
「なんだ?ディズ●ーストア?」
『タオルとかパジャマやお菓子もあるし、
 子供の可愛い服とか鞄もあると思うんだ。
 私…キャラクターグッズが好きだから…だめ?』
「私も一緒に行くわ。女の子は可愛い物好きなの」
「分かった。ウォーカーに気を付けろよ」
『ありがとう、リック!ロジータ!』
「そこが終わったら4階捜索班に合流してくれ」


ロジータと4階までウォーカーを殺しながら進み
お目当てのディズ●ーストアに辿り着いた。
中に入り、小さな女の子のウォーカーを見つけた。
ボロボロの姿がソフィアと重なって…動けなかった


「エリー?」
『ごめん…知り合いと重なって…』
「気にしないで。ショッピングを始めましょう」


まずはタオルやハンカチ、食料をリュックに詰め、
イーニッドの為にノートやペン、ジュディスの為に
可愛い小さな人形と服、自分の為に可愛い時計と
キャラクターのパーカー、タンブラー、食器
それからR2-D2を組み立てられるおもちゃのキット
ハンドスピナーやラジコン、シュシュを詰め込んだ。
キットやラジコンはストア内にあったエコバックに…

こうなる前は日本でもディズ●ーストアに行って
友達とお揃いのピアスを買ったりしてたっけ…


「エリー、行きましょう」
『えぇ、行こう』


4階の捜索班と合流し、物資を集めた。
主に服や生活雑貨のフロアだったらしく
包丁やお鍋、砥ぎ石なども手に入った。


『これを運ぶわね」
「あぁ、頼む」
「エリー、少しマギーと代わってくれないか?」
『えぇ、いいわよ。これを車に置いたら交代するね』
「ありがとう。3階にべビー用品店があったんだ。
 マギーに一緒に見ようって伝えといてくれる?」
『分かった。少し待っててね』
「エリー」
『ダリル、どうしたの?担当の階は?』
「終わった。車に戻るのか?」
『えぇ、マギーと交代』


ダリルは頷くと手を出した。
なんだろう…?


『えーっと…?運んでくれるとか?』
「違う、手を重ねろ」


ダリルの手に自分の手を重ねると
確かめるように何度か握りしめた後、
満足したのか手を離した。


「良い子にしてろよ」
『ダリルもね』


下に降りるとモーガンがいて、荷物を受け取ってくれた。


『ありがとう、モーガン』
「あぁ、いいんだ」
「エリー!中は順調そうね?」
『マギー。物資の量はどう?』
「上出来だわ。歯磨き粉もあるしね」
『ミショーンが喜ぶ。そういえばグレンが呼んでた。
 3階にべビー用品店があるから一緒に見ようって』
「本当?行ってきてもいい?」
『もちろん。ここは私が見てるから』
「すぐ行って戻って来るわ!」
『ゆっくり見てきたらいいじゃない』
「マギー!待って。一緒に戻るよ」
『アーロン。マギーの事よろしくね』


ちょうど荷物を持って降りてきたアーロンと
マギーはグレンの元に向かった。
私は車に荷物を積み込むモーガンに近付いた。


『少しの間だけ選手交代よ』
「あぁ、よろしく。エリー」
『よろしくね』
「君とはあまり話した事がなかった」
『そうね。私は外にいる事も多いし』
「それに君には勇敢なナイトがいる」
『"勇敢なナイト"?ダリルのこと?』


ナイトの服を着ているダリルを想像したら
おかしくて笑ってしまった。
確かにダリルは男前だけど、髪も長いし
ナイトの服を着るにはちょっとおじさんだ。
こんなこと言ったら絶対怒られるけどね。


『あー、笑った。変な事言わないでよ』
「変な事じゃないさ。君が変な想像したんだろ?」
『そうね、そうだったわ』
「君はリック達とは長いのか?」
『えぇ。あなたがリックと別れてすぐ出会った。
 それからメンバーは入れ替わったりしたけど
 みんな一緒に過ごしてきたわ。もう私の家族よ』
「そうだな…」
『あなたも家族になれるわ。そうでしょ?』
「あぁ。リックから君はかなりの"おてんば娘"だと
 聞いてるぞ?これからは家族同然に注意していこう」
『げっ。それはちょっと勘弁かも…』
「楽しそうだね」


突然聞こえてきた声に振り向けばミショーンがいた。
後ろには顔を顰めているマイクも。


「マイク、車に乗ってな」
「ごめんなさい…」
『マイクはどうしたの?』
「転んで足をひねったんだ」
『わぉ…痛そうね…どこかに湿布があったはずよ』
「この中から探すのは大変だよ。もう調達も終わるし
 帰ってから診療所で手当てした方が早いと思うね」
『そっか。じゃあ少しの間、我慢してもらおう』


ミショーンが言ったように続々とビルから出て来て
最後にリックが出てくるとペイントスプレーで
"中にはウォーカーのみ。物資は無し"と書いた。


人が乗るスペースにも積み込まれた荷物を
膝に抱え込んで席に座り、ビルを出発した。
マイクが足をひねっただけで他に死者も出ず
大量の物資をゲット出来て良かった。


私達は無事に家へと戻って来れた。






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