リックが走り去って行くのをミラー越しに確認し
私もダリル達がいるであろう方向に走り出した。
ウォーカーを全員引き連れることは不可能だけど
これで町に向かう数はかなり減ったはずだ…
本来であればすぐに無線でダリル達に連絡して
現在地を確かめたかったんだけど、周りには既に
ウォーカーがたくさんいて無線を使う余裕は無く
とにかく避けながらウォーカーを誘導した。
私がバイクを運転しながら銃を撃てたらいいけど…
今度はそれを練習してみよう。

ある程度、距離が取れた所で無線を付けた。


『ダリル、こちらエリー。
 ウォーカーを連れてそっちに向かってる所。
 RV車は故障。リックは走って町に戻ったわ』
「……無線も持たずか?」
『えぇ。リックの無線は私が持ってる!』
「町に無線の予備がある。大丈夫だろう」
「そうだな。とにかくこっちに向かえ!」
『了解。いまどれくらいの所にいるの?』
「10マイル越えたくらいか?」
「そうだ。道は予定通り。分かるか?」
『分かる!15マイル付近で合流しましょう!
 でもこちらが間に合わなければ先に進んで!
 20マイル付近で群れを合流させて離脱する』
「「了解」」


ダリル、エイブラハムとの無線を終えて
ウォーカーを置いてけぼりにしない様に
ゆっくり、のんびりと歩みを進める。


『もう…どこにも集中力のない奴はいるもんね』


少し先に進み、バイクを止めると
ふらふら〜と町に向かおうとする奴の頭を
サプレッサーを外したライフルで撃ち抜く。
銃声のおかげで奴らの意識は再びこちらへ
近付くのを待ってからまたバイクを走らせた

その作業をしばらく繰り返していると
ダリルから無線が入って来た。


「エリー!いまどこらへんだ?」
『えっと…まだ15マイルには遠いかな…』
「俺達はまもなく予定地点に到達するぞ!」
『じゃあ先に進んで!20マイル進んだら
 町に戻ってリックが連れて帰っちゃった
 残りのウォーカーをどうにかしなきゃ!』
「そっちは?エリーひとりで平気か?」
『うん、今の所は問題ない!だから進んで!』
「分かった!追いついたら一緒に町に帰る!」
「エリー、十分気を付けてね!」
「あとで会おう」
『了解!3人も気を付けて!』


無線を切り、再びウォーカーに集中する。
後ろの方の群れがどうなっているかまでは
私には分からないけど、おそらく順調だ。
バイクを遠くに止めてライフルで後方を見る。
……うん、特に群れから出ている奴はいない

ひと息ついた時、真横から唸り声が聞こえた。
ライフルを覗いていて気が付かなかったけど、
森の中からウォーカーが出て来ていて私を
食べようと腕を伸ばしているところだった。


『うそでしょ…!こんな所で死ねない…!』


ウォーカーの口にライフルを押し込み遠ざける。
こいつを早くどうにかしないと群れが来る…!

ウォーカーの体を蹴り飛ばし、ライフルで
頭を撃ち抜くとすぐに群れから離れた。
危ないところだったけどなんとか切り抜けた…
はぁ…油断していた訳じゃないのに……
心臓の音がうるさい…これも生きている証だ。


それからは今までよりも注意を払って走った。
採石場にいたウォーカーだけでなく、森の中を
ふらふら彷徨っていたウォーカーも音と匂いに
釣られてこちらに出てくるのを忘れずに…


「おい、エリー。問題ないか?」
『問題ないよ。そっちは?もう20マイル?』
「あぁ。まもなく終了地点に到着する」
「サシャとエイブラハムは先に町に戻れ」
「どうして?ダリルはどうするつもり?」
「エリーの元に戻って奴らを誘導する」
「まずはこいつらを最後まで誘導してからだ」
「……あぁ。そうだな……」
『また後で連絡くれる?私は現在12マイル付近よ』
「分かった。また後で連絡する」


第一陣が無事に誘導を終えそうで安心した。
後はこいつらをちゃんと誘導して、町にいるのも
誘導&射殺してしまえばしばらくは安泰のはず…
そういえばグレンから連絡がないみたいだけれど
ちゃんと町に帰る事が出来たのだろうか…
リックから連絡がないのも気になるし。

