「窓を覗いてみて、エリー」


サシャの指差す方を見ると愛しいあの人がいた。
私は持っていたライフルを落とすと走り出した。
ダリル、ダリルがいる!彼が生きてここにいる!


『ダリルっ!!』
「エリー…!」


抱きつくと、力の限り抱きしめてくれる。
ダリルの顔を見つめて、私は彼にキスをした。
私の頬を片手で触りながらキスに応えてくれる。
何度目かのキスを終えた時、後ろから咳払いが聞こえた


「ごほんっ、うほんっ」
「お前達…いたのか…」
「1番にここにいたのは私達よ」
「無事でよかった……
 待て、お前。その格好はなんだ?」
『え?これ?軍隊さんの制服らしいよ』
「ごほんっ。保護者とお揃い仕様だ」


エイブラハムが再び咳払いをして胸を張った。
ダリルは私とエイブラハムを見比べていたが
やがて眉間に皺を寄せて、小さくつぶやいた。


「ありえねぇ…いますぐ脱げ!」
『えっ!?やだよ!服ないもん!』
「ダリル、少しくらい許してあげて」
「他にも驚く事があるぞ」
「はぁ…まだあんのかよ?」
「エリーが着ているのは子供用だ」
「は?」


少しの間、考えるそぶりをしていたが
"だから保護者とお揃い仕様か…"と言うと
何度か頷いてエイブラハム達の方を向いた。


「車は?」
「壊れたわ。途中で乗り捨ててきた」
「だが戦利品がある。中で見てくれ」
「あぁ、分かった。エリー、行くぞ」
『えぇ…これダリルが見つけたの?』
「そうだ。森の中で見つけた」


"パトリック燃料社"と書かれた車。
燃料を見つけてくるなんてさすがダリル!
エイブラハム、サシャに続いて中に向かうダリルに
"早くしろ"と声をかけられて急いで後を追った。

中で私と2人が集めた物資をチェックし合う。
そういえば私は着いてすぐにシャワーに行ったから
物資のチェックもしてなかったんだった。


「凄いな…これだけの物をどこで?」
「すぐそこのトラックで見つけた。
 ロケットランチャーはウォーカーが」
『うわぁ!凄い!映画の中でしか見た事ないよ!』
「おい、勝手に触るな!暴発したらどうする!?」
『だってカッコイイんだもん!私が撃ちたい!!』
「あ?そんなの知るかよ。いいから貸せ!」
『サシャ〜!なんとか言ってよ!いいでしょ?』


私とダリルのやり取りに苦笑いのサシャ。
エイブラハムは葉巻を吸って笑っている
葉巻が良く似合う男性だなぁ、おい。


「撃つ機会があれば撃たせてもらって」
『そうね、その時は撃たせてね!ダリル!』


そう言うとダリルはとても嫌そうな顔をした。
そこまで嫌そうな顔しなくてもいいじゃん…


「他には武器はなさそうか?」
「まだ街全体は探してない。」
「まだ他にもあるかもしれないわね」
「手分けして探してみるか?」
『燃料車に乗るスペースはあるの?』
「いや…3人乗ればスペースはない」
「じゃあまた今度?」
「それまでに取られなければいいけどな」
「他に武器がある確証もない。
 町に戻ってウォーカー達を誘導しねぇと」
「使えそうな車はなかったわ。途中で探しましょう」
「最悪、この車かエリーのバイクでやるさ」
『そういえばダリルのバイクはどうしたの?』
「あぁ……盗まれた。森で会った奴らに」
『ケガは!?大丈夫なの?』
「かすり傷だ。町に戻ったら消毒してもらう」
『本当にかすり傷なの?見せて』
「エリー、今は町に戻る事を考えろ」
『……分かった』


むっと口を膨らませるとダリルが頬を引っ張った。
"いひゃい!"と抵抗をしたけど離すことなく
今からどうやって家に帰るのかを話し始めた。
本当に、結構痛いから離して欲しいんだけど…


「よし、それでいきましょう」
「エリーが集めた武器も車に乗せるぞ?」
『えぇ、ひとまずハンドガンがあれば十分よ』


ハンドガンとナイフ、水以外の荷物を預けて
バイクに跨るとダリルの車のななめ横を走った。
運転しながらダリルが無線で声をかけ続ける。
今の所、グレンも町の人も応答がない……


「リック、聞こえるか?誰か?」
「助けて……」
「おい、どうした?何があった!?」
『……今のってユージーン?』
「あぁ、あの腰抜け野郎の声だ」
「町でまた何かあった。急ぐぞ」


ユージーンのか細い声に不安が襲う。
飛ばす車に付いて走った。
この辺りはウォーカーがいなくて良かった…

しばらく走っていると目の前にバイクの集団が…
あんなところで道路を通行止めして…なに?