そんなことを考えているとリックから無線が入った。


「ダリル、サシャ、エイブラハム、エリー。
 こちらリック。いま町に到着した。問題は?」
「問題はない!町はどうだ?」
「襲撃を受けた。キャロルが武器庫を占拠。
 町に襲撃してきた奴らは撃退したらしいが…
 ひどい有様だ。住民が何人も死んでいる」
『グレンは?無線で連絡もないけど戻ってる?』
「いや…戻っていない。だが必ず"しるし"を
 あげると言っていたらしい。見つけたら教えてくれ」
『"しるし"…?分かった…あとの家族は全員無事?』
「あぁ、無事だ。ハリーも見張りに立っている」
『無事で良かった…こちらも問題ないよ』
「いまどこら辺だ?20マイルはもうすぐか?」
「俺達はもうまもなく着くが、エリーはまだだ」
「そうか…町にいるウォーカーをどうにか誘導して
 引き離す事は可能か?多数の奴らが町に来てる」
「あぁ、可能だ。サシャとエイブラハムを戻す。
 俺はエリーのウォーカーを誘導後、合流だ」


エリーのウォーカーってなんか嫌な響きだ。


「それで頼む。すまない…」
「町と家族のためだ。気にすんな」


ダリルとリックの会話を聞きながら
群れから外れるウォーカーを撃ち殺す。
ライフルは無理だけど、ハンドガンなら
運転しながらでも撃てる様になってきた。
遠いウォーカーに当てられないけどね…


「20マイルに到達して離脱したわ」
「エリー、お前いまどこ…っ!?」
『ダリル?サシャ!エイブラハム!?』


ダリルの声が途切れ、銃声が響き渡る。
そしてすぐに無線は切れてしまった。
一体何が…?リックの様に襲撃に…?
でもあの銃声はそれしか考えられない…
どうしよう、どうすればいいの…?
本当は今すぐ駆けつけて助けたい!
でもウォーカーを誘導するという役目がある。
それに私が行った所で足手まといは確実…
彼らは戦闘員の中でも群を抜いて強い。
きっと生きてる…大丈夫……

震える手をぎゅっと握りしめてバイクを走らせた。



「サシャ!エイブラハム!」


しばらくしてダリルから無線が入った。
良かった…彼は生きている…
でも2人と逸れてしまったらしい…


「サシャ!エイブラハム!くそっ…!」
『ダリル、エリーよ。何があったの?』
「くそ野郎どもに襲撃されて2人と逸れた」
『分かった…誘導が終わったら探してみる』
「お前いまどこにいる?終了地点付近か?」
『ううん、まだ5マイル以上ある所にいる』
「そうか…敵がまだ近くにいる可能性がある
 車が見えたらとにかく隠れろ。いいな?」
『分かった。ダリルは2人を探して』
「あぁ。見つけ次第、また連絡する」


私もあまり銃声を響かせない方がいいかも…
ウォーカーだけでなく"人間"も引き寄せる。
もうここまで来たらそれても平気だろう…

また少しバイクを走らせるとライフルと
ハンドガンにサプレッサーを付けた。
これで銃を撃っても音が軽減される…


それからダリルからもサシャ達からも
グレンからも連絡は無く、終了地点へ。
彼らはどうなってしまったのだろうか…

そして向こうの群れが見えて来て気付いた。
私はどうやってあの群れにこの群れを
合流させればいいんだろうか……
近付けば私が襲われるけど、ウォーカーの先頭は
もういないダリル達を追って更に前に行っただろう…
もう少し先に進みながら合流させる機会を探す?
……さすがにあの群れの中を走る勇気はないよ…

終了地点を越えて合流出来そうな場所探すと
合流にちょうど良い脇道を見つけた。
危険も伴うけど、私は早くダリル達の元に行きたい。
スピードを上げて脇道を通り、群れに突っ込んだ。


前と後ろ、ウォーカーの群れに挟みうち。
イーニッドがくれた音の鳴る時計をセットし
前方に投げて意識をそらした。


『ははっ、運が味方してくれてる!!』


こんなの合流させられっこないと思ってた。
でも私は見事やり遂げた!!
最初の群れに私が連れた群れを合流させ
私は森の中をジグザグになりながら走って
今は終了地点を折り返している所だ。
ダリル達が走った通りに走ればきっと見つけられる。

念のため無線で連絡してみよう……


『ダリル!サシャ!エイブラハム!!』


3人の名前を呼ぶが誰も返事をしない…
おかしい。ダリルはさっき返事をしたのに…


『ダリル?ダリル!!!』


ダリルからの返事はない。
サシャとエイブラハムの名前をもう一度呼ぶが返事はなかった。


『お願い…みんな生きててよ…!』


バイクを加速させる。
すると住宅地の様な所にたどり着いた。
辺りには銃痕と死んだウォーカーが…
ここでダリル達は争ったのだろうか?

バイクのスピードを緩めて辺りを見回す。
ずいぶんも前から放置されたであろう車の中には何もない。
3人は一体どこに…?