『ダリル?』
「見えてる」
「何やってんだ?」


ダリルがスピードを緩めたから
私も車の横にバイクを止めた。

すると真ん中にいた男性が手を広げた。
うさんくさい笑顔を浮かべている。


「降りるんだ。抵抗するか?
 いいさ、やってみろ。だが殺すぞ?
 まずはバイクのお嬢ちゃんから殺す。
 頭を真っ二つにかち割ってやる。
 さぁ、今すぐこっちに出て来い。」


車のドアが開く音がして見上げると
ダリルが降りてきて私を見て頷いた。
どうやら戦う意思はないらしい。
私もバイクから降りて彼に続いた。


「最高だ。大物が釣れた
 第2ステップだ。武器を渡せ」
「なぜだ?」
「お前の物じゃない。
 武器もトラックも燃料も小物入れのミントも
 隠してあるポルノも小銭もシートもマットも
 地図もナプキンもお前達の物じゃないんだ…」
「じゃあ誰の物?」
「ニーガンの物だ」


ニーガン…?
この人達のボスのことだろうか?


「給油車を入手出来る奴らなら―
 ボスも興味を持つ。武器を頂こう」


そう言うと近付いてくる男。
"出せ"と言うとダリルはハンドガンを渡した。


「ほら、お譲ちゃんも」
『……どうぞ』
「ありがとう」


"ありがとう"?
胡散臭い笑顔を浮かべて何を…
サシャ達の方へ行く奴を睨んだ。


「クソを食う時は味わわない方がいい。
 ちぎって、噛んで、飲み込む。すぐ済む」


そう言うとエイブラハムから銃を受け取った。


「あんたたちは?」
「気になるだろうが、俺達も質問がある。
 聞くのは俺達だ。お前達の家に向かう間にな。
 見せてもらおう…まずはお前達から―
 "何を奪えるか"だ 」
「もう奪った」
「よせよ。言わせないでくれ。
 もっと何かあるんだろ?そういうもんだ」
『ウォーカーに囲まれた家しかないわ』
「行けば分かる。ティー。後方へ連れていけ」
『ダリル…!』


ダリルはティーと呼ばれた男に連れて行かれた。


「ちぎって、噛んで、飲み込むの繰り返しだ」
『ダリルをどうするつもりなの!?ニーガンって誰!?』
「キンコーン。地獄の鐘だ。いつもなら撃ち殺しながら
 自己紹介するが、生かす価値がありそうだ。
 軍服なんぞ着てやがる。そこの男と同じ軍服だな?」


うっぷ…
もしかしてエイブラハムと夫婦に見られる?
なんてのんきな考えが頭に浮かんだが、すぐに消えた。
銃を突きつける男を黙って見つめた。


「家に連れてってもらうが、殺した奴の仲間と
 相乗りするとはな…!質問はするなと言ったのに
 このアジア人ときたら…残念だ。俺を誤解しないでくれよ」
「待って…!お願い、待って…殺さないで…」
『彼女に銃を向けないで』
「静かにしてて。彼と話してる」
「いや、話はない」


男は私とサシャに銃を向けたが、
力なく降ろしてこちらを見て笑った。


「殺しはしない」


サシャがほっと息をつくのが見えた。
私のせいでサシャが撃たれなくて良かった…


「いや、待てよ…やっぱり、殺す」


そう言った瞬間、爆発音がして男達が弾け飛んだ。
炎が上がり、爆発の衝撃で私達もよろめいて尻もちをついた。


「ゴホゴホ…」
『ゴホッ、なに…?ゴホゴホ』
「ダリルがロケットランチャーを使ったのよ」
『えっ!?こんなに威力あるの?ゴホッ』
「平気か?手こずったぜ」
「切られたの?」
「かすり傷だ。クソ野郎どもめ…」
『ダリル、大丈夫?すぐ戻って手当てしよう』
「あぁ、そうだな」


ダリルにぶっ飛ばされてグロテスクになった奴らを
ほったらかして私達は町に向かって走り続けた。
朝、作戦を開始してからだいぶ遠くまで来てしまった…

ユージーンの声が頭から離れない。
もう仲間を殺されるのはごめんだ…
お願いだから…間に合って…





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