更に進むと銃で穴だらけにされた車を見つけた。
見覚えの全くない車だ。恐らく敵の物だろう…
バイクを止めて、ハンドガンを持ち中を覗く。


『……死んでる…』


これだけ車を蜂の巣にされたら死んでるか…
扉を開けて死体を引きずり出し、物資を探した。
この車にはいくつかの銃と大量の弾
お水と少しの食料、爆弾、ワイヤー、紐が
積んであったので全てバックパックに入れた。

近くを見てみると足跡が2つ。
この大きくて沈んだ足跡はエイブラハム…?
こっちの足跡は見覚えがある。サシャだ。
タイリースを失って自暴自棄になった彼女を
追いかけた時もこの足跡を見つけて追跡した。
近くには大破した赤い錆びれた車…
2人が乗っていた車に間違いないだろう。

足跡を追ってまたバイクで走りだした。


『小さな…町…?軍隊さんがいたんだ…』


進んだ先には町があって、軍がいた形跡がある。
元からここにいたのか、この世界になって来たのか
前者だろうけど軍がいたということは武器もある?
とにかく…町の中を進んでみよう…

バイクのスピードを落として町を見る。
比較的、綺麗な町のようだ。
うーん……綺麗な町なだけに足跡がない…
あんまりウォーカーもいないみたいだし


「ああぁぁ…」
<…っ!?うわ、グロ…>


思わず日本語で呟いたのはある物を見たから。
どこかから落ちたのか、体がぐしゃぐしゃになりながらも
私を食べようとズリズリ這いずってくるウォーカー。
あまりのグロテスクさに吐きそうになった。
バイクのエンジンを切り、ウォーカーに近付くと
頭にナイフを刺して楽にしてあげた。


『トラックがある…うーん…ここには来てないのかな…?』


トラックが使えるなら2人は逃げていそうだけど…
動かないのかな?それともダリルを待ってる?
それは十分にありえる。とりあえずトラックまで―


「エリー!」
『……サシャ!』


後ろにはエイブラハムも見える。
私はサシャに駆け寄って思いっきり抱きついた。


『良かった…!2人の足跡を追って来たの!』
「ケガはない?誰かに襲撃されなかった!?」
『えぇ平気よ!なんともない!2人も無事?』
「えぇ、おかげ様でね。車は失ったけど」
「エリー。無事でよかった」


エイブラハムが私の肩を叩く。
服が破れていてお腹が少し見えている。


『エイブラハムも無事でよかった』
「あぁ、俺もエリーも服は傷だらけだな」
『ウォーカーの群れに突っ込んだからね』
「なんですって?どうしてそんな危ない事…」
『まぁ、色々あったのよ。着替えが欲しいし
 シャワーだって浴びたいところなんだけど』
「水浴びだったらそこの建物で出来るが?」
『本当!?少しだけ浴びて来てもいい!?』
「私はいいけど…ダリルを待つ予定だしね」
「俺も着替えたい。さっきそこで服を見つけた」
『へー。私でも着られそうな服はあった?』
「あぁ、こっちだ。サシャは休んでてくれ」


エイブラハムに連れられて建物の中に入り
水でシャワーをさっと浴びて血と汗を流す。
シャワールームを出ると青い服が置いてあった。


『エイブラハム?これ着ていいの?』
「あぁ、この施設に置いてあった軍服だ」
『軍服……』
「俺とお揃いは嫌か?」


エイブラハムとお揃いで軍服を着て
サシャの前に出るのを想像すると
呆れた彼女の顔が思い浮かんだ。


『ふふ、ううん。嬉しい。ありがとう』
「あぁ。着たら早く出て来いよ」


体を拭いて用意してもらった軍服に袖を通す。
アメリカって基本的にサイズが大きいから
ブカブカする服ばかりだったのにしっくり来る!
日本系の軍人さんがいたってことかな?


『見て、エイブラハム!ぴったり!』
「ふっ…あぁ…良かったな…」
『…?なに?どうして笑ってるの?』
「いや…?笑ってないぞ。うん」
『………サイズが小さいだけ?
 XSとか?あ、XXSだったりする?』
「子供用だ」
『……え?』
「子供用だ」
『…………』


Kids Size?
……はぁぁぁぁぁ!?
こどっ、はぁ!?
開いた口がふさがらないとはこのことだ…
そんな…私はアメリカではキッズサイズ…


「行こう、サシャに見せに」
『そうね…行きましょう…』


落ち込んだままサシャの前に行くと
彼女はお揃いの軍服に身を包んだ私達を
想像通りの呆れた顔で出迎えてくれた。

そんな時、車の音がしてエイブラハムが
慌てて銃を掴んで窓へと近付いた。
私もライフルを掴んで近付くと2人は
意味深な笑顔で私を見つめた。






